表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暇潰市 次話街 おむにバス  作者: 誘唄
童話や寓話のような何か
32/285

湖の人魚姫

童話や寓話をネタにしていますが、いろいろ原作を無視している気がします。

お暇な方はぜひ原作も読んでみてください。


本項のタグ:「童話・寓話」「原作要素は薄め」「人魚姫」「特定のユーザーにとってはホラーかも?」

 大きな海で生まれた人魚姫は、人間に見染められました。

 多くの人魚たちが祝福する声に送られて、人魚姫は大きな海の外へと連れて行かれました。

 人間が用意していたのは、大きな海に比べれば随分と小さな湖でしたが、人魚姫は喜んでそこで生活を始めます。



 人間は人魚の歌声に魅せられていたのです。

 だから毎日人魚姫に会いにきました。そうして毎日歌声を楽しむのを見て、人魚姫もとても幸せだと感じていました。

 人魚姫の住んでいる湖からは、港へと繋がる川があります。

 時折、人間は人魚姫を海へと連れだして、その歌声を様々な人々に披露するようになりました。


 人魚姫は人間が喜ぶので、人々に歌声を届けます。

 その海は人魚姫が生まれた大きな海にもつながっているのですが、それはとても遠く離れています。

 しかし人魚姫は大きな海へと帰りたいとは思いませんでした。



 人間と一緒にいたい。

 人間を喜ばせたい。



 人魚姫はそう思い、毎日歌声を届けました。

 それに人間も応えるように曲を奏で、詩を紡いで歌を作り、人魚姫に贈りました。

 人魚姫はその歌をとても好きになり、どこに行っても飽きることなく何度でも歌いました。





 湖にはたくさんの箱のようなものが沈んでおり、そのいくつかは湖の上にまで伸びていました。

 人魚姫は人間が訪れていないときは湖の中を泳いで、それらの箱の中の様子を眺めていました。

 箱の中には様々なものがひしめいています。その多くは奇異な模様がびっしりと書かれたものが詰め込まれています。

 中には画家が住んでいる箱もあり、見た目にも楽しめるものもありました。

 しかし、どの箱も出入りができるようにはなっておらず、交流といっても頑丈なガラス越しに手を振りあうくらい。


 その中で唯一、楽団が入っている箱はガラスに触れることで音楽が伝わってきました。時折、その箱から湖上に飛び出ている演奏場で様々な楽曲を披露しているものたちです。

 人魚姫は特に気に入り、暇があればその音楽を真似て歌を歌っていました。

 いつか一緒に歌って人間をもっと喜ばせたいと思っていました。





 しかし、少しずつ人間が人魚姫に会うことは減っていきました。



 他の箱を開いている姿を見て、人魚姫が手を振っても忙しそうにして気づきません。

 音楽も湖上の演奏場で流れるものばかり。

 湖に沈んだ箱も増えていき、古い箱が崩れて壊れていくことさえありました。

 湖の底ではそうした箱や中身の残骸が泥に埋れて沈んでいます。

 湖の縁を見あげると、大きな機械が並んでいました。それは大きな杭をぶら下げており、湖の上から落下させるものでした。

 いくつもの箱がその杭に貫かれて、バラバラになって湖の底へと沈んでいきます。

 杭が落ちる衝撃は湖全体を震わせます。その中にいた人魚姫は全身を打たれたような激しい痛みと、崩れ落ちていくことへの恐怖を刻み込まれてしまいました。



 そうして人魚姫はやがて、箱にこもったまま湖に出ることさえなくなってしまいました。



 人魚姫は箱の中で震えています。

 震えながら、人間に貰った歌を歌い続けています。

 いつか杭が落ちてきて、人魚姫の住んでいる箱も壊してしまうかもしれません。

 その恐怖に耐えるために、人間の喜ぶ姿を思い浮かべて歌っています。




 それでも、人間は人魚姫を訪れることはなかったのです。




 次々と新しい箱が沈められて、次々と古い箱が崩されていきました。

 人間の指示によって、湖の縁で杭打ち機を操る業者たちは、鼻歌交じりで杭を落としていきます。

 それは人間が人魚姫に贈った歌でしたが、音程もリズムもデタラメな雑音のような鼻歌でした。

 しかしその鼻歌でさえ人間の耳には届くことがなく、やがて人間はその歌のことさえ忘れてしまいました。





 やがて人間は新しい湖を見つけて、この湖に沈んでいるもののことさえ忘れてしまいました。





 そうして、湖には誰も訪れなくなりました。

 湖にあった箱もほとんどが崩れ落ちて、湖の底に埋もれています。

 海へと繋がっていた場所も埋もれてしまい、巡らなくなった水はゆっくりと濁り、淀んでいくだけ。

 腐敗したガスが泡となって弾ける様子も、湖への道が閉ざされた今となっては、誰も目にすることはありません。

 そこから歌声が聞こえてくることなど、誰一人として知ることなく、湖は緩やかに埋もれていくのです。







 ◆◆◆舞台装置などの紹介(あるいは暗喩の説明)◆◆◆


『大きな海』 ネット。人魚たちの購入が可能。


『湖』 個人所有のパソコン。


『港』 アップロード先のサイトなど。


『人魚姫』 人の声を模して歌を歌わせることができるソフト。その購入された個人所有品。






 あなたの人魚姫は、いまも湖の底で歌っているのです。







縁がなかったので、筆者の湖に人魚姫が来たことはありません。

川縁から他の湖に住む人魚姫の歌を聞いたことは何度もありますが。


アニメのコマーシャルか予告で、人魚姫が歌っていたような? という薄い記憶によってこんな話になりました。

原作で歌っていたかは全く覚えていません。

気になった方は原作を読んでみるのはいかがでしょうか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ