追放を重ねた勇者は忘却される
章分けで作品を分けています。
大筋としては「勇者が追放を重ねて忘れられる」という話。
最終話となります。
前回までのあらすじ『全員追放されました』
本項のタグ:「ファンタジー」「追放もの」「勇者」「道化師」「勇者は追放を重ねて忘却される」
勇者アランドラの名前で連想されるのは、かつて魔王を退治して国を打ち建てたほうが大部分を占める。
各国を巡って仲間を集めた青い蓬髪の勇者。
そちらのアランドラだと説明した上で目撃例を集めてみれば、パーティ追放時に名乗ったことで知ったというものばかりになる。
それを編纂した追放劇を作るのだと、赤い巻き髪の女性は笑った。そのために旅人向けの商店を巡って、情報を仕入れているのだと。
この自称勇者であるアランドラだが、追放劇の印象ばかりを各国に色濃く残し、功績としては普通の冒険者程度も残していない。
彼は追放劇で堂々と名乗った直後にその国を後にしている。
そのため彼自身よりも、追放された者の話が見つけやすい。
例えば暴虐の騎士バルドゥル。
武芸者や荒くれ者を討ち倒す遊歴の身になったらしい。誰かを探し回っているとも言われているが、真偽は定かではない。
例えば異端侍祭ベルン。
巡回侍祭として今も各国を巡っている彼は、人も魔物も問わず癒していると言う。そのせいで教会からは破門されたとか。
例えば酒術師ボル。
貧民窟などを徘徊しては酒を振る舞う奇人で、勇者パーティーにいたと嘯く老人だ。
かつて立場ある人間だったが酒で身をやつして死んだことにした、などの酒のつまみ程度の噂がある。だが時折、貴人が彼の元を訪れては酒塗れにされているのが見られるという。
例えば精霊巫女ビルキッタ。
旅を終えて本来の立場に戻った。表舞台にでなくなったのは後進育成に勤しむためで、精霊巫女が暮らす森の奥に住んでいるらしい。
最近では噂も流れてこなくなった。
あまり齟齬がなく見つかる噂話はそんなもので、ほかに聞く話は尾鰭背鰭で原型もわからない。
赤い巻き髪の彼女が仕入れた勇者アランドラ当人に関しても同様だと言う。
生まれた国へ戻ったとか、遠い国へ婿入りしたとか、どこそこで死んだとか言いたい放題で、容姿さえもあやふやだと彼女は語った。
そんな話を交わして満足したらしい。
店内に並べられた精霊の加護を謳う札がセットになったものを手に取り、赤い巻き髪の女性は代金を支払う。
そこから抜き取られた一枚が差し出された。
妊娠した様子のない彼女には安産祈願の札は必要なかったかと、青年は苦笑する。
「もし不要なら、どなたかお知り合いにでも差し上げてください。効果はありますから」
「そう? じゃあビルキッタに渡してくれる?」
出てきた名前に青年の愛想笑いがひきつった。
彼が旅先で結婚して帰り、最近その妻が妊娠したことは近所なら誰でも知っている。
だが、精霊巫女になる前の名前を使っている彼女を精霊巫女ビルキッタと呼ぶ者はいない。
彼が勇者パーティにいたことは親でさえ信じなかったので、ビルキッタの名前を出す機会もなく今に至るのだ。
「そう言われても、私もお札を仕入れている程度ですからね。ちゃんと伝わるかわかりませんし、そもそも巫女ほどコレは不要だと思いますよ?」
青年がひきつる顔を困ったように誤魔化したときには、彼女はもう背を向けていた。店外へと軽く手を振ると、連れらしい相手が手を振り返す。
それは犬相手に四つん這いで睨み合い、芋を奪う隙を狙っている道化師だった。
しかし逆に隙を突いて犬が芋を奪い走り去る。
道化師が地面を転がって悔しがり、頭を抱えて泣き真似を始めると、周囲に笑い声が溢れた。
そんな道化師の頭に手を伸ばして、彼女は青い蓬髪を掴み引っ張りながら歩いて行く。
その手を叩いてみたり、転びそうになったりする道化師の姿に、青年も思わず笑ってしまう。
道化師はようやく立ち上がると周囲に手を振りながら、赤い巻き髪の彼女に怒るようなそぶりを見せてついていく。
こうして勇者アランドラの痕跡が消えていくことを、誰も気づくことはなかった。
『追放を重ねた勇者は忘却される』はこれでおしまい。
さて、次は何を書こうかな。




