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暇潰市 次話街 おむにバス  作者: 誘唄
夏のホラー2020
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みちのえき

夏のホラーイベントということで、ホラーネタです。

今年(2020年)のテーマは【駅】だそうですが、本項は若干テーマ違いな気がする。


去年のホラーイベントのタグは削除しました。「夏のホラー2020」タグは作品全域ではないので、作品タグでは付けないことにしました。


本項のタグ:「夏のホラー2020」「道の駅」「無人販売所の商品は現地調達しています」

 山を背景にして広がる田園風景は、のどかの一言に尽きる。

 前後左右、どこを見ても人影のない田舎道。

 まばらに建つ一軒家は小型のアパートくらいあり、蔵や塀がある家も多い。

 そんな風景の中、クラシックを聴きながらゆっくりと車を走らせている。


 夏の空は高く日差しも強いが、都会とは違い蒸し暑さがない。

 それでも喉は乾く。

 買ったコーヒーは既になく、自販機なんて当然見当たらない。

 ナビに出ている国道まではまだまだ遠い。

 喫茶店でもあれば嬉しいのだが、見える範囲には看板らしきものもない。

 あるのは辻に立つ道祖神と、街中では見ないほど太い松。

 クラシックの音量を下げればトンビや蝉の声に混ざって、田園に流れ込む用水路の水音とカエルの鳴き声が聞こえてくる。

 とはいえ、さすがにそれを飲む気にはならない。


 タバコで誤魔化そうかと思うが、この景色に灰や吸殻を落とすのも憚られる。

 溢れたため息に喉がひりつくのを感じ、しかめた視界にそれが見えた。


 道の駅の立て札だ。


 国道を外れた場所にあるそれは雨風によって掠れているが、それでも一応読み取れる。

 無人販売所を右に折れると十五分ほどらしい。国道に出るよりは近いか。

 とりあえずは目印になっている無人販売所を目指すと、すぐにあった。


 古びたバス停の待合所を思わせる、簡素で粗雑な建物。屋根と壁で囲った内側には、縁側程度の高さの板座敷。その上には値段と品名が書かれた木板が、商品と共に並んでいる。

 地元産なのだろう、みずみずしく形の歪な野菜。

 きゅうりやナス、インゲンなどが山盛りに置かれており、その全てが百円均一。

 試しにきゅうりを買って齧ると、爽やかな風味が溢れて乾いた喉が潤されていくのがわかる。

 一通り土産に買って行こうかと思い、板座敷の奥にあるものが目についた。

 値札のない、発泡スチロールの箱である。


 在庫を置いてあるのかと思って、ちょっと興味を持った。

 買い上げたきゅうりを退けて板座敷へとあがり、発泡スチロールの蓋を見れば、何か書いてある。


 『スズキ 千円』


 そんな名前の魚がいたような気もするが、その値段が高いのかわからない。そもそもこんな山中の田園風景にある無人販売所で売られるようなものなのだろうか。

 そう思いながら蓋を開けて中をみると、小分けにラップで包まれた赤っぽいものが入っていた。

 手にとってみれば、むしろ豚肉のような感触と色。

 この辺りには熊も出るらしく、国道の売店ではカレーのレトルトで販売されていると聞いたことがある。もしかすると熊肉だろうか。

 片手で持てる程度のものが、箱を埋めている。

 魚らしくないと思いながら、そのいくつかを手に取って掘り下げていくと、目があった。


 大きな目玉だ。その隣に切り分けられた口からは歪んだ歯列がのぞいている。

 それが人の顔であることに気づき、息を呑んで飛び跳ねた。手に力が入って、握り締めた肉が柔らかな感触を伝えてくる。

 それもまた、箱の中身だ。

 おそらくは解体された一人の人間の肉。



 振り払うようにそれを投げ捨て、転がるようにして車に乗り込む。

 震える手で携帯を弄っても、圏外の表示が出て助手席に投げ捨てた。

 車を走らせて道の駅を目指す。途中にあるのは田園と松林だけで、家もなければ人もいない。

 見なかったことにして立ち去り、忘れてしまうことも考えた。

 しかし食いかけのきゅうりも置いたままだし、箱には指紋も付いている。万一変な誤解を受けたらたまったものではない。


 道の駅を見つけて人の姿が見えたときには、その人たちに警察を呼んでもらって立ち会うほうがいいと考えるだけの落ち着きを取り戻していた。

 うろたえて少しハンドル操作やブレーキの掛け方に迷いながら車を止めて、手間取りながらドアを開けた。

 もつれた足では車から降りることができず、倒れ込むように車から落ちる。

 何ごとかと声をかけて、助け起こしてくれた彼らに支えられながら、無人販売所で見たものを説明するのに、かなり舌を噛んだ。

 道の駅の中へと運ばれて座敷にあげられて、お茶を飲んでようやく話が伝わった頃には、苦笑していた彼らの顔から表情が抜けていった。



「わがっだ。電話しでぐっがら」


「んで、おめさ、なめえは?」



 こちらの慌てぶりを見て、落ち着かせようとしているのだろう。

 一人が固定電話機に向かい、ほかの人々がこちらを気にかけてくるのを見ながら、答えを返す。

 安心感を覚えると、身体が震えていることに今更気付いた。

 抑えた手も震えている。カチカチとなっているのは歯だろうか。

 眼球もねじくれるように蠢いて焦点が定まらず、頬もひきつって唇が笑みの形に歪む。

 あぐらをかいていた足もバタ足のように震えて、座っていることもできずに倒れ込む。

 首さえも頭を支えるどころか繰り返し床に打ち付けていく痛み。

 笑い声。笑い声。叫び声。雑談。笑い声。

 笑っているのが自分だとわかっても、肺が震えているせいだとわかっても、笑い声を止められない。

 そんな姿を気にするでもなく、道の駅にいた人々は雑談を続けている。

 熊寄せの餌。新鮮。独り者。



「こどしぁ客こなんだで、あまり売れねぇなぁ」



 レトルトカレーの箱に書かれた熊が、こちらを見て笑っていた。









昔は道の駅というと田舎道にある無人販売所のことを指したという記憶があります。

地域的なものか錯誤か。騙された可能性もありますが。

道の駅には無人販売所が併設されていたのを、イコールと覚えたのかもしれません。


確かなことは、とれたてのきゅうりはうまい、ということです。



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