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暇潰市 次話街 おむにバス  作者: 誘唄
勇者は追放を重ねて忘却される
89/281

精霊巫女は激戦を振り返る(後)

章分けで作品を分けています。

大筋としては「勇者が追放を重ねて忘れられる」という話の、9話目になります。

たぶん15話くらい?になります。

戦闘回想している後半部分です。


前回までのあらすじ『戦士追放済』『僧侶追放済』『魔術師追放済』『精霊巫女追放済』


本項のタグ:「ファンタジー」「追放もの」「勇者」

「勇者は追放を重ねて忘却される」

 

 周辺を囲うのは無限に湧き出てくる獣や人のゾンビ。

 僧侶ベルンの凍血魔術がそれらを一掃しても、すぐに次が押し寄せてくる。



 彼に負けじと精霊巫女ビルキッタも精霊の力を借りる。



 腐った水やガスなどの現象や、それを起こしている澱んだ魔力を精霊が取り込む。

 浄化するたびに精霊は身を削っていくが、その間だけは清涼な空気が地に満ちる。僅かに大地も浄化されるが、その澱みは根深い。



 危険領域は死者の世界が溢れ出した土地になった。

 そんな通説に納得できるような光景が、いつまでも変わらない。




 しかしその事実に勇者アランドラは折れず、その姿にパーティも気を張り直す。



 魔術師ボルテウスが生み出した雷雲が辺り一面に雷を落とし、戦士バルドゥルの剣がドラゴンゾンビの指を切り落とす。



 戦闘に不慣れなそれ以外のパーティも、各々できることをしている。



 前線を維持するために盾を構えて並ぶ者たち。それを越えようとするゾンビに槍を突き立てる者たち。魔物が嫌う草から作った香を焚くもの。魔物が好む芋を使った餌を投げる者。その群れに火炎瓶を投げつける者。


 傷ついた仲間の傷を縫ったり薬をつけている者、息絶えた仲間がゾンビになる前に泣きながら首を落としている者。様々な者たちが勇者の仲間として奮戦している。



 もちろん、この激戦にパニックになり右往左往しているだけの者もいる。だがそんな者には目端の利く商人見習いの青年が指示を出して、できることを割り振っていく。




 ドラゴンゾンビが腕や尻尾を振る度に朽ちかけた建物が粉砕される。しかし、それに巻き込まれる者はいない。




 寸前で建物から離れて汗を拭うフリをした道化師が、ドラゴンゾンビへと向き直った。


 怪我一つないと見せつけるように両手に持った芋を高々と振り、尻を振る。時折振り返っては指差して笑うそぶりを見せる。



 眼球のない暗いうろでどうやってその姿を確認しているのかはわからないが、効果は覿面だった。

 ドラゴンゾンビは道化師だけに執着して、延々と追い回している。



 その隙をついて勇者の一撃が腕を切り落とし、一瞬だけその危険性に顔を向けた。それでも道化師が笑い転げて楽しそうな空気を放つと、ブチ切れたように咆哮して道化師へと向かう。




 もちろん、その戦闘の最中にもあちこちでゾンビが湧き出ている。逃げた先にゾンビの集団が現れることも少なくない。



 ビルキッタの精霊やベルンの凍血魔術、ボルテウスの雷撃などがそれを打ち払い支援していた。

 だがビルキッタとは違い、他の二人は自らの魔力が尽きれば魔術は使えない。手数にも限りがある。




 それでもパーティ全体が壊滅せずに継続して戦えているのは、主戦力ではない多数の人々が盾となって術師たちを守っているためだ。




 ドラゴンゾンビはバルドゥルの剣に削られ、勇者の一撃に身体を破壊されても、動きを止めない。両腕と尻尾が落ち、頭蓋骨の半分が割られても。





 その執拗さに、ついに道化師が追い詰められた。





 湧き出たゾンビの集団に逃げ道を塞がれ、しかし誰も魔術を放つだけの余裕がない。戦士と勇者の一撃でさえ止めに至らない。



 勇者アランドラと戦士バルドゥルの背中さえ、迫りくる魔物に遮られてはっきりとはしない。

 ドラゴンゾンビの向こう側で道化師が窮地に陥っていることなど、円陣を構成する者たちは気づいてもいなかった。




 道化師が足を止めても、迫りくるゾンビは足を止めない。


 その歯や爪にある毒を受けてしまえば、今までのように逃げ回ることはできなくなる。ゾンビに捕まるだけでも同じことだ。

 追いついたドラゴンゾンビはゾンビごと道化師を踏み潰すだろう。



 そんな結末を思い恐怖したのか、道化師は異常な行動に出た。



 ゾンビのように身体を痙攣らせながら、振り返る。まるで自分もゾンビだと誤魔化すようなそぶりだったが、通じるはずもない。


 引き攣った右腕を上げて、釣られるように右側へと歩き出す。それを追うゾンビたちも、同じような動きで迫る。

 その爪が道化師の赤い巻き髪を掴む寸前、左腕を伸ばし痙攣らせて逆向きに釣られたように歩き躱す。

 それを追うゾンビたちも、まるで真似しているような動きで道化師についていく。



 もしそれを見た者がいたならば、ゾンビを引き連れて道化師が踊っているように見えただろう。

 だが、ここは危険領域。死者の国とさえ呼ばれるこの地に生きた観客などいるはずもない。





 見ることができたのは、ただ一体。





 ドラゴンゾンビだけが、道化師がゾンビと共に踊りながら迫ってくるのを見た。



 眼球もなく、脳すら残っていないドラゴンゾンビが、その光景に何を思ったのかは誰にもわからない。



 ただ一瞬、戸惑ったのか呆れたのかバカバカしくなったのか、動きが止まった。


 その隙に戦士バルドゥルにより尾骶骨が折られ、勇者アランドラにより背骨が消し飛ぶ。

 落ちた頭蓋骨がぬかるんだ地面へと沈み、道化師がゾンビから逃げるために駆け上がっていく。



 しかしそれを追うことも出来ずにゾンビたちは倒れ込み、少しずつその動きを弱めていった。



 それは他のゾンビたちも同様だったのだろう。魔術師たちの盾となっていた勇者パーティの群勢から歓声が上がる。


 魔力切れで息の上がっているベルンと、早速酒を作り出して祝杯をあげようとするボルテウス。


 精霊が力を使いすぎて消えていくのを感じながら、ビルキッタもまた疲労感と喪失感に襲われていた。

 しかしその身を包んでいく達成感と、感激して抱きついてきた商人見習いの青年に身を委ねる。


 ドラゴンゾンビの残骸を踏み荒らして破壊しているバルドゥルの姿や、道化師へと駆け寄る勇者の姿も見えた。



 ドラゴンゾンビの頭上で座り込んだ道化師は、勇者が撫でるのに任せて頭を揺らしている。

 その手は同じように座った場所を撫でていた。






 こうして少なくない犠牲者も出たものの、危険領域に巣食う魔物の討伐という、勇者の役目は無事に終わったのである。








精霊巫女追放と戦闘回想はこれでおしまい。

さて、次は誰を追放しようか。

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