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夢獣夜 第1夜 カピバラの不眠症  ★夢の中で獣になったっと思ったら、なんか上下関係が かなり厳しくて辛いんですけど!!

作者: しろろゼンマイ

★夏目漱石の【夢十夜】の始まりの一節が好きで、タイトルと終りもちょっと使わせて頂きました。中身は全く関係ないです!

こんな夢を見た。

唐突になんだこいつ?って思うかもしれない。

だがちょっと説明させてくれ。これは俺、渡里部十夜わたりべとうや

23歳にとって初めて起こった未知との遭遇ってやつなんだ。


******


俺は自慢じゃないが、人より寝つきがいいほうである。

横になれば3秒で眠りにつける為、家族や友人から『のび太君』なんて

言われる程だ。そんな俺がいつものように、布団に入った途端眠りにつくと。


『ねえ、そこの君、僕と契約して【夢獣】と戦ってくれないバク?』


どこかで聞いたような、台詞が頭の中に響いた瞬間。

グッと体が上空に吹き上げられる感覚で思わず目を開けると、

目の前に小さな物体がふわふわと浮かんでいた。


『やあ!僕は夢境界の番人、獏の夢ポンだよバク♪』


夢ポンと名乗った、そのやけに声高なミッキーマウス的な代物は、

獏とも名乗ったが、どう見ても狸のぬいぐるみにしか見えなかった。


『バクー♪』


もしかしてそれは鳴き声のつもりなのだろうか?その容姿からというか

動物の鳴き声ですらなく、ただ喋ってるだけだよね?

可愛さのアピールなのかもしれないが逆に怖いから。突っ込みどころは満載だが、

こうしていても話が進まないので十夜は夢ポンと名乗る物体に聞いてみた。


「さっきの契約とか戦うって何だ?ていうか、ここは一体どこなんだ?!」


『フフフ、慌てないでバグ』


そう言って夢ポンと名乗る物体は、ぱっと片方の目のボタン辺りに短い腕を

かざした。もしかしてウインクのつもりなのだろうか、ぬいぐるみだから

目なんか閉じれないし、あと手が短すぎて目まで届いてさえいない。


ついでに語尾にバクをつけるのは、見た目が獏に見えないからなのか。

何を目指しているか分からないが、こういうのはキャラ付が大切なんだと

思う事にして、十夜は夢ポンの次の言葉を待つことにした。


『さっきも言ったけど、ここは【夢境界】といって、夢と現実の狭間の世界さ。

そして君は僕と契約して【夢獣】と戦ってこの歪んでしまった夢境界を、

直して欲しいんだバク♪』


「ん?つまり俺は今夢を見てるのか。なんだ、やけにリアルだから驚いたけど、

そうだよな、こんなの現実にある訳ないよな」


『違うバク、ここの夢獣を倒さないと君は永遠に眠ったままだし、

その姿のままになるバクよ』


バクバクうるさいが、聞き捨てならない言葉が引っかかった。


「その姿のままって・・・うわー!!何じゃこりゃ手がケモノになってる!」


『手だけじゃないバクよ、ほら』


そういって夢ポンは、お腹の辺りからにゅっと大きな鏡を取り出した。

ドラえもんか!とつっこんでいる場合ではない、今自分の体はなぜかカピバラに

なっていたのだ。


カピバラは世界最大のげっ歯目、つまり巨大なネズミの仲間だ。

日本でも多くの動物園で飼育されていて、見た目の可愛さなどで人気を

集めている。のんびり和み系のその姿に、十夜も一回は撫でてみたいと

思ってはいたが、まさか自分がカピバラになるとは思ってもいなかった。


「な、なんで俺カピバラになってんの?!」


十夜の体はカピバラに変わっていた。それも2本足でちょこんと立っている

状態である。本来動物は四足歩行なのだが、自分は2本足で立っている為、

今まで体の変化に気付けなかったようだ。


なぜ突然2足歩行?人間の名残だからか、夢だからか。

ぐるぐると何の解決にもならない事を十夜が悩んでいると、

すかさず夢ポンが言った。


『その姿は、この夢境界で助けを求める獣の姿バク!


「助けを求める、このカピバラが?」


『じゃあ本題に入るね、君知ってる?

カピバラは群れを成して生活してるんだけど、上下関係がとても

厳しいんだバク。ヘタすると殺し合いだよ♪』


恐ろしい言葉をさらっと言われ、思わず聞き返してしまう。


「こ、殺し合い?あんなに可愛いのに?!」


『群れの中で立場の順位があるんだ。エサなんかも立場が上のカピバラが

先に食べ、その隙を縫うかのように下のカピバラが食べるんだよ。

お風呂なんかも、上位のカピバラが入っていると入れないとか、

結構シビアな世界なんだバク。まあこれがカピバラの社会だから

たくましく生きていくしかないんだけどね』


知らなかった。テレビや動画でカピバラの入浴姿に癒されていた自分としては

聞きたくない情報だったように思う。次からどうしても違う目で見ちゃうから。


「でもそれで、俺にどうしろっていうんだ?」


『だから今回の夢獣は、群れの中で立場が一番下のカピバラが極度のストレスに

堪えられず、不眠症になったことで出現したものなんだバク』


「えー不眠症!?動物もなるのかよ。ていうか何でそれで人間の俺がここで

戦うことになるんだ?」


『それは偶然というか、3秒で眠れる奴許せん、とかそういう感じー?

まー選ばれちゃったんだからほら、早く契約して歪みを直さないと帰れないし

姿も戻れないバクよ!』


「まじか、そんな理由で・・・」


どうもこの不思議物体は、テンションが高いというか気が抜けるというか。

もうどうでもいい気がしてきた。

がっくりとうなだれる十夜だが、その姿はカピバラであるため可愛らしい。


「こうなりゃ契約でも何でもやってやる!それで速攻この夢とはおさらばだ!」


確かにこのストレス社会、俺も社会人になってからそんな苦渋な話をちらほら

聞いたことがある。人だって動物だって辛いのはそりゃ同じだろう。


だが、自分で言うのも何だが十夜には3秒で眠れる特技の他にも、

切り替えが早いというか、嫌なこと等があっても3歩で忘れる特技があるのだ。

鳥頭か!と短所とも長所とも言われるが、くよくよ悩んでいても何も解決

しないし、まずはやってみる、が十夜のモットーなのである。


「で?契約ってどうやるんだ。痛いのは勘弁なんだけど」


『あ、実は契約はここに入れた時点で済んでるバクよ♪』


「何だそれ」


何ともいい加減なことだが、これは夢なのだしご都合主義で仕方ないのか。

とりあえず痛い思いはしなくていいようなので一安心する。


「そうすると、俺のこの姿にも何か意味があるんだよな?

さっきも戦うって言ってたし、なんかすげーパワーが宿ってるとか?」


『それはただのカピバラバク』


「は?」


『その姿は、この夢境界の歪みの原因のもとバク、だから君はその姿で

この世界から消えてくれるだけでいいバクよ!』


さらっと恐ろしい言葉を言われたが。


「え?ちょっと消えるってどういう・・・」


『自爆バク!』


「はーー!?」


『だから自爆バクよ、君がこの歪みの原因ごと消滅すればこの世界は

救われるバク!』


「戦いはどこ行ったー!」


どやっとそんな事を言われても、はいそうですか、なんて言えるか!

戦うと自爆は全然意味が違うからね。ヒーロー的な何かを考えていただけに

気持ちが追いつくはずがない。


『大丈夫、大丈夫。僕が起爆剤だから心配ないバク♪』


そう言って更に不穏な台詞を吐き、夢ポンは十夜のお腹、もといカピバラの

お腹にぴたりとくっついた。


「ちょっ・・」


ちょっと待て!お前も一緒だから大丈夫とかそういう問題じゃないからね。

死なばもろともともいうけど2人だからって、安心できるものじゃないから!!

今は自分も人ではないけどね!もしかしてこいつがぬいぐるみ的な姿なのは、

この為だったりするの?だったら怖いんだけど!!

などと十夜がまたもぐるぐると無意味な事を考えていると。


『カウントダウン、3バク』


「ちょ、カウント短い!待ってくれまだ心の準備が・・!!」


十夜がわたわたとカピバラの短い手足をバタバタしている中、夢ポンの

無情のカウントダウンが響く。


『・・1バク!ファイヤーーーーー!!』


テンションの上がった夢ポンの声と共に、目の前がまばゆい光に包まれ真っ白に

なっていった。


******




「!?」


がばっと十夜は、布団から跳ね起きた。


全身汗だくで気持ちが悪い。

手元の目覚まし時計を見ると、起きるには早すぎる時間で、

辺りはまだ太陽が昇っておらず薄暗いままだ。


いつもの自分なら、目覚ましがなっても起きないほど寝起きが悪いのだが、

こんな風に明け方に目が覚めてしまうのは非常に珍しかった。


「?、なんだっけ、何かすげー変な夢見た気がする」


そう言ってカーテンの隙間から、思わず遠い空を見たら、

暁の星がたった一つ瞬いていた。

「夢だよな」と、今までの自分なら夢の事など気にも留めない筈なのにと、

この時始めて気がついた。


おわり


ここまで読んで頂き、ありがとうございました(>_<)

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