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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第1章 ヒクソスの新王
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ヒクソス 4

メリシャを王として認めさせるには…?

(フィルは相変わらず過保護じゃのう)

 リネアの中で、くっくっと笑う声がした。

(玉藻様、私も同じ思いですよ)

(ったく、リネアもか…今に始まったことではないが…)


 呆れたように言うのは、玉藻ノ前。かつて九尾の意識だった者の一人である。平安時代の日本、鳥羽上皇の皇后であるが、政敵に陥れられ、上皇を誑かす妖狐として討伐された過去を持つ。

 その実は、高い知性と教養を持つ思慮深い女性であり、九尾の意識を次代に譲った後も、こうして自我を保っている。元は九尾の力を受け継いだフィルの中にいたが、リネアがティフォンと同化する際、その手助けをするためにリネアの中に移った。

 それから500年余、玉藻はリネアの良き相談相手となっている。


(そう言いながら、玉藻様もメリシャを心配しておいでなのでしょう?)

(ふふ、リネアも言うではないか。…まぁ、麿とてメリシャが幼子の頃から500年も見守っておるのじゃからな)

 皮肉っぽい口調とは裏腹に、玉藻が情に厚いのはリネアもよく知っている。 


(玉藻様、この国のことをどうお考えですか?) 

 リネアは少し口調を改めた。

(ふむ。メネス王国とやらに対抗するには、まずはヒクソス自体の問題をどうにかするのが先じゃろうな…リネアはどう見る?)

(そう、ですね……メリシャを王にするからには、まず部族長たちをメリシャに従わせることが必要だと思います…ですが逆に、サリティス殿やシェシたちのように、メリシャや私達に頼り切るような考え方も改めさせた方が良いのではないかと。)

 リネアとて、フィルの隣で政治というものをずっと見てきた。ヒクソスの問題点はすぐに目についた。


(その通りじゃ。フィルが色々と考えておろうが、麿も何か策を考えておこう)

(はい、お願いします)

 リネアの中で会話が交わされている間に、フィルとサリティスの話は、今後の段取りへと移っていた。


「今宵、王城の広間に部族長を集めることになっております。その場でメリシャ様がヒクソスの王となることを伝えるつもりです」

「部族長たちは、納得するの?」

「異を唱える者がいないとは言えません。大変申し訳ないのですが…」

 サリティスは苦い表情を浮かべた。正直言えば、メリシャを王とすることに明確に反対している部族が幾つかある。それに、事態を静観している部族も積極的に賛成しているわけではない。異論が出るのは間違いない状況であった。


「それは仕方ないでしょう…ヒクソスの者たちを従わせるには、何をするのが効果的?」

 フィルとて簡単に納得されるとは思っていない。自分達はヒクソスとは何の関係もない上、ヒクソスに何か恩恵をもたらしたわけでもない。ヒクソスの部族長たちに対し、王として相応しいことを示さなければならない。当然の話だ。


「はい。武術で強さを見せつけるのが効果的です。ヒクソスの民は人間よりも身体能力に優れ、武勇を尊ぶ気性がございます。何か意見の対立がある時は、一対一での決闘で事を決めることも多いのです。それぞれの部族長たちも、代替わりする際に、その部族で最も強い者がなる事が慣例となっております」

 サリティスはフィルに答える。

 そういうしきたりであるのなら、ヒクソスの王は部族長達が認める強い戦士であることが必須条件だと想像できる。シェシの父である先王シャレクも、かなりの戦士であったのだろう。


「なるほど…だから、シェシは王になれないのね?」

「ご明察です」

 サリティスは、悔し気に表情を歪めた。強さを信奉する気質が強いヒクソスでは、女性が王と認められた前例はない。

 王に限らず、ヒクソスの社会では戦士以外の者や女子供は格下と見られる。稀に女性が戦士となることもあるが、女性全般の地位は低い。それは戦士以外の男性も同様だった。


 サリティス自身、神官長としてヒクソスをどうにか立て直そうと前王とともに努力してきたのだが、部族長たちはサリティスを王の腰巾着としか思っていない。

 そんなヒクソスにおいて、先王シャレクは強さ以外の価値も公平に評価できる開明な人物だった。今更ながら、彼を失った悔しさがこみあげてくる。


「それほどの武を誇る種族なのに、メネス王国には敵わないの?」

「はい。個々の武を尊ぶ余り、集団での戦いが不得手なのです。逆にメネス王国軍は集団での戦いに秀でており、我らはいつも個別に撃破されてきました」

「…そう」

 フィルが知っている帝国軍と魔族の構図にそっくりだ。しかし、ヒクソスたちは身体能力的には人間に勝る面もあるものの、巨人族やケンタウロス族といった魔族たちほど強力ではなく、身体面の優越だけで集団戦に対抗することはできなかったようだ。その結果が今の状況なのだ。


「だとすれば…」

(決闘で黙られせればいいなら、妾の出番ってことじゃない?このところ身体が鈍ってたから、久しぶりに暴れさせてほしいわ)

 フィルのつぶやきに応じた妲己の声は嬉しそうだった。


「フィル、部族長への対応、妲己に頼んでいい?」

 フィルとサリティスのやりとりを黙って聞いていたメリシャが言った。


 メリシャがフィルたちと出会う前、サエイレムで開かれた闘技大会のことは、何度も話に聞いた。

 フィルの身体を使って闘技大会に出場した妲己は、魔族も含めた出場者たちを相手に、圧倒的な強さを見せつけ、魔族たちからも一目置かれるようになったのだ。


「もちろん。…妲己も自分の出番だって言ってるよ」

(メリシャもフィルと同じことを考えていたようね)

「ありがとう」

 メリシャは小さく頷いて、サリティスに向き直った。


「サリティス、部族長たちに伝えなさい。ボクが王になるのに不満な者は名乗り出るようにと。その者と妲己が決闘し、妲己が勝ったら王と認めてもらいます」

「わかりました。直ちに申し伝えます…!」

 口調を改めて言うメリシャに一礼し、サリティスは緊張した面持ちで部屋を出て行った。

次回予定「部族長会議 1」

メリシャたちは、ヒクソスの部族長たちとの会議に臨みます。

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