表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暇潰市 次話街 おむにバス  作者: 誘唄
「単話3」
64/293

薄っぺらいノートに残るもの

社会に出るとノートを取るなんて、ほぼないですね。

今ではタブレット化しているから授業でもノートを使わないって本当でしょうか?


本項のタグ:「ノート(パソコンではない)」「書き写す」「消されていく」「わざとインデントなしにしてあります」


怒りをコントロールしなさい。社会に出たら感情のままになんていられないのだから。



そんな風に怒鳴られて、力任せに引きずり倒されて、無理矢理席に座らされる。


それを見ている私は自分の感情がわからない。

怒っているのか。

悲しんでいるのか。

かわいそうだと思うのが正しいのだろうが、笑い声が聞こえているから間違えている気もする。



座らされた席で泣いている彼女は悲しいのだろうか。

それとも怒りが強すぎると泣いてしまうのだろうか。


そんな彼女の感情も、それを見て笑う彼女の感情もわからない。


楽しそうに笑いながら馬鹿にするように声をかける彼女。

そちらにも教師の目が向いて、いつまで笑っているのかと言われた。

それだけだった。



怒鳴られることも引きずり倒されることもなく、ただ軽く言われただけだった。


泣いている彼女と笑っている彼女。

いったい違いはなんだろう。

笑っている彼女が楽しんでいるのはわかっても、どこが笑えるほど楽しかったのかわからない。



まるで動かない私の感情は壊れているのだろうか。



先程まで騒いで暴れていた彼女をうるさいと感じてはいたけれど、教師のように怒鳴りつける怒りはなかった。


いまは泣くのを堪えようと俯いて動かない彼女を見る。

悲しみや憐みを感じれば、かわいそうだと思えるのか。


そんな気持ちが見つからず、正解もわからない。

だからその姿を笑いたいとも思わない。


教師の目から逃れて、未だにこっそりとからかっている笑う彼女がとても不思議。

そうしているのは、そこに喜びや幸せがあるからだろうか。

考えてみても全くそんな気持ちは見つからない。



私の感情はここにあるのに、どこにも向かずに静かにしている。


叫ぶことも泣くことも笑うこともせずに、開かれたノートと黒板に書かれた言葉の並びに違いがないか確かめる。

それが同じことを確かめ終えた頃には、見つけようとした感情を全部忘れている。




怒る。


泣く。


笑う。




そんな言葉をノートに書いても、そんな感情は湧き上がらない。


感情をコントロールして。

ちゃんとした大人になるために。


乱れた感情を振り回していた声は、今は何の感情も持たないように淡々と教科書を読んでいる。

そうあることが正しいことなのだと思うほど、感情が遠くでぼやけていくような感覚に囚われる。



失くすのではなくて、コントロールしなくちゃいけないのだと考えてみても、もうどれがどれだかわからない。




怒るってなんだっけ。


泣くってどこだっけ。


笑うってどれだっけ。




そんなことを思いながら感情のない朗読を聞き流し、私はノートをとる。



怒れ。


笑え。


泣け。



薄っぺらいノートに書いたそれらは、薄っぺらいただの言葉だ。


消しゴムで擦ると簡単に消えてなくなり、少しだけ汚れた後が残った。

そんな跡がついた場所に、黒板の文字を書き写していく。



そうして違う言葉が覆い隠すのを見て、私は少しだけ自分の感情を見つけられた。



こうやって少しずつ薄っぺらくかき消されて、他の何かで埋め尽くされて。

自分の感情なんてものが本当にあったのかさえわからなくなりながら。

こうして大人になっていくんだ。




怒り方さえ忘れながら。


笑い方さえ作り物にして。


泣き方なんて知らないように。




指先でノートの端を摘んで、少しずつ裂いていく。

黒板から書き写した、教科書のように癖のない文字。

その上を、隙間を、裂け目が静かに通り過ぎていく。



それを見ている私の中に、冷めたような、安堵するような気持ちが満ちる。


かき消されてしまった感情が、不格好な裂け目になってそこにある。



その感情をなんと呼べばいいのかわからないけれど。



それでも私にはまだ感情があるのだと思えて、静かにノートを閉じた。





「怒りや悲しみをコントロールしなさい」

なんて言われる環境が昔はよくあって、愛想笑いが身につきました。

笑い話ですね。


皆さんもたまには、ちゃんと自分の感情が動いているのか、確かめてみるのもいいかもしれません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ