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暇潰市 次話街 おむにバス  作者: 誘唄
「単話4」
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雪の日の事故

小寒やら大寒やら寒くなっていますね。

一面の雪景色を見て、今年は雪でネタ書いてなかったな、と思い書いてみました。


本項のタグ:「雪景色」「事故注意」

 

 その日は久しぶりに雪が止んだ。


 一面の白い世界に息子のドニーは大はしゃぎだ。

 考えてみれば七歳のドニーはここまで雪が積もっているのを見るのは初めてかもしれない。


 膝まである新雪をかき分けるように踏みしめ、また飛び込んでは歓声を上げる。

 夫はその声を聞きながら雪下ろしをしている。


 ドニーがはしゃぐ玄関側とは別の方から、時折大きく何かを落とす音が聞こえる。夫の雪下ろしもだいぶん上達したけれど、また夜になれば降ってくるだろう。

 たまに空を見上げている頭が屋根の上に覗いている。




 灰色の雲は厚くて太陽は見えないけれど、昼には日が差すだろうか。




 街並みに目を向けて見れば、近所の屋根にも人影が見える。

 お互いを労うように手を振り合う姿もこの時期にはよく見る景色だ。


 白く染まっている庭木と生垣。どの家の庭も雪に埋もれていることだろう。

 その家々の間を流れるような、コンクリートで舗装された道路だけが黒い。

 うっすらと白っぽく見えるムラは凍りついた雪だ。



 時折、車のチェーンが削りながら走り抜けていく。


 それを目で追うと、庭先にあるうちのポストの赤が目に入る。吹き付けた雪が張り付いたままで半分くらい白く変わっている。



 郵便物をセーターの下に詰め込んだドニーが、ポストの上に雪を積んでいた。こちらからはよく見えないが、両手で押しかためたような雪に葉っぱをつけている。


 ドニーに尋ねると、雪で作ったウサギだという。


 ネットで作り方を覚えたのだと語る息子が、わざわざ行きとは別の新雪へと踏みこむ。

 滅多にできない体験をよほど気に入ったらしい。



 少しだけ自分でもやりたくなって、庭へと踏み出そうとした頭上で声が響いた。


 夫だ。


 雪下ろしで足を滑らせたのかと思って見上げれば、ドニーへと向かって叫んでいる。



 何事かと息子に振り返れば、そこにあったのは鉄の塊。

 激しく響いた轟音が、凍りついたコンクリートを擦るタイヤの音だと分かったのは、その音が止んでからだった。ポストを擦るように庭先へと侵入したトラックが、突っ込んだ雪を溶かして蒸気を上げている。




 まるで雪と一緒に溶けたように、ドニーの姿はない。




 現実味のない光景と信じたくない出来事に、寒さではなく身体が震える。


 もし下敷きになっているなら、すぐにでも助け出さなければ。そう思っている自分と、そんなことがあるはずないという自分がいて、足が動かない。


 屋根から落ちた雪が音を立てて叫んでいる。


 夫だ。




 雪をかき分けて怒鳴る声が、ドニーの名前を読んでいるのだとわかって怖くなった。



 肺が痛いほど冷えて、心臓が締め付けられるような苦しさに襲われる。


 ドニー。


 必死で声を絞り出して、雪をかき分けて、やっと歩き出した足がもどかしい。


 ドニー。叫ぶように名前を読んで、両手で雪をかき分けて這うようにトラックへと向かっていく。


 雪の中には息子は見つからない。



 夫が狂ったように叫んでいる。気づいたら私も叫んでいた。雪をかき分けてトラックへと向かい、ドニーを探して叫ぶ。




 返事があった。


 後ろから、楽しそうに笑っているドニーの声がした。



 振り返れば雪の中から身体を起こしたドニーの姿。

 どうやってそこに行ったのか、周りの新雪を越えてスノーエンジェルを作ったようなドニーがいた。




 雪ウサギに蹴り飛ばされたと、ドニーが楽しそうに笑っているのを見て、力が抜けた。


 夫も同じだったのだろう、雪の中へと倒れ込んだ。

 そこからすすり泣く声がする。



 降りてきた運転手にドニーが雪玉を投げつけても、全くそれを咎める気にならない。



 運転席の窓には、葉っぱが混ざった雪の塊が張り付いている。


 雪玉を投げつけながら運転手へと向かうドニーを抱き寄せる。少し雪で冷えているけれど、ちゃんと温かい息子を抱きしめると涙が溢れてきた。




 雪ウサギを跳ねたと怒るドニーにキスをする。

 ぜひ、雪ウサギの作り方を教えてちょうだい。






雪下ろしで落ちる、落とした雪に埋まる、スリップ事故、などなど雪景色ならではの事故があります。

普通に雪景色を書いていたはずなのに何故事故が混ざったのかはよくわかりません。

雪うさぎは安全祈願の用途ではないと思いますが、まぁ命が助かるなら理由なんてどうでもいいや。

そんな理由で雪兎作ってきます。

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