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暇潰市 次話街 おむにバス  作者: 誘唄
勇者は追放を重ねて忘却される
83/316

僧侶は追放を言い渡される


章分けで作品を分けています。

大筋としては「勇者が追放を重ねて忘れられる」という話の、3話目になります。

たぶん15話くらい?になります。


前回までのあらすじ『戦士追放済』


本項のタグ:「ファンタジー」「追放もの」「勇者」

「勇者は追放を重ねて忘却される」

 

「僧侶ベルン、お前をパーティから追放する!」




 礼拝中の信者たちがあげる祈りを割るように、勇者の声が教会にこだました。


 祈りの言葉を止めることなく、しかし視線はそちらへと集まる。祭壇で祈る司祭は何事かと目を剥いた。その隣で真似していた道化師もまた、目を剥いている。




「な、何故ですか! 勇者パーティにおける回復役として、不可欠な存在だと言ったのは貴方ではないですか!」




 聖印の押された帽子を握り締め、金髪を掻き乱しながら叫び返すのは法衣を纏った青年ベルン。

 それに対峙する蓬髪の青年アランドラは冷めた目でベルンを見ていた。




「ベルン。お前の回復魔術は本当に役に立っていた。

だが魔物の血を凍らせる魔術を身につけてからのお前はおかしい。

まるで憎しみに囚われたように、その魔術ばかりを乱用している」


「そ、それは私どもの教義にある、為せることを為せという行いに過ぎません! その証拠に回復魔術も使っているではないですか!」


「それが間に合っていないんだ! だから僕が回復魔術を身につけた!」




 その鋭い指摘にベルンは血が凍ったように動きを止めた。

 アランドラの冷ややかな眼差しで射抜かれ、詰まった言葉。ベルンが自分の胸元を抑えて力を込めても、言葉は形にならない。


 ショックを受けた様子のベルンに、周囲の信者たちは事実なのだと理解した。


 自らの言葉が浸透したことを確かめたように勇者アランドラは微かにうなずく。先程とは一転、ベルンへと優しく語りだす。




「かつて教会にいたお前は清廉だった。

 教義に従い同道することになった経緯には感謝も同情もある。だからこそ今のお前は見ていられない。

 殺戮に酔って慈悲を失いそうで。

 一度、教会で初心を取り戻せ。僧侶としての本分に立ち返るんだ」




 ベルンには反論の余地があった。

 凍血魔術を用いなければならないほどの大群相手が多かったこと。そのために回復魔術の使用頻度を下げるしかなかったこと。負った傷の危険度を見極めるのが上手くなったと、ベルンは自負していた。

 だがそれが結果として、回復をサボっているように見えた可能性にも考え至る。

 しかし、それらを口にすることに彼は躊躇いを覚えていた。


 回復魔術を教わっている時の楽しげな笑顔や、凍血魔術を行使することを頼もしいと笑う勇者。

 その親しげな様子が、全く消えている。

 そこにあるのは、まるで魔物の死骸を見るような興味を失った眼差し。

 それとは裏腹に勇者の声は優しく、しかし朗々と語りかけている。いつのまにか勇者の隣で道化師がその真似をしていた。




「ベルン。

 お前は非常に優秀な癒し手であり、また教師だった。お前の優しさと厳しさを忘れない。

 それは勇者である僕、アランドラの糧となった。

 ……ありがとう」




 それが自らを説得するためだけに語っているのではないと、ベルンは理解できてしまった。


 勇者は聴衆へのパフォーマンスとして振る舞っている。そこまで理解が及び、ベルンはかつて勇者パーティを追放された戦士バルドゥルのことを思い出していた。



 呪われた面をつけさせられた戦士は、言葉一つ残さずにパーティから追放された。

 苛烈な戦をこなすため。前衛としての役割に没頭させるため。その暴力性が人に向かうのを防ぐため。そんな理由でバルドゥルにその面をつけるように仕向けたのは誰だったか。



 そんなことに思い至る頃には、勇者アランドラはすでに教会から姿を消していた。勇者パーティの残りのメンバーと共に。

 見えたのはその最後尾で道化師の振る手だけだった。







 司祭からここに身を置くように勧められたベルンは、その誘いを辞退した。彼の僧侶としての藉は未だ出立前の国に残っているので戻らなくてはならない。




「こんなにも遠く離れた土地まで来ていたのですね……」




 勇者アランドラを追ってもパーティに戻れはしないとベルンは確信していた。


 ベルンは国境を越えて帰る道程を考える。

 勇者という後ろ盾がなければ、国境で煩雑な手続きと相応の時間、そして金が取られるだろう。

 教会に飾られた神像を見上げながら、ベルンは顧みる。


 勇者アランドラのために仲間を説得し、時に回復魔術を盾に懐柔した日々。


 そうした後ろ暗い行動に躊躇いがなくなったのはいつからか。バルドゥルに解呪を提案しなかったのは、呪いで苦しむ様に愉悦を覚えていたからではないか。

 凍血魔術が身についたのは、それを暗示していたのではないか。




「為せることを為せ、か」




 そんなことを思いながら、彼は神像を前に教義を口にする。意識してのことではなく、長年の習慣から考えるときには口から溢れでるのだ。


 その一人呟き続けている姿を、パーティ全員が不気味に感じていたことを指摘するものはいない。




 司祭だけが敬虔な信者を見守るように微笑み、ベルンに祝福の言葉を呟くのみ。

 その奇妙な光景を神像はただ静かに見下ろしていた。







僧侶というか神官というか、回復担当キャラが即死呪文を乱発して魔力切れになる光景って何故か共通認識な気がしています。

なんでですかね?

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