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暇潰市 次話街 おむにバス  作者: 誘唄
「単話3」
53/293

とうとし

「尊い」という言葉について、自分なりに「こういうことなのかなぁ」という解釈(?)話にしてみました。


本項のタグ:「てぇてぇ」「尊いもの」「尊死」


 世界と称されるものは存在せず、『尊きもの』だけがありました。

 自らを最も尊いと自認していた『尊きもの』は、ふと思いつきます。


 私ほどに尊いものは存在しないことに疑いはない。しかしそれなりに尊いものがあれば、私の尊さはより明らかになるだろう。


 そうして『尊きもの』は『尊くなり得るもの』を造りました。

 それを人と名付けましたが、ただぼんやりと佇むだけ。何かが足りないのか作り損ねたかと思い、もう一つ人を造り隣に置きました。


 他にはどんなものを作ろうかと考え、自分の中にある尊いものを選んでいるうちに二つの人のことを忘れていました。

 しばらくあれでもないこれでもないと考えた後。

 造って置いたところに二つ並んだままでそこにあるのを見つけて、二つの人を観察します。



 それらは互いに向かい合い、お互いを見つめています。

 やがて目を閉じて動かなくなった片方を、もう片方が目を細めるようにして見つめています。

 それは時折入れ替わり、お互いが動かない様子を見つめています。

 そうして再び目を開くのを見て、再び静かに見つめ合うのです。



 どれだけその様子を見ていたのでしょう。

 『尊きもの』は自分の中から尊いものを選ぶことを忘れてしまうほど、その様子を見ていました。

 『尊きもの』は自分の中から溢れ出してくる、何か激しいものを感じていました。

 そしてそれが溢れるままに、二つの人にぶつけようとしていることにも気づきました。

 そうして二つの人を凝視しても、二つの人はお互いを見つめ続けています。『尊きもの』には気づいてもいないように、見ようとさえしません。



 そして二つの人は怯えるように、あるいは畏れるようにして、お互いに向けて手を伸ばしました。



 そのゆっくりと躊躇いながら近づいていく指先に、『尊きもの』は目を逸らすことができなくなりました。溢れ出るものがより激しくなっていくのを感じながらも、ただその瞬間を待ち続けるしかできなくなっていました。



 どれだけの躊躇いと畏れを超えたのでしょう。

 ついにその指先は、お互いの指先に触れました。

 その感触。

 温もり。

 そこにお互いの実在を、確かめました。


 それらは二つの人たちに、大きな変化を与えました。

 興奮したように。恥じらうように。

 二つの人の頬が染まります。

 愛おしむように。慈しむように。

 その顔が柔らかく笑みを浮かべます。

 そうした変化を起こしながら、再び二つの人はそのまま静かに見つめ合うのです。



 その一部始終を見ていた『尊きもの』は溢れ出るものの正体を知りました。

 自分の存在が消えていくことを知りました。


 『尊きもの』は二つの人たち以外には、まだ何も自分の中にあった尊いものを造り出してはいません。

 それでも『尊きもの』はとてもとても満足して、何一つとして思い残すこともなく、消えてなくなったのです。

 そうして、造るものがいなくなった世界で二つの人たちはお互いを見つめ続け、少しずつ近づいていくのです。

 ゆっくりと。ゆっくりと。

 いずれ抱き合って目を閉じた二つの人たちがそこにはあるでしょう。

 しかしそれを知るものは、二つの人たち以外には何一つないのです。








「尊い」って自分がなるものではなく、その様子を見るものだよね。


という話でした。

ツイッターを見ていると、たまに即死級のものが流れてくることがありますね。

(個々人の嗜好で「尊い」の定義は異なりますが)

こういう雰囲気は好きです。


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