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第54話 儀式から再び幕は上がり

 どうも、お久しぶりです。

 オレです。

 オレと言ってもオレオレ詐欺じゃないですよ。

 矢川やがわ誠一せいいちという、どこにでもいる普通の男子高校生です。


 まあ、他人と少ーしだけ違う趣味があると言えば、この世に在るクソ小説を読むことくらいでしょうか。

 クソと言ってもこの世の中、色んなクソがありますが、その中でもオレが特に好んで読んでるのは俗言う『なろう系』と呼ばれるもの。

 言っておくが『なろう系』=クソではないので、これはご注意を。

 オレが好んでいるのはこのなろう系に時折ある内容がちぐはぐで設定もぐちゃぐちゃ。

 前後関係もなにもなく、ただ主人公に都合のいいことだけを書き記したクソオブクソ。そういうクソを読んでいる。

 言っておくが、オレはなにもそうしたクソを好んで読んでいるわけじゃない。

 ただ世の中にこうしたひどいクソがあるのを心に刻み、後世に語り継ぐために読んでいるのだ。

 決してオレ自身が好きなわけではない。

 重ねて言おう。オレはクソが好きなわけじゃない。むしろ嫌いだ。大嫌いだ。

 だからこそ、オレはクソを読む。


 改めて、オレの名前は矢川誠一。

 どこにでもいる何の変哲もない男子高校生だ。


 時は波乱の運動会と怒涛の修学旅行を乗り越え、秋が終わり冬が近づこうとした頃。

 オレは新たなる出会いを果たすのであった。


「なんだよ、この小説……」


 その日オレはいつものようになろうにある小説を読みあさっていた。

 ランキングで目に付いたものはポチポチと目に入れているのだが、オレの琴線に響くものはなかなかなかった。

 いや、どれもそれなりに面白く、また適度にツッコミどころもあって普通に読む分にはいいのだが、やはり突き抜けたクソさ言えば『異世オレハーレム』は不動の一位だ。

 そんなどうでもいいことはさておき。

 今回はランキングに載っていたものではなく、たまたま目に入った新着の小説を読んでいた。

 それこそ作者の名前も作品のタイトルも聞いたことのないようなもので、特に惹かれる文章もないのだが、なんとなくページを開いて読んでみた。

 すると、そこには驚きの内容が載っていた。


「……これ、滅茶苦茶面白いじゃないかよ」


 そう、その小説の内容が普通に面白かったのだ。

 いや、この場合『普通に』というのはいらないな。面白い。つーか、滅茶苦茶面白い。

 設定はこれといって普通の異世界物なんだが、キャラが立っているというか、物語がちゃんとしていて読者に共感出来る内容にもなっている。

 現在のところ二十話ちょっとだが、これはよく出来ている。

 文章も特にひねったところがあるわけでもないが、読みやすいという点において、評価してもいいと思った。

 オレもなろう系で色んな作品を読んできたつもりだが、書籍化された作品と比べても遜色ないと感じた。

 いや、『異世オレハーレム』のように書籍化されても内容も設定もアレなものに比べれば、かなりの出来だ。

 そう思ったオレは早速その作品をブックマークし、感想や評価を書き込みしようとしたのだが――


「え? 嘘だろう?」


 その作品の感想欄、作品情報を見て唖然とした。


『ブックマーク数:3 感想:0 レビュー:0 評価ポイント:5』


 なにこれ? こんだけ? 嘘でしょう?

 オレは思わず目を疑った。


 いや、だって、素人のオレの目から見てもこの作品はかなり面白いぞ。というか今ランキングに乗っている作品と比べても遜色ない。

 なのに、なんでこんな評価が滅茶苦茶低いんだ!?

 思わずPV(いわゆる閲覧数)を調べたが、なんど合計閲覧数は200に届くかどうか。

 最新話に至ってはオレを含めた数人くらいしか閲覧してなかった。

 嘘だろう……? なんで? こんな面白いのに?

 明らかに『異世オレハーレム』なんかよりも、こっちの方が数段面白いと断言できる。

 にも関わらず、この無情な評価とPV。

 なろうあるあるとでも言うべきか……。


 確かに世の中には良作なのに埋もれている作品が数多くある。この作品もそのうちの一つと言ってしまえばいいのだが、それだけで切り捨てるにはあまりにもったいないものをオレはその作品から感じていた。

 この作品、注目されれば絶対に光る。

 いや、というか書籍化すれば絶対にヒットする。そう思わせるほどの輝きがあった。

 絶対かというとそれを保証することはできないが、けれど、内容に比べてあまりに評価されてないその作品を見て、オレはなんだか少し悔しい気持ちになる。

 ならばせめて、オレだけでも評価をしたいと思い、先程書きかけた感想を書き、評価をする。


「ままならないものだなぁ……」


「何がままならないの。誠一君」


 そんなことを思わず呟くと隣にいた学園一の美少女・華流院かりゅういん怜奈れいなが口を開く。

 相変わらず横顔だけでも美しく、とても同じ学校で同じことを学んでいる同級生とは思えない気品と清楚さに満ちたお嬢様だ。

 そんな彼女がオレに声をかけるというのは傍から見ても驚きなことだ。


「いやぁ、そのなんていうか、これいいなーって思った小説があったんだけど、それがまったく評価されてなくってさー。片や『異世オレハーレム』とかは一話更新されるだけで一万以上のアクセスが一時間足らずで集まって、感想や評価も連日されまくってさ。こういうのって不公平だなーって思って」


「そう。まあでも、それも仕方のないことじゃないかしら。確かに『異世オレハーレム』はクソかもしれないけれど(私はそう思わないけれど)、あれって書籍化されて、漫画化もされて、アニメ化もされてそれなりに知名度もある作品よ。そうした商業作品と名前も聞いたこともないようなそこらの素人がぽっと書いたような一作品とじゃ、まず比べる土台が違うわ。仮にその作品が『異世オレハーレム』よりも面白い内容を描いていたとしても注目されるというその最初の壁を越えるのはとても困難なことよ。いい作品を書けば自然と評価されて、有名になる。そんな世界だったら、この世はさぞ面白い作品で溢れているでしょうね」


 ごもっともで。

 相変わらず、きつい部分はあるが華流院さんの言っていることは的を得ている。

 評価されること。注目されること。それが良作であること。面白い作品であること。どれも似てるようで違う。

 まず評価されるというそのことがどれほど難しいことか。

 小説を書いたことのないオレには分からないが、それを得られるというのはとても幸運なことなんだろうな。

 そう思いながらオレはその日、このなろうに埋もれているかもしれない他の小説の発掘に精を出すのであった。

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