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第7話 ボーっとしてたがゆえに後輩を案内することになった。

昼休み。俺は一人廊下を歩いている。

友達といえる人物が裕二しかいない俺からすると、ぼっちなのは珍しいことじゃないが、今回のぼっちにはしっかりとした理由がある。

今日は昼休みに図書委員の仕事があるのだ。

図書室に向かう時は一緒に行きたいと白谷さんからお誘いを受けていたのだが、肝心の白谷さんが「お手洗いに行くから先に行ってて。」と言ってきたため、俺は一人で図書室に向かっているというわけだ。

そんなやり取りを二人でしていると横からふみが、「図書室くらい一人で行けばいいのに。ほら、はやく行った行った。はやく行かないと、陽花里が追い付いてくるわよ。」といった感じで、白谷さんとはあまり近づいてほしくなさそうな様子だった。

仲が悪い相手と幼馴染の俺が、一緒にいるのが嫌なんだろう。

他人の好き嫌いにとやかく言うつもりはないが、二人の仲が良い方向に進んで欲しいとは思ってしまうものである。


なんてことを考えていた時だった。

「すみませーん。あの、図書室に行きたいんですけど、新入生で道わからなくて。よかったら案内してくれませんか?」

先ほどまでの考え事は見る影もなくなり、俺はその大きくてきれいな瞳に思考を奪われてしまっていた。

とんでもない美女が俺に話しかけてきたのだ。

芸能人といわれても信じてしまうだろうし、そもそももうどっかの芸能事務所に入ってるんじゃないのかというレベルのものだ。

身長はふみより少し小さいくらいで、150cmと少しといったところか。

黄唐茶色のボブヘアがよく似合っている。その髪の長さは顎上くらいで、同じボブヘアの白谷さんよりもふんわり感はやや控えめである。

「ちょっとー、何で無視するんですかぁ?」

「え、いや、ごめん。もう一度言ってくれる?」

「図書室に案内してほしいんです。新入生で道わからなくて。」

容姿に釘付けで、内容がまるで頭に入っていなかった。

ちょうど図書室に行くところだしちょうどいい。案内くらいお安い御用だ。

「あ、ああ。いいよ。」

「ありがとうございます!ボーとしてたからこの人やばい人なんじゃないかと思ってましたけど、親切な人で良かったです!」

明るい声色と笑顔と、急なディス。

確かにそう感じさせてしまうような挙動をしていた気もするが。

「ならなんで声かけたんだ・・・。」

「なんかヤンキーだったとしても、怖そうじゃないし、イケメンでもなかったので緊張しないかなって!」

ディスをカバーするディス。

まあまあグサッと来るからやめろ。

「あ、イケメンじゃないですけど、ブサイクじゃないですよ?自信もってください!」

フォローしたつまりなのか、かなり自慢げな顔からの笑顔。何この子、可愛い笑顔だと何でも許されると思ってんの?

そんな甘い奴らが、モンスターを世に生み出していくんだと世の中の哀れみを感じながら、俺は彼女を許した。

「あ、私、黄山玖瑠未きやまくるみって言います!一年です!」

「俺は黒川駿。二年だ。」

「じゃあ先輩ですね!黒川先輩って呼んでいいですか?」

そしてすこしの会話からわかったことがある。彼女、あざとい系女子だ。

元からキラキラした瞳だが、そこにさらに意図的な輝きも足している。

そして安定の上目遣いに甘い声。

ラノベで出てくるような、やりすぎなあざといキャラは好きじゃないのだが、実際に触れると正直

悪くないものである。

「別に構わないが・・・。なら俺は黄山って呼ぶ。」

「くるみでもいいですけど!」

「え・・・!ま、まずは苗字呼びから・・・」

距離感の詰め方がすごい。俺が陰キャだからなのか、彼女が陽キャだからなのか、いや両方か。

「そうですね。じゃあ、案内よろしくお願いしますね、黒川先輩?」

すると黄山はいきなり俺の腕にしがみつき、ぐいぐい引っ張る。

「お、おい、腕組むのはさすがに・・・」

「別に誰も見てませんよー。」

人目につくような場所ではないが、問題なのはそれじゃない。

女性経験のない俺にとって、こんな美女と腕組みなんてハードモードすぎる。

「というか、人肌を感じてるだけなんであんまり気にしないでください!くるみ、友達いないですし・・・。あっ!別に先輩に気があるとかじゃないので!」

少し、いやかなり気が浮ついていた俺だったが、黄山の一瞬の曇りがかった表情を見逃さなかった。


俺が欠ける言葉を見つけられずにいたそのとき、凄まじい勢いで走ってきた何者かが、俺と黄山を引きはがした。

「どわ!」

「きゃっ!」

「ハアハア・・・。く、黒川くん・・・。こいつは誰?」

正体は白谷さんだった。助かったといえば助かったのが、白谷さんが恐ろしいほどに怖い目で俺を見る。一緒に下校したときのあの穏やかな目とは真反対である。

「あ、ああ、さっき会った一年の黄山さんだ。図書室まで案内してくれって。」

「さっき会ったばっかの相手と腕を組むんだ・・・」

「ご、誤解だ!黄山のほうから組んできただけで・・・」

「へえ・・・」

確かに黄山から腕を組んできたとはいえ、気分が浮ついていたのも事実だ。

このままじゃただのたらし認定されてしまう。どう疑いを晴らそうか。

すると、次に口を開いたのは疑いを晴らそうとする俺でも、疑いを深める白谷さんでもなく、黄山陽花里だった。

「こんにちは!黄山玖瑠未といいます!もしかして黒川先輩の彼女さん?」

「彼女っ・・・!」ボッ

白谷さんの顔が真っ赤になっている。

ここで普通なら彼女と疑われて照れていると解釈するのだろうが、敏感な俺は違う。

これは白谷さんが人間慣れしてないから、人と話すのが恥ずかしいだけである。

彼女といわれて照れてる説を除外したのは、俺は会って数日で惚れられるほどのスペックじゃないからだ。自分で言ってむなしくなるが、敏感であるためにはある程度自分を客観視するのが大事なのだ。多分。

だから白谷さん、ここは俺に任せろ。

「彼女じゃないよ。友達の白谷さん。同じクラスで委員会も一緒なんだ。」

「そうでしたか。誤解してごめんなさい。白谷先輩、こんにちは。」

「こ、こんにちは。」

ギロッ。めっちゃ俺を睨んでくる。

まだ俺を疑っているのだろうか。

それとも助け船が遅かったか?だとするならばまだまだ俺の敏感力は足りていないようだ。

「へえ、そういうこと・・・」ボソッ

「ん?何か言ったか?黄山。」

「いえいえ、何でもないですよ。」

「黄山さん?何で黒川くんに声掛けたの?」

「そんなの決まってるじゃないですか。私のタイプだったからですよ?」

「なっ!!!」

「どうした白谷さん!口が開いるけど・・・」

白谷さんの口は開いたまま、なかなか閉じない。まるで石像になってしまったかのように微動だにしない。

まさか、なんでこんな俺みたいなやつがタイプになるんだとかと思って呆れてるのか?

だとしたらかなり傷つくぞ。いいだろ俺のことがタイプな子がいたって。

というより、さっきからの黄山の言動、ずっと白谷さんをからかってるのがよくわかる。


(やっぱり白谷先輩って、黒川先輩のこと・・・。おもしろそうだから、時々からかっちゃおかな。)

「なんて、嘘ですよ、白谷先輩。話しやすそうだったからです。」

「そっか、よかっ・・・、じゃなくて、べ、別にどっちでもいいけど。」

よかった。おそらく誤解は解けたみたいだ。

「じゃあ先輩。案内よろしくです!」

「ああ。じゃあ行こうか。」

いざこざご生まれて消え、本来の目的である案内をしようとしたその時、俺が予想だにしていなかったことが起きる。。

「ど、どうしたの白谷さん・・・?」

白谷さんが腕にしがみついてきたのだ。

白谷さんってこんな大胆だったのか?てかなんでいきなり?やばい近い。いい匂いする・・・。そんな思考が頭の中を駆け巡っていた。

「ど、どうしたって。会ってすぐの人とこんなことしてたくせに、何日も経ってる私とするのは嫌なわけ?」

白谷さんが再び俺に向けた恐ろしく怖い目は、俺の浮かれ気分を一瞬でどこかに追いやった。

「い、嫌じゃないが・・・、じゃあ行こうか。」

「う、うん。」

浮かれ気分が無くなり、正常な思考に戻ったことで頭がさえわたり、俺は白谷さんの行動の理由がわかってしまった。

白谷さんはきっと知らない人と話して、しかも勘違いまでされて疲れたんだろう。証拠として、少し足を震わせている。

小鹿のような白谷さんを腕に連れながら、俺たちは図書室へ向かった。


(勢いで言っちゃたし、腕に抱きついちゃったけど、ドキドキやばい。足震えてる。しぬ。)

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