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暇潰市 次話街 おむにバス  作者: 誘唄
勇者は追放を重ねて忘却される
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戦士は追放を言い渡される

年に一つは長編(十万文字以上)を書こうとして全く文字数が足りなかったので、こちらに上げることにしました。

大筋としては「勇者が追放を重ねて忘れられる」という話です。

たぶん15話くらい?になります。


本項のタグ:「ファンタジー」「追放もの」「勇者」

「勇者は追放を重ねて忘却される」

 


「戦士バルドゥル、お前をパーティから追放する!」




 勇者の言葉が冒険者ギルドに響きわたり、居合わせた者たちが何事かと目を向ける。

 ギルド職員や依頼に来た商人見習いが驚きにより。戦士や僧侶などの冒険者は好奇心で。

 精霊巫女という異装や道化師までもが目を向けていた。



 様々な者の視線を集めたのは、一人の青年。

 鎧を纏った青い蓬髪の青年は視線を巡らせると、注目を集めたことを確かめるように微かに肯いた。



 半月ほど前に現れ、勇者アランドラと名乗っている彼を知る者は多い。



 しかし本物の勇者アランドラが著名だった時代から数十年。

 いまどき詐欺師でもその名を騙ることはない。


 結果、道化師よりも道化な自称勇者として知られている。




 汚れや傷もある鎧や剣と違い、彼自身には傷の痕は見つけられない。舞台役者のように整った顔立ちと相まって、彼の実力を疑わせるのに充分だった。


 それを裏付けるように、勇者パーティとしてギルドに登録していながら今まで一度も依頼を受けていない。


 このギルドには彼が魔物討伐を行なった実績がないのだ。




 対して追放を告げられたのは全身鎧の戦士バルドゥル。異貌の仮面から覗いた口元は苛立ちのためか歪んでいるが、その声を聞いたものはいない。


 今にも剣を抜きそうな剣呑な空気を放ち、それでも彼は黙っている。



 だがこの場にいる者は彼のひととなりを知っている。


 粗暴で無愛想。だが討伐依頼を毎日数件こなし、時に他の冒険者の危機を救ったこともある。





 勇者を自称し、危険領域のドラゴンゾンビを退治したと嘯くが全く実績のない役者風の青年。


 勇者パーティの戦士で、会話した者は全くいないが殴りあった者や救われた者がいる実績も実力も明らかな者。



 冒険者達がどちらに肩入れするのかは、明白だった。

 もちろん、それはそれとして面白い見せ物であることに変わりはない。




 冒険者達と違い、ギルド職員は胃が痛そうだ。

 自称勇者が領主に面会した事実を彼らは知っている。


 どこかの地方貴族のバカ息子かも知れない。

 領主がどこぞにこさえた愛妾の子かも知れない。

 それが無用なトラブルに発展しないよう、火の粉が飛んでこないように祈るように見守っている。

 できれば他所でやってほしいという本音が漏れて聞こえたが、それは叶わない。



 戦士バルドゥルが睨むのを気に留める様子もなく、自称勇者アランドラが再び口を開く。




「最近のお前はまるで狂戦士だ。

 血塗れになっても仮面を外さない奇行も理解できん。

 まともに会話すらしない」




 勇者が連ねる言葉に、戦士バルドゥルはただ俯くようにしている。うめき一つ返すことなく佇む姿は異様で、少しずつ剣呑な気配が濃くなっている。


 いつのまにか剣柄に添えた手がいつそれを抜くかわからない。名ばかりの勇者の仲間にしては、何をするかわからない恐ろしさがある。気づいた冒険者たちも酒をこぼしてはいけないと距離をとった。


 狂戦士という言葉がしっくりきたのだろう。かつて殴り飛ばされた冒険者が数名、顔を歪ませている。



 様子を伺う観衆に聞かせるように、勇者の声が隅々まで響く。




「かつて騎士だった頃は潑剌としていた。

 命令により一時除隊して同道することになった経緯には感謝も同情もある。

 だからこそ今のお前は見ていられない。まるで獣のような気配に周りも怯えているのがわかるだろう。

 一度、戦いから離れて静養しろ。王国に戻って騎士団になるのもダメだ。

 真っ当な人としての生き方を思い出すんだ」




 勇者が優しく語りかけても、戦士バルドゥルは言葉一つ返さない。みじろぎ、首を振り、仮面を指差して……やがて諦めたようにうなだれた。


 いつのまにかその隣に並んでいた道化師も、うなだれて泣き真似をしている。




「わかってくれたか。さらば戦士バルドゥル。

 お前の勇姿と献身を忘れない。それは勇者である僕、アランドラの糧となった。

 ……ありがとう」




 そう言って蓬髪の青年アランドラは冒険者ギルドを後にした。


 勇者パーティらしき者と、抜けた穴に入れないかと狙う冒険者が追随する。

 実績のない自称勇者でも、領主ゆかりならば美味い汁が吸えると見込んだのだろう。





 追うことも見送ることもなく、戦士バルドゥルはただうなだれたまま立ち尽くしていた。

 そんな彼にギルド職員の女性が近寄り、その気配に臆することなく肩を叩く。




「教会に行って、その仮面の呪いを解きましょう?」




 彼の着けている仮面は狂獣の面という珍品で知る者は少ない。装備していると一切声が出せなくなり血を好むようになる。しかも自分では外せなくなる呪いの装備だった。










 こうして戦士バルドゥルは勇者パーティを追放された。



 教会で慈愛に満ちた神父から施された解呪処理が終わった頃には、空は完全に星空へと変わっていた。


 逗留していた宿屋には既に勇者パーティは痕跡もない。宿屋の主人いわく、隣国へと向かうために昼過ぎには立ったという。

 その宿屋の看板前に腰を下ろし、バルドゥルは空を見上げている。




 バルドゥルの荷物や金と共に勇者は手紙を残していた。

 バルドゥルへの感謝と功績を称える書状だ。国へと持ち帰って報告すれば、騎士団に復帰も叶うだろう。




 それを破り捨て、踏みにじると彼は立ち上がった。





「……あのボケ野郎、絶対ぇブチ殺す」





 久しぶりに発せられた声は呪詛のように重く深い。

 その言葉がバルドゥルの心に嵌まった。


 道端で笑みを浮かべているバルドゥルに、道ゆく酔っ払いがからんでも相手にせずあしらう。



 湧き上がる怒りは全て定まった矛先に叩きつけようとバルドゥルは笑みを深くした。




 勇者の進んだ道では、魔物や山賊なども確認されている。夜間に独り身で歩くような道ではない。夜営道具もパーティの共有物だったので手元にない。



 それでも彼は迷わずに追う道を選んだ。



 勇者アランドラと切り結んだ日々。殺し切れなかった日々を思い出して、その愉悦を捨て切れなかったのだ。








 そうなることを見越した勇者は少人数で違う国へと向かっていたのだが、バルドゥルがそれを知るのは数日後のことである。








「追放もの」って書いたことないな、という理由でパーティ全員追放してみようと思って書いてみました。


次回は追放された戦士バルドゥル側に焦点を当ててみます。

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