道化師は追放を言い渡される
章分けで作品を分けています。
大筋としては「勇者が追放を重ねて忘れられる」という話の、10話目になります。
たぶん15話くらい?になります。
あらかた追放し終えたかな?
前回までのあらすじ『戦士追放済』『僧侶追放済』『魔術師追放済』『精霊巫女追放済』
本項のタグ:「ファンタジー」「追放もの」「勇者」
「勇者は追放を重ねて忘却される」
危険領域から伸びる河川を下ると、ある国の僻地に辿り着く。まばらに枯れた林を流れる川は流れが緩くなり、その土地の生活用水となっていた。
上流の崖から落ちた旅人が漂着することもあったが、今では流れ着くのは腐水とゾンビばかり。必然、暮らせなくなった領民の一部が他領へと逃げた。
そんな経緯があり、川縁にあった村は廃村と化した。
時折新たなゾンビが流れ着くが、誰もそれを浄化しない。既に生き残った村人がいないのだ。
それが勇者アランドラの故郷だ。
そんな廃村からしばらく離れた場所で勇者アランドラは一人、野営をしていた。
危険領域とは違った形で生命の乏しい地では、虫の声もまばらだ。それを餌にするような野鳥も小動物も今は寝静まり、獣の気配も感じられない。焚き火の爆ぜる音さえも大きく聞こえる。
それを妨げる金属音に囲まれても、勇者アランドラは静かに焚き火を見つめていた。
帰郷の報せを受けるべき相手は既にこの世にはいない。参るべき墓もない。未だ村人の多くは川縁を徘徊し続けている。
それでも、帰還の報せを受ける相手はいた。
廃村近くの開けた場所を指定したのは相手方で、勇者アランドラはそれに逆らえる立場にない。
その領兵たちが立てる全身鎧の音は騒音に近い。
焚き火とアランドラから等距離を保ちつつ、槍を外側へと向けて立ち止まる。
その距離が遠いのは、これから交わされる会話をなるべく耳にしないためだ。
「まさか本当に生きて帰ったとはな」
それでも、その高圧的な声は彼らの耳に届いた。
勇者アランドラが初めてそちらへと視線を上げて、姿を確認して跪く。
真っ直ぐに立つ老人の姿には威厳があった。
教会の司祭の法衣にも似た高価な意匠のローブや、使い古された歪な木の杖が持つ雰囲気だけではない。
その老人自身が他人に命じることに慣れており、他者を路傍の石程度に扱うことに慣れていることが、その冷めた目でもわかる。
かつての勇者と共に魔王を打ち倒した賢者。
勇者が興した国で宰相を務めた男。
そして魔物の氾濫によって国を見捨てた者。
今では地方領主となった賢者、ブルースフィールだ。
ブルースフィールにとって、アランドラの帰還は想定外だった。
賢者からの教導を乞う書簡。それを持たせた特使の多くは、相手方の自尊心を刺激して繋がりを生ませた。
それが済めば不要な道具は、きちんと処分されている。唯一、勇者を騙った者を除いて。
賢者が派遣した勇者。その肩書に守られ、生き残るだけの力をつけた青い蓬髪の青年を睨むようにブルースフィールは見つめている。
勇者アランドラは跪いたまま、静かに口を開いた。
彼がどの国を巡り、どのような協力を得たのか。
その旅路の報告だ。
使い捨ての駒が本義を果たさずに戻ってきたことは領主ブルースフィールに不快感を与えたが、告げられる報告により次第に笑みが溢れていく。
危険領域への侵攻。
ドラゴンゾンビ退治。
一時的なゾンビ湧きの沈静化。
その成果は想定外で最良の結果である。
勇者パーティが一人残っていることなど、ブルースフィールにとっては些末に過ぎない。
だがそれが道化師であることには疑問が湧いた。
焚き火から掘り出した芋をお手玉しながら差し出してくる道化師を、ブルースフィールは顔をしかめて見下す。
「これはお前の連れか? 何故まだ残っている? こんなものに何の価値がある?」
「彼女は僕にとってかけがえのない癒しです」
アランドラの回答に愛玩動物のようなものかとブルースフィールは理解した。
近隣国を巡って危険領域へと挑んだ長旅の年数を教えてみれば、娯楽の一つや二つは身に馴染む。選んだ娯楽が道化師というのは風変わりだが、抱え込む貴族も珍しくない。そんな相手から譲られでもしたかと結論づけ、すぐに興味を失った。
「ふん、まぁいい。勇者アランドラは役目を終えた。道化師は勇者パーティからは追放とする。今後は勇者パーティを名乗るなり、残党を集めて活動するなり好きにしろ。ただしこの国での活動は許さん。夜明けまでに去れ」
差し出した芋を叩き落とされた道化師は、それを拾い焚き火へと戻した。指差してうなずくそぶりは、好きな時に取って食えとでもいうつもりなのか。
勇者がそれにうなずき返すのを確かめて、道化師は領兵に頭を下げながら囲いを抜けた。手にした芋を振りながら一目散に廃村がある方へと走っていく背中は、領兵に遮られてすぐに見えなくなった。
そうして一人となった勇者は、領兵に囲まれる。
今度は外側ではなく、内側へと向いた槍の全てが彼の挙動に応えようと身構える。
それに一瞥もなく、勇者アランドラは跪いたまま再び口を開いた。
道化師追放はこれでおしまい
さて、残すところはあと一人。




