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第7話 オレの隣の美少女に小説の批判をした

「よお、誠一。昨日の『異世オレハーレム』見たかー? ひでえよなあの展開。やっぱなろう系ってクソだわなー」


「あ、ああ。そうだな」


 それからしばらく、友人の亮が昨日放送された『異世オレハーレム』の感想を言うべくオレのところにやってきた。

 チラリと横目で華流院さんを見るが、特にこちらを意識した様子はなく、なにやら読書にふけっている様子だ。


「つーかあの主人公の「これくらい普通だろう?」っていう無自覚無双いつまで続ける気だよー。ほんと最近はアニメ業界もそのへんにあるなろう小説を適当に映像化してさー。他にも色々あるだろうに見る目ないよなー……ってお前、何見てるんだ?」


「ああ、これ? 『異世オレハーレム』の原作小説」


「マジで!? つーか買ったの!? よくあのクソアニメ見て原作買う気になったなぁ……」


「まあ、どうせ批判するなら原作も見ておこうって思ってさー。もしかしたら原作の方は少しはマシになってるかもだし」


「で、結局どうだった?」


「いやー、やっぱ原作もあんまり変わらないなー。アニメで端折ってる部分はちゃんと描かれてるんだけど、それでも全体の流れはおんなじだし。ハーレム、俺ツエー、無自覚無双。大体こんな感じで事件が起きても主人公一人で解決、ヨイショの流れでよくある劣化なろうだよ」


「やっぱりかよー。つーか、そこまで言われると逆にオレも怖いもの見たさで見たくなるなー。確か漫画もあるんだよな? 今度ネタで買ってみようかなー」


「ああ、いいんじゃね? じゃあ、それ買ったら今度見せてくれよ」


「オーケー。それじゃあ、また来るよ」


 そうして亮の背中を見送ったオレは早速、昨日購入したばかりの『異世界転生したオレのハーレムが日本に侵略しに来た』を読み始める。

 いやー、まだ半分くらいだけど、やっぱクソだわー。


「誠一君。それ買ったんだ」


「え?」


 隣を見ると、いつの間にかこちらを見つめている華流院さんの顔があった。

 心なしかその笑顔はいつもよりも優しげに見える。


「う、うん。まあね」


「それ、誠一君がクソって言っていた小説よね? どうしてわざわざ買ったのー?」


「そ、それは……まあ、批判するにはちゃんと原作読んでから批判しようかなって」


「ふーん、そうなんだー」


 そう言って笑顔のまま華流院さんは手に持った本に視線を落とす。オレも同じように読書を再開しようとするが……。


「で、具体的にどのあたりがダメだった?」


「へ?」


「その本。よくある劣化なろうって言ってただけど、具体的にどこがダメだったー?」


 始まった。華流院さんの絡みだ。

 だが、オレはこれを予測しており、すでに小説の各所に貼ってあるラベルとそこに挟んだメモを取り出す。


「じゃあ、言わせてもらおう。まず序盤のこの主人公がヒロインと裸で出会うシーン。ヒロインは「きゃー!」とも言わず、その場を襲おうとしたゴブリンを倒した主人公に惚れるシーンだけど、わざわざ裸である意味が分からない。明らかにエロで読者を釣ろうという魂胆が見えるね。それからアニメでもそうだったけど、異世界人の知識の低さがおかしすぎるだろう。なんで戦いなのに全員正面から戦ってばっかりなの。主人公の「待ち伏せしよう」の一言に「その手があったかー!」みたいに全員が驚愕するシーンとかギャグ以外の何物でもないよ。それから誤字が多すぎ。担当とかチェックの人達は何やってるの? まだ中盤だけどオレがチャックした中でも誤字は五箇所はあったよ。これあとで出版社にメールするつもり。あとそれから……」


「誠一君」


 ビクリとオレの体が跳ね上がる。

 や、やばい。そろそろ華流院さんがキレて、オレの首を絞めに来るのか……?

 そう思って華流院さんの顔を伺うが、不思議とその表情は怒りに満ちておらず、むしろどこか不思議そうな表情であった。


「……その本、いろんなところにマーカーやラベルがあるけれど、もしかして、そうやって逐一気になる箇所をチェックしていたの?」


「あ、うん。ま、まあね。っていうか華流院さんが「どこが悪いのか具体的に言ってよ」ってイチャモンつけそうだったから気になる箇所は全部感想をつけてチェックしているよ」


 まあ、最低あと三回は読み直すつもりだけど。


「誠一君ってさ、もしかしなくてもその作品好きなの?」


「は?」


 思わぬ華流院さんの一言にオレは間抜けな声を出す。


「いや。嫌いだよ」


「じゃあ、なんでそこまで一生懸命読み込むの?」


「批判するなら最低でもこれくらいキチンと読み込むべきだろう。嫌いだからどこが嫌いか明確に書き出したいんだよ」


「ふぅん、そうなんだ」


 そう言って華流院さんは読書に戻る。

 あ、あれ? 今日はそれだけ? おしまい? いつもの華流院さんからの批判返しはないの?

 それはオレにとって平和な休み時間であったが、どこか物足りなさを感じていた。

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