表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/273

冬の魔王と小さな勇者

思いついたので書いてみました。

サブタイだけ見るとちゃんとしたファンタジー系っぽく見えますが、そんなフリをしたネタ系です。



本項のタグ:「冬の魔王(笑)」「小さな勇者(笑)」「あなたが次の勇者かもしれない」

 これは、魔王に挑み囚われた王を救出する物語。





 冬の寒い夜。

 魔王の雄叫びは街中に響き渡り、暗く帳の落ちた闇夜の奥からその威武を知らしめる。



 挑むのは勇者。

 吐く息は白く、足取りには迷いがある。

 しかし握り締めた武器を決して手放すことはなく、魔王の居場所を探して歩き続けていた。


 寒さにかじかむ指先を擦り、鼻や耳を赤くして大通り、路地裏と探し回ることしばらく。

 ついにその目に魔王の放つ真っ赤な光が映る。

 それを目印に、勇者は覚悟を決めて進む。


 やがて見えるのは、焼ける石とそれを包む炎。

 近づくほどにその熱は勇者の顔を照らし、その目に映る魔王を赤く染め上げる。



 魔王。



 一見するとただの中年男性としか見えないこの存在は、寒い冬の夜になると突如街中に現れる。

 何処とも知れぬ王国からさらわれたものたち。

 それらに言葉にするのも恐ろしい拷問を行いながら、街中を引き回すのだ。

 焼ける石の熱に晒されて、責め苦を受けたものたちのにおいが鼻をつき、勇者は無意識に唾を飲み込んだ。


 勇者には迷いがある。

 手にしている武器が魔王に通じるのか。

 囚われたものを救い出すことができるのか。

 魔王に挑む勇気を、勇者が絞り出せるか。



「今日は冷えるねぇ。こんな時間にお散歩かい?」



 怖気づく勇者に気づいた魔王は、その顔をぐしゃりと歪めた。

 笑っているのだ。


 寒い冬の夜。

 魔王の雄叫びに誘われて現れた勇者が、どれだけの威武を秘めているのか見定めるような眼差しで。

 その力が魔王を倒すには至らないことを見抜き、軽くあしらってやろうと笑っているのだ。



 それを見た勇者は、心を奮い立たせる。

 冬の寒さから守るための防具は魔王相手には役に立たない。優しき父に下賜かしされた首と顔半分を覆う防具の下で、勇者は口を引き結んだ。

 今からお前に一撃をくれてやると心で叫び、手にした武器を掲げる。

 偉大なる母より下賜かしされた武器は白銀の光を放ち、魔王の放つ真っ赤な光を照り返す。

 それを見た魔王は目を細めて、笑みを強くする。



「ほほう。どうやらそれなりの資格があったようだ」



 無造作に伸ばされた手の先で広げられた指先。

 それを勇者へと向けた魔王は、勇者の一撃をただ待ち受ける。

 明らかな誘い。

 その一撃を受け止める準備が整っているのは明白だが、それでも勇者は怯まない。

 その一撃に絶対の信頼を籠めて、魔王へとふるう。



「ふふっ。なるほどなるほど。頑張ったご褒美に、少しだけ見せてやろう」



 しかし、やはりその一撃は魔王にたやすく受け止められた。

 何の痛痒もないかの如く、魔王は笑う。

 そして熱が猛る釜を開き、そこで虐げられているものたちの姿を勇者に晒した。


 より濃密な、強いにおいが周囲へと溢れる。

 それは恐ろしいほどの刺激となって、勇者の脳を痺れさせた。

 目に見えるのは無数のものたち。

 一糸纏わぬ全身は熱に焼かれ、焦がれて黒くなった箇所さえある皮が、痛ましく裂けている。

 勇者はその光景から目を離すことが出来なかった。

 その光景は、あまりにも強いそのにおいとともに勇者の心にこびりつく。

 それを拭い去るため、来年も再来年も、その次もまたその次も、勇者が挑みにくるように。

 それこそが魔王の狙いだった。


 ぐしゃりとした笑みを崩すこともなく、呆然として立ち尽くす勇者に背を向けた魔王が、熱が猛る恐ろしい釜の奥へと手を伸ばす。

 その手から逃げることも出来ず、今なお熱に晒されているものたち。

 その中から掴み出された、最も尊大なもの。

 他のものたちが芯まで屈しているのに対し、未だ生気を宿した偉容。

 熱にも魔王にも屈しないそれは、まさに王の佇まいだった。



「ふふっ。いつかはここまで手が届くようにな。今はまだ、この程度だな」



 再び戻されていく偉容の代わりに掴み上げられたのは、それに比べればまるで貧相な子供のようだった。

 魔王は熱を感じないのだろうか。

 その貧相なものに紙を纏わせ、ぐしゃりとした笑みで勇者へと差し出してくる。



「熱いから、火傷をしないように気をつけてな」



 恐る恐る、勇者は両手を伸ばして受け止めた。


 熱い。


 それは焼けた石の熱を宿したように熱く、勇者の両手を焼こうとする。

 慌てて父に下賜かしされた防具を外すと、その顔を冬の夜の寒い空気に晒した。

 それを使って包み込むようにすると、やっと勇者へと伝わる熱が触れていられる程度に落ち着く。

 両手でしっかりと支えて、魔王へと目を向けた。


 魔王は悠然と笑い、背を向ける。

 再び雄叫びを上げて、他の勇者を待つのだろう。



「いつか王様を助けるからな。魔王」



 敗北感と達成感という矛盾した感情に包まれ。

 防具越しでも伝わる熱を感じながら。

 寒い冬の夜を白い息をはき。

 弾むような足取りで。

 勇者は、走る。


 その背後から、再び魔王の雄叫びが聞こえた。






「い~しや~きいもぉ~~おいもっ!」









なお数年後&魔王の由来


「おや? 今回は少ないねぇ?」

「……うるさい (ダイエット中だけど、1つならいいよね?)」

「ふふっ。いつもひいきにしてもらっているお礼に、1つおまけしておこうかな」

「まっ!? おぉぉぉぉっっきぃぃっ!? (こ、断れないぃぃっ!)」



街に叫びが響き渡る冬の寒い夜には、泣きそうな笑顔で焼き芋を持ち帰る姿が、毎年目撃されている。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ