未来の旅人
連載小説です。読んでいくうちに面白さが分かってくると思うので是非読んでみてください。
第一章『退屈』
「…なぁ、シュウ、現実って何だ?ただ単に日々を送ることか?」
「…お前、最近そんな質問ばっかりじゃなねぇか。部活とか入ればいいじゃん。要するに…暇なんだろ?」
「…野球やるにはお前がいなきゃだめでよ。お前も分かるだろ?」
「まぁ、そうだな…。何せ俺とハルは一心同体っていう感じだったからな。」
ハルとシュウ、二人は授業を終え、四月に入学した高校のベンチで話していた。ハル、彼の名は岡晴紀。文字通り高一の生徒。高校に入ってからも野球を続けるつもりであったが、シュウがボールを投げられない程に壊してしまったため、野球を断念した。特に趣味はなく、なんとなく日々を過ごしている。
シュウ、彼の名は徳元修太彼もまた高校で野球を続けるつもりだったが、肩を壊してしまい、野球を断念した。いろんな情報を集めるのが趣味で、最近ハマっていることがあるらしい。
「ハル、『Planβ』って知ってるか?」
「『Planβ』?…知らんなぁ…」
「Planβっていうのはもう一つの世界っていう意味を含んだ言葉らしい。」
「もう一つの世界?それは一体どういう意味だ?」
「それは俺もよく分からん。噂だが、Planβから今のこの世界に戻って来れた人はいないらしい。」
「それは怖いな…、あまり行く気にはなれんな」「Planβに行く人はPlanβの使者『レンダーV』に二週間に二人選ばれるそうだ。」
「二週間に二人かぁ…。じゃあ、確率的にはかなり低いじゃん。」
「いや、そうとも言えん。最近になってこの付近の失踪者が急に増えてきてるんだ。」
「たまたまだろ?」
「どうかな?」
晴紀は少しだけそのことを気にした。修太の言っていることが、あながち嘘には聞こえなかった。Planβ、それは実在するのか、それとも実在しないのか。修太にも分からないものだ。
「さて、こうしていても何が起こるでもない。帰ろうか。」
「そうだな。じゃあな。また明日な、ハル。」
「おう、また明日な。」
二人はそれぞれ帰った。出身中学は同じだが、家は離れているため、一緒に帰ることはできない。晴紀の家はまぁ、チャリで10分ぐらい。近場でちょうどいい高校だ。
「ただいま。さくら、帰って来てるか?」
「あ、お兄ちゃんお帰り。今日も早いね。」
「何の部活にも入ってないから早いのは妥当だよ。」
「分かってるよ。お兄ちゃんが野球をするには徳元さんがいなきゃいけないもんね。」
「そういうことだ。…じゃあ、部屋にいるな。」
「は〜い。夕飯作るから待っててね。」
晴紀は妹のさくらと二人暮らしだ。母は若くして病気で亡くなってしまい、父は単身赴任で別のところで暮らしている。晴紀は自分の部屋に行った。まぁ、いつも通りごちゃごちゃしている部屋だ。
「何か最近マジで暇だなー。面白いこととかないかなぁ…」
「…ならばPlanβに行くのはどうだ?」
後ろから聞き覚えのない声がした。
「声…?誰かいるのか!?」
晴紀は後ろを振り向いたが、誰もいない。
「さっきのは一体…?」
すると、また後ろから声がした。
「…暇なのだろう?ならば私に手を貸してくれ。」
「おい、どこにいる!出て来い!」
晴紀がそう言うと、妙な格好をした人が現れた。
「うおぃ!貴様ぁ、何者だ!?」
「…私はレンダーV、Planβの使者だ。君にペンを渡しに来た。」
「用件は分かった。だが、なぜ俺に…?」
「…特に意味はない。」
「俺は無理だ。他をあたってみてくれ。」
「…今回、君を選んだのはあながち意味がないわけでもない。私は直感したのだ。君ならPlanβで生き延びられると。」
「アンタがどう言おうと俺はPlanβっつうとこには行かねぇよ。」
「…Planβはこの世界の未来の世界。君は崩壊しつつあるこの世界の未来を変えられる人間だと、私の直感がそう言っている。」
「…分かった。そのPlanβとやらに行ってやる。ただし、一つ条件がある。…明日学校で渡してくれ。一緒に行きたい奴がいるんだ。」
「…学校で渡せばいいんだな?では、そうさせてもらおう。」
レンダーVはそう言い残し、姿を消した。それと同時にさくらが部屋に入って来た。
「お兄ちゃん、ご飯の用意出来たよ。」
「ありがとう。いつも悪いな、さくら。」
「大丈夫だよ。あたし、もう子供じゃないから。」
「あぁ、そうだな。さくらはもう受験生だもんな。」
「じゃ、ご飯食べよ。」
「分かった。もう少ししたら…っておい、手ぇ引っ張るなよ。…全く、しょうがないなぁ…」
晴紀とさくらは夕飯を食べ始めた。
晴紀にとってさくらは大事な妹だ。よくよく考えたらさくらとPlanβに行くべきではないかと思う。
「…なぁ、さくら。Planβって知ってるか?」
「うん、知ってる。でも名前だけだよ。」
「実はさっきな、Planβの使者レンダーVが俺の部屋に来たんだ。」
「もしかして、選ばれたの?」
「まぁ、そういうことになるな。」
「お兄ちゃん、いなくなっちゃうの?あたし、そんなの…」
「だから、一緒にPlanβに行こう。そうすりゃ一緒にいられる。」
「…でも、危険なとこなんでしょ?」
「心配するな、もし、さくらが危険な状況になったら守ってやるからさ。」
「…お兄ちゃんがいないなんて寂しすぎる。だから一緒に行く。」
「俺もさくらがいないとダメだからさ…あと、修太も行くから。」
「うん、分かった。」
晴紀とさくらは夕飯を食べ終えた。そして、さくらもPlanβに行くことになった。
「さて、片付けは俺がやるから部屋で休むなりしててな。」
「分かったよ。じゃあ、よろしくね。」
晴紀は片付け始めた。今日はいろいろと考え事をしている。自分とさくら、そして修太は明日Planβへと行かなければならない。この世界に戻って来れるという保証もない世界に行かなければならない。ただの暇つぶしではなく、命をかけた旅なのだ。そんなことを考えながらも晴紀は片付けを終えた。
「さて、片付けも終わったな。今日はもう寝ようかな。」
晴紀は勉強する気にもなれなかったから寝ることにした。
「さくら、俺はもう寝るわ。おやすみな。」
「うん、あたしも寝るよ。おやすみ〜。」
晴紀とさくらは寝ることにした。晴紀は自分の部屋に行った。
「さて、寝るか。」
晴紀はすぐに寝た。Planβ、その世界を思い描きながら。
そして、朝は来た。
「お兄ちゃん、起きて。学校遅れるよ!」
「さくら、今日はやけに早起きだな。やっぱ落ち着かないのか?」
「…うん。」
「Planβに行くの、やっぱ止めておくか?」
「ううん、行く。」
「そうか。じゃあ、四時頃に高校に来てくれ。」
「うん、分かった。あ、朝ごはん出来てるよ。」
「…よし、じゃあ、食べようか。」
晴紀とさくらは二人で食べた。その朝ごはんはなんとなくいつもより美味かったように思えた。
「じゃあ、さくら。高校に四時頃ってことで。」
「分かったよ。じゃ、また後でねー。」
二人はそれぞれ学校に行った。晴紀が学校に着くと、ちょうど修太も学校に来た。
「お、ハル。よー。」
「おっす、シュウ。なぁ、俺な、レンダーVに選ばれたんだけど…」
「…何?レンダーVに?」
「あぁ、そうなんだ。だからシュウ、行こうぜ、Planβによ。」
「…いいんじゃないの?間違いなくこの世界より面白いだろ?」
「じゃ、決まりってことで。あと、さくらも一緒に行くから。そこんとこよろしく!」
「分かったぜ。またいつものベンチでな。」
二人はそれぞれのクラスに行った。そして、授業を受けた。晴紀は寝なかったが、ぼーっとしていた。
「さて、そろそろ行くかね。」
晴紀はベンチへと向かった。ベンチに着くと、さくらがもういた。修太はまだ来ていない。
「さくら、待ったか?」
「そんなでもないよ。修太さんはまだ来ていないようだけど…、あ、来た、来た。」
「シュウ、遅いぞー。」
「悪い、悪い。ちょっといろいろあってな。」
「さて、そろそろレンダーVが来るはずだ。シュウ、さくら、準備はいいか?」
「いいぜ、いつでも。」
「大丈夫。行けるよ。」さくらと修太がそう言うとレンダーVが三人の前に姿を現した。
「…少年たちよ、準備はいいようだな。」
「あぁ、いいぜ。いつでもよ。」
「…三人の旅人たちよ、まずはペンを授けよう。」
そう言ってレンダーVは三人にそれぞれペンを渡した。
「…そのペンの横にスイッチがあろう。そのスイッチを押しながら空中に『Go to the Planβ』と書くのだ。そうすればPlanβの世界に行くことができる。」
三人はそれぞれペンで空中に書いた。すると三人はいつの間にか荒涼たる世界に立っていた。空は一面分厚い雲に覆われ、太陽の光は一筋もない。それに、人が一人もいない。この世界がPlanβ…三人はなぜこの地に立っているのか理解できずにいた。
「どこだよ、ここ…」
「Planβ…?まさか、こんな廃墟だったなんて…」
「人が誰一人いないって、一体…?」
そう、これが命懸けの旅の始まり。Planβの旅人たちの物語。