あるいはある探偵の私記
直子がこんな場所に来ていること自体不思議だった。直子は数年前別れてから消息を絶っていた。
僕はヒョウのような表情をしてたと思う 。同じ頃新聞にこんな見出しが載った。‐首切り殺人鬼都内に
出没か‐その記事を無表情に見つめていた僕はきっと狂人のような恰好をしていたと思う。だぶだぶの
ジーパンを履いて、よれよれのシャツを着てネットで一日中意味のない画面を見続ける生活にはいい加減
飽きていた。一日に何回自殺しようかと思ったかわからない。PCの画面を見続けているとテレビの砂嵐を
見続けているような錯覚におちいる。そんな時ドアをノックする音が聞こえた。たぶん母親だ。僕は無視して
PC画面を見続けた。
‐入るね
‐・・・
‐部屋の掃除しとくから
‐・・・
僕が返事をしないでいると勝手にYESだと解釈した母親が部屋に掃除機を持ってきた。僕はPC画面を閉じ
1階にある台所へと向かった。台所でコーヒーを飲んでるうちにもあの新聞記事が頭をよぎる。あの記事と
自分は無関係だと頭ではわかっていてもなぜか混乱する気分に陥る。その混乱を落ち着かせるため僕はさらに
コーヒーをがぶ飲みする。リビングにあるテレビからは新聞記事とは全く関係ないスポーツのニュースが流れてきた。僕はあくびをした。居間にある時計を見ると午後4時を指していた。