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第6話 オレの隣の美少女がイチャモンつけてきた③

「え?」


 思わぬ華流院さんの一言にオレは呆気にとられる。


「これ確かにレビューは絶賛だし、書籍化する前から一部のファン達は喜んでいたよねー。でもね、実際に発売されたら売上不足。これだけ絶賛のコメントがあっても、それがイコール売上には繋がらなかったみたいなの」


 そう冷酷に呟く華流院さん。

 ま、まあ確かにそういう話はよく聞く。

 内容は滅茶苦茶面白いのに売上が伸びずにそのまま打ち切られた小説は星の数ほどある。

 けど、それがなんだって……とオレが言うより前に更に続けて彼女は別のページを見せる。


「それじゃあ、次はこっちを見てー」


 そこに映ったのは現在アニメ放映中のオレが『なろうが誇るクソ作品』と切り捨てた『異世界転生したオレのハーレムが日本に侵略しに来た』であった。

 その評価を見ると……先ほどの『龍の涙と哀しみの剣』とは真逆。☆1、☆2といった最低の評価値ばかりで埋め尽くされていた。

 コメントも『見る価値もないクソ小説』『なろうの悪いところが詰め込まれた作品』『オレつえーハーレム(笑)』と酷評から小バカにしたレビューばかり。

 ああ、やっぱり皆同じこと思っていたのかーと思った瞬間であった。


「この『異世オレハーレム』は十巻以上も刊行されて、今も重版中。更に現在アニメ化もされて売上もますます伸びてるらしいんだよー」


 へ、へえー。そうなんだー。

 こんなクソ小説でも売り上げ伸びるってほんとなろう系は楽でいいなーと思った瞬間、


「で、聞きたいんだけど『異世オレハーレム』は売れているけれどクソ。『龍の涙と哀しみの剣』よりも全てが下って、誠一君は断言できるの?」


「うっ……」


 その目はマジであった。

 と同時に安易に「そうだ」と頷けない問題でもあった。

 片や、オレの目から見ればなろうの悪いところだけを取ったようなクソ作品。片や、そうした部分がなく重厚なファンタジー小説として描かれている『龍の涙と哀しみの剣』。

 どちらが名作かと言われればオレは断然後者だと答える。

 だが、実際に続刊が出て、売り上げを出し、アニメ化までしたのは前者の方。世間一般で売れた方を名作と言うのなら前者がそうであろう。


 しかし、果たしてそれが正解でいいのか? 確かに売り上げも大事だ。

 けれどそれと名作かどうかは別ではないのか?

 華流院さんが言いたいことは分かる。それでも売り上げ=名作という構図にオレはそのまま頷きたくはなかった。


「それって売り上げがよければ名作って言いたいの?」


「ううん。別にそうじゃない。ただ、誠一君が言うような『名作』が必ずしも売れるとは限らない。書籍化して人気になれるとは限らない。それって作者もわきまえていることじゃないのかな?」


「? 何が言いたいの?」


「つまりね。誠一君が言う『名作』を書きたいけれど、書籍化のため、売り上げのためにそれを書けない人ってたくさんいるんじゃないの? 本当はそっちを書きたいんだけど、小説家を続けるために誠一君が言う『クソみたいななろう小説』と分かっていてあえてそれを書いている人もいるんじゃないのかなーって思ったの」


「…………」


「言いたいことはそれだけ。ごめんねー。こんなことに時間使わせてー」


 そう言って華流院さんはスマホを閉じる。


 ……どういう意味なんだろうか。それは。


 オレは華流院さんが言いたいことを必死に考える。

 つまり、『異世オレハーレム』も自分が典型的ななろう小説を書いていると分かっていて書いてる。

 本当に書きたい作品はオレが言うようなチートやハーレムなんかじゃない、重厚なファンタジー小説だと?


 いやいや、そんなの作者にしかわからないことだし、仮にそうだとしたら好きなのを書けば……とその作者に言えるはずがない。

 先ほど華流院さんが言ったように売れることを前提として小説を書く物書きはその時点で自分に縛りをかけて書いていることになっている。

 すなわち、世間一般でウケている物。売れそうな物を軸に書く。

 その中で自分の書きたいやつをうまく書こうとするなら……それは結構難しいことなのでは?


 そう思いながらも、しかし様々な感情がオレの中で巡る。


 今日は華流院さんに襲われ、首を締められるようなことはなかった。

 けれども、その代わりと言うべきか。何とも言えないようなモヤモヤ感がオレの心の内に残った。

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