初戦 1
突如攻めて来たメネス王国軍に対し、メリシャたちは…
翌朝、シェシも交えて朝食中のメリシャの部屋に、息を切らせたサリティスが飛び込んできた。
「メリシャ様、大変です!」
「どうしたの?サリティス」
サリティスの後ろには、シェプトとウゼルもいた。二人とも、厳しい表情を浮かべている。
「メネス王国軍の侵攻です!国境に近いラニルの町がすでに襲われたと…」
「王国からは何か言ってきたの?」
「いいえ、何も…」
「宣戦布告もなしに侵攻なんて…!」
メリシャはテーブルの上で拳を握り締める。
「メリシャ様、王国は我らを対等の国とは見ておりません。これは戦争ではなく、我々への脅しのつもりなのでしょう」
シェプトが言った。
「脅し?」
「…なるほど、王を殺されたヒクソスが反抗なんて考えないように、先制攻撃で戦意を潰してしまおうというわけね……意図としてはわかるけど、不愉快だわ」
フィルは言い、メリシャを見つめた。メリシャは不安そうに見上げるシェシの頭を軽く撫でて、立ち上がる。
「フィル、リネア、行こう!」
「そうだね」
「はい。行きましょう」
フィルとリネアを伴い、部屋の外へと歩き出しながら、メリシャは言う。
「ボク達はすぐラニルに向かう。シェプトとウゼルは動員できるだけの戦士を集め、アヴァリスの守りを固めて。サリティスは他の部族長たちにこのことを伝えなさい」
『ははっ!』
「誰か、ラニルまで案内できる人はいる?」
先頭を早足で歩きながらフィルが尋ねる。
「シェシが案内します。シェシも連れて行ってください!」
「シェシ…」
おそらく行く先ではメネス兵との闘いになる。シェシが自分から案内すると言ってくれるのは嬉しいが、戦場にシェシを連れて行くことをメリシャは迷った。しかし、メリシャの背を押したのはリネアだった。
「メリシャ、構いません。私が守ります」
リネアが微笑む。フィルもそれを止めなかった。ふたりが大丈夫だと言うなら、何も心配はいらない。メリシャも頷いた。
「シェシ、案内お願い!」
「はいっ!」
回廊を抜け、ウゼルとの決闘を行った中庭に出た。中庭の隅でメリシャは足を止め、シェシをそっと抱き留める。フィルとリネアの二人は、そのまま中庭の真ん中に進み出た。
二人の姿がゆらりとぼやけ、フィルは金色、リネアは赤色の眩い光に包まれる。思わず閉じた目を再び開いた時、その場には9本の尾をなびかせた金色の大狐と、その数倍の体躯を持つ赤褐色の巨竜がいた。
「あれは…フィル様とリネア様なのですか?」
少し体を震わせながら、シェシはメリシャを見上げる。
「そうだよ。フィルは大妖狐九尾、リネアは巨竜ティフォン、二人とも神と呼ばれた獣、神獣の力を持っているの」
「メリシャ、シェシ、乗りなさい」
フィルの声が響いた。
シェシの手を引いてフィルに駆け寄ったメリシャは、慣れた身のこなしでフィルの背に飛び乗る。柔らかな毛皮が二人を受け止め、メリシャは自分の前に座らせたシェシをしっかり支える。昔、リネアに自分がしてもらったように。
「いいよ、フィル!」
「よし、行こう!」
フィルは地面を蹴って高く空へと飛び上がる。そしてそのまま風を蹴って空を駆け出した。続いてリネアも竜の翼を大きく広げて巨体を空へと持ち上げ、フィルと並ぶ。
「シェシ、この姿は怖いかもしれないけど、我慢してくださいね」
リネアの声で言った巨竜に、シェシは首を振る。
「最初は驚きましたけど、リネア様はリネア様です。もう怖くありません」
「ありがとうこざいます」
フィルとリネアは、シェシが示した方向、アヴァリスから大河イテルの流れに沿って上流へと向かう。
しばらく飛んだところで、向かう先に黒煙が高く上がっているのが見えた。
シェシが息を呑み、身体を固くする。ギリッと九尾の口元から歯ぎしりが聞こえた。
次回予定「初戦 2」
王国軍に襲われたラニル。町に足を踏み入れたメリシャたちが見たものは…




