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暇潰市 次話街 おむにバス  作者: 誘唄
「単話3」
57/281

世界の外の雑な話(2/5)

週末だし酒でも飲もうや。


本項のタグ:「チートとか迷惑です」「酒でも飲もうか」「グチリとキキ」

「もう本当最悪なんだけど! ちょっと聞いて!」



 通話口から聞こえる声は、いつものように怒りに満ちている。

 またご近所さんから異世界チートをプレゼントされたのだろう。


 自分で創る世界が大好きなのを知っているから、私は転生や転移がらみのプレゼントしたことはない。異世界の人間は殆どが世界を荒らすから。

 異世界チートを持っているヤツ、それが特に元人間の場合は特に予想外のことをする。その荒らしっぷりや変化が楽しめる私とは違い、仕方なく受け容れ入れているから、当然やらかしには不満が溢れる。


 たぶん、ご近所さんは空気が読めないのだろう。

 ……あんまり変なちょっかい出しているのなら、相応の対応もしてやろうかしら。


 そんなことを思いながら、今度は何に怒っているのかと聞き出していくと答えがこぼれた。



「世界に穴が空くなんて絶対許せない!」


「あー、あんた自分の世界大好きだからねぇ」



 世界に穴を開けることは、ダンジョンを置くのとは意味が違う。自作ダンジョンは別の場所や異世界を模してはいても同じ世界だ。他作ダンジョンは別世界ではあるけれど、据えた世界に組み合わせるから穴は開かない。

 アイドルのポスターを飾るのに画鋲を使いたくない、という感覚が近いだろうか。

 しかも異世界チートの場合はポスターを留めるための端っこに開ける穴ではない。大好きなアイドルや役者の目玉や鼻の穴に開く大穴だ。


 そんな異世界チートのやらかしを、今日も酒のつまみに聞いていく。




 ◆△■▽◆△■▽◆△■▽◆




 異世界転移のパターンは小説でお馴染みだった。


 チートが貰えるのなら、無手でも最強は欠かせない。そう思って手に入れたのはどんなものでも破壊できる拳だった。

 その威力の試金石もまた、雑魚に襲われた馬車と美少女というお約束通り。


 棍棒を振り回しているゴブリンっぽい魔物に、そこまでだと怒鳴りつけて僕は拳を握った。


 棍棒諸共にぶち壊してやろうと振り抜く拳が、ほんの一瞬何かの感触を伝えてくる。直後に響く、ガラスが割れたようなパリンという音。


 そうして僕の右手はどこかに消えてしまった。



 振り抜いた勢いをそのままにゴブリンにぶつかって、倒れ込んだ僕は右手を探して腕の先を見る。

 まるで包丁に切られた人参のように、滑らかな断面が手首に残っているのを確かめて、じわじわと痛みを感じはじめる。


 見上げれば木々の枝葉を背景にしてヒビが入ったような線が見えた。それがゆっくりと広がるのを見ながら、何が起こったのかまだ理解できない。

 甲高い悲鳴が上がって、そういえば美少女を助けようとしていたのだと我にかえる。


 ゴブリンが持っていたのは棍棒だと思っていたのに、どこから現れた剣で斬られたのかと疑問に思いながらゴブリンを見上げてみれば、やっぱり持っているのは棍棒だったとわかる。


 覚えているのはそこまで。


 僕の顔面にその棍棒が叩きつけられて、後はもう痛みが途絶えるのを待つだけだった。




 ◆△■▽◆△■▽◆△■▽◆




「空間を打ち抜いて穴を開けるって……なんでそんなアホなことを?」


「全然わかんないわ。おかげでその穴に周辺一帯が呑み込まれたみたいで、気づいた時には大惨事よ」


「それで漏れ出たものを回収して、ズレた星の軌道も修正……って、直接干渉するなんて珍しいねぇ?」


「だってそのままだとブラックホール化して世界全部壊れちゃうもの。地形が変わる程度なら放っておくけれど」


「何回目だっけ? 異世界転移のお裾分けされたの?」


「えっ、と……7回?かな。そのうち街が無くなったのは三つね。とりあえず全部死霊化したわ。順次転生処理するけど、イレギュラーだから調整しないとバランス悪くなるのよ」


「全部動物とか菌とかにしちゃえば?」


「バカね。そんなことしたら後々人間の世代交代で不足するじゃない」


「よくそんな細々としたことやるよねぇ」


「それが楽しいんじゃないの」



 長い付き合いだけど、そういう感覚は未だにわからない。


 それでもその楽しさを語る浮かれた声が心地良くて、私は笑いながら酒を傾けた。






酒を飲みながら愚痴をこぼせる相手は意外と貴重だったりします。

それは酒を飲み愚痴をこぼしてくれる相手が貴重だということでもあります。

特に絡んだり暴れたり泣いたり怒ったりしない(略)


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