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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第1章 ヒクソスの新王
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ヒクソス 2

ヒクソスの王宮に案内されたフィルたちは…。

 王城に入ったところで、サリティスはフィルたちを迎える準備を整えると言って別れ、シェシが案内に立った。

 庭園に面した回廊を抜け、奥まった一室の前で立ち止まる。部屋の入り口に扉はなく、代わりに布が垂らさられていた。シェシが布を左右に分けて紐で括り、脇に避けて一礼する。


「どうぞ、お入りください」

 部屋はかなりの広さだった。部屋の真ん中には鮮やかな緑色の絨毯が敷かれ、その上には細かな細工が施された長椅子とテーブル、壁や柱には鮮やかな彩色が施されている。

 赤系の装飾が多かったサエイレムや帝国と比べ、青や緑を主体とした色使いが新鮮に感じられる。先にも部屋が続いているようで、奥に藍色の布が垂らされた入口が見えた。


「シェシ、案内ありがとう」

 部屋の入り口に控えるシェシを振り返ってフィルは言った。

「はい…あ、あの…」

 シェシは、胸の前でぎゅっと手を握り、俯き加減に口ごもっている。


「シェシ、何か話したいことがあるのですか?」

 目の前にしゃがんで言うリネアに、シェシは驚いて顔を上げた。

「リネア様、…いえ、その…」

「さ、こちらへ」

 リネアはシェシの手を引き、部屋の長椅子に座らせる。あまりにも自然な動作に、シェシはいつの間にかフィルとメリシャの向かい側に座っている自分に気付く。


「どうぞ。口に合えばいいのですが」

 どこから取り出したのか、コトリ、とシェシの前に湯気の立つカップが置かれた。リネアは続いてフィルとメリシャの前にもカップを置き、自らもシェシの隣に座る。

「いただきます」

 フィルは微笑んでカップを口に運ぶ。


「うん、今日もおいしいよ」

「ありがとうございます。フィル様」

 リネアが淹れるのは、大麦を焙煎して作るお茶である。フィルの側付になった時から毎日のように淹れてきた。

 ティフォンの力を手にしてからは、何もない場所でも能力を駆使して淹れられるようになった。昔、神の力の無駄遣いだとパエラに呆れられたこともあるが、フィルが喜んでくれるのだから無駄遣いだとは思わない。


「シェシも、飲んでみて」

 フィルに促されて、シェシもおずおずとカップを手に取った。カップに満たされた濃い琥珀色の飲物を口に含む。ふわりと香ばしい風味が広がり、続いて軽い苦みと甘みがやってくる。

「おいしい…」

 ほぅっと息を吐き、シェシはつぶやいた。初めて口にした飲物だったが、とても心が落ち着く味だった。


「シェシのこと、聞かせてくれないかな?…どうして、召喚の生贄になんかに…」

 少し悲し気に見つめるフィルに、シェシはハッキリとした口調で答えた。

「シェシは、父様の仇が討ちたくて…それに、ヒクソスの民がもっと安心して暮らせるようにしたいのです。でも、シェシにはそんなことはできません。だから、この命と引き換えに神様が来て下さるのなら、と思いました」


「お父上は、亡くなったの?」

「はい。シェシの父様はヒクソスの先王シャレクです。一月ほど前、メネス王国に上納の減免を交渉しに行き、王国の兵に討たれました。全く交渉に取り合ってもらえないことに怒り、メネス王に斬りかかったと…でも、シェシには信じられません」

 王に随行した者も全て討ち取られ、その状況を見た者はヒクソスには誰もいない。適当な理由をつけて暗殺されたと考える方が自然だった。


「…そっか…」

 フィルは、最初の頃のサエイレムと帝国本国の関係に似ていると思った。自分は九尾の力のおかげで身を守ることができたし、エルフォリア軍という本国に一目置かれる軍事力もあったから、本国も簡単には手を出せなかった。

 しかし、そうでなければ…この国のようになっていたかもしれない。


「シェシは、ヒクソスのお姫様なんだね。それなら、王位はシェシが継ぐべきじゃないの?」

「それはできません。シェシは弱いから……」

 シェシは小さく首を振る。


「神セトの眷属であるフィル様たちこそヒクソスを率いるのに相応しいと思います。きっと我らをお救い下さると信じております」

 黙って聞いていたメリシャは微妙な表情を浮かべ、どうする?というような視線をフィルに向ける。


「…期待が重いなぁ」

 苦笑交じりに言いながらも、フィルの目が少し厳しいのにリネアは気付いていた。

次回予定「ヒクソス 3」

王になって欲しいと言われたものの、ヒクソスも一枚岩でないようで…

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