「かくれんぼ」
【夏のホラー2021】の【かくれんぼ】という題材で最初に思い浮かんだのは、サバイバルホラー系。
……かな?
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テーブルの下で息を殺す。
その目の前を裸足が歩きまわっているのを見ながら、早くどこかに行ってくれと願う。
自分の家の中を徘徊している、凶器を持った人影。
そんなものから逃げて隠れている。
何故こんなことになってしまったのか。妻や子供達は無事だろうか。
ちょっと小腹が空いて夜中にリビングに顔を出し、水を飲んで一息。
ついでに何か食べ物がないかと見回していたとき、そいつの絶叫が響いた。
醜悪に歪んだ顔。
大きく開かれた口からは罵声が絶叫になって吐き出されている。
テーブルの上へと伸ばされた手が新聞紙を掴むのを見て、本能が叫んだ。
あいつは俺を殺す気なのだ。
シンクを背に駆け出せば、背後に振り下ろされた凶器が音を立てる。
再び響く絶叫と、繰り返し振り下ろされる凶器に背筋が凍る。
かつて見た惨劇が記憶に蘇る。
叩き潰されたのは祖父だったか、祖母だったかさえ定かではない記憶。
ひしゃげた身体を震わせて助けを求めていた姿が自分の末路かと、恐ろしくなる。
テーブルの下へと滑り込み、息を殺す。
だがそこに隠れたのは見られている。
覗き込んでくる狂人の目がこちらを捉えた。
回り込んでくるより早く反対側へと走り出し、冷蔵庫と食器棚の隙間へと身体をねじ込んだ。
そのまま奥へと這い進み振り返る。
「クッソ! ふざけんな!」
そう叫んだ狂人がスプレー缶を手にしているのを見て、慄く。
隙間へと差し込まれて噴き出すそれは、毒ガスだ。
果たして俺は逃げ切ることができるのだろうか。
冷蔵庫の壁面を走りあがり、翅を広げる。
しまった。気づかずに毒ガスを吸っていたらしい。
平衡感覚の狂った身体を浮かべた翅が、丸めた新聞紙と毒ガススプレー缶を持っている狂人へと向かわせる。
恐怖に怯えた叫びに震えながら、その顔面目指して飛んでいくのを止められない。
半狂乱で叫んでいる狂人の口が見えた。
飛ぶんだよ。
奴らは……飛ぶんだよ。
人の顔を目掛けて飛んでくるんだよ。
ほら、あなたの家にも、タンスの影やソファーの下で見つめている影が……。
聞こえてくるだろう、カサカサという奴らの足音が……!
(バル○ン焚こう)




