部族長会議 2
いよいよ、メリシャたちは部族長が集まる場へ。
陽が落ちて、外がすっかり暗くなった頃、王城の大広間には、総勢10人の男たちが集まっていた。年齢はまちまちで、30代くらいと思われる者から白髪の老人までいる。
部屋の奥の数段高くなった場所に、艶やかに磨き上げられた木製の玉座が置かれ、その前の床に敷かれた敷物の上に、左右に分かれて部族長たちが並び、腰を降ろしていた。
召喚の時にいた神官団とシェシも部屋の隅に控えている。
そこに姿を現したメリシャは、『ウアス杖』と呼ばれる自身の身長ほどもある長い杖を手にしていた。上端には獣の頭を模したような尖った彫刻が飾られ、下端の石突の部分は二又に分かれている。
ウアス杖は、神セトが持つとされている力や支配を象徴する祭具であり、王の象徴であった。
サリティスに先導され、メリシャ、フィル、リネアは部族長たちの視線の中を進む。その視線は、疑念、好奇、苛立ち、そして静観。
メリシャ達を肯定的に見ているのは、シェシと神官たちだけだった。
部屋の奥まで進んだサリティスは、スッと脇に避けてメリシャに道をあける。メリシャは小さく頷き、そのまま上段へと昇る石段に足を掛けた。
「待て!上段に上がることができるのは王のみ。どこの誰ともわからぬ小娘にそのような資格はない!…神官長、どういうことか説明してもらおうか!」
左列の一番上座に座っていた、部族長が怒鳴り付けるように声を上げた。
「ウゼル殿、神セトの現身メリシャ様を小娘呼ばわりとは、無礼ですぞ!」
負けじとサリティスも大声で応ずる。
「神の現身?これは異な事を聞く。確かにそこな二人には神セトを象徴するジャッカルの耳があるが、そのメリシャとやらは人間の小娘ではないか。神官長、まさかメネスの連中と謀っておるのではあるまいな?」
ウゼルと呼ばれた部族長の発言に、居並ぶ部族長のうち何人かが同調して野次を飛ばす。
「こちらは、フィル様とリネア様。お二方はメリシャ様を王にと仰せられております」
「その二人とて、本当に神の現身なのか、わかったものではない。それらしい姿をしたどこぞの異種族を連れて来たのやもしれぬ」
「シェシが命をかけて召喚された方々を偽物だと仰るのか!」
「我らを率いる王を決めようと言うのだ、慎重になるのは当然だ!…神官長、我らは召喚の現場を見ていない。しかも先王の娘の命を代価とするようなことを、どうして勝手に行ったのか」
「儀式のことはシャレク様が無念の死を遂げられた直後から提案していた!神官団の話を無視し続けたのは、あなた方ではないか!」
ウゼルとサリティスの言い合いは、もはや口論に近くなっていた。
「ウゼル様、こちらのメリシャ様とフィル様、リネア様はシェシを生贄とした召喚儀式によって、この地に降臨なされたのです。それは間違いありません!」
たまらずシェシも声を上げた。ヒクソスの未来を真剣に憂いたサリティスが責められ、自分たちに力を貸そうとしてくれているメリシャ達が、偽物呼ばわりされるのには耐えられなかった。
「ならばどうして生きているのだ?召喚が成功したのなら、シェシの命は神に捧げられているはずではないか!」
「フィル様がシェシを憐れんで、傷を治して下さったのです!」
「ほぅ…召喚の儀式は昨夜行われたと聞いている。それに、召喚には命を落とすほどの血が必要なのではなかったか。それほどの傷を昨日の今日で治したなど…そのような偽り、我らには通りませんぞ」
「…っ!」
シェシは、ぎゅっと唇を噛んで俯く。その場を見ていない者には、ウゼルの言うことの方が当たり前に聞こえるだろう。
でも、本当のことなのだ。それをどうしたらわかってもらえるのか、シェシにはその答えは思い浮かばない。信じてもらえないことが悔しくて、涙が落ちそうになった。
「…騒がしい。双方、黙りなさい」
決して大声ではないが、よく通る声が響いた。ステージの下で部族長たちを方を振り返り、メリシャは手にしたウアス杖でカツンと床を叩く。
軽く息を整えて、メリシャは一歩前に出た。フィルとリネアは、示し合わせたようにメリシャの両脇に控える。
フィルとリネアの前では甘えているが、かつて百年もの間、サエイレム女王として君臨したメリシャだ。王らしい堂々とした態度もできる。
「ボクが王になることに異議ある者は、この場に名乗り出なさい。ボクがヒクソスの王となるのにふさわしいか、決闘により示しましょう」
メリシャは、目を細めて居並ぶ部族長たちを見回した。
次回予定「部族長会議 3」
王になるか否か、決闘で決めようと言うメリシャ。戦うのはもちろん…