寝落ちしているときにかくんとさせる仕事
なろうイベント「春チャレンジ2026」のお題「仕事」ということで書いてみた話。
本項のタグ:「春チャレンジ2026」「仕事」「優秀な人材を募集中」「アットホームで風通しが良い環境」「ライフスタイルに合った働き方」「充実した福利厚生や様々な制度」
睡眠外来に仕事を紹介されたのは俺だけではないらしい。
ブラック企業で不眠症を併発した、なんて話は新しい職場では珍しくもなかった。睡眠外来に来ている時点で何かしらの問題を抱えているのはわかりきったことだ。
お互いさわり程度の背景を見せ合い、お互いに苦労したんだなと苦笑を交わす。再就職した際の顔見せはそんな感じで終わり、しかし結局はそこもそれなりのブラック企業だとわかるまで、そう時間はいらなかった。
いまどきの会社でノルマがあるところは珍しいだろうし、勤務形態が四六時中待機扱いで随時勤務実態報告が必要というのはもっと少ないだろう。
それでも労基に追い込まれることもなく、むしろもっと仕事の成果を上げるように発破をかけられている仕事。
これがある種の特殊技能を要する仕事でなければ、そして睡眠外来にまつわる国主導の権益がなければ、すぐにでも問題視されていると思えた。
しかし同時に、じゃあ仕事内容と実務の説明を実演も交えてやってみろと言われても非常に困る仕事であることも事実だった。
その特殊技能を俺が持っていることは睡眠外来の問診待ちのときに受付の看護師が気づいた。
当時の俺は常に夢現で、夢と現実の区別がつかないまま仕事をするのが当たり前になっており、幻覚が見えるのは日常の一部と化していたが、それすら自覚していなかった。
ただ、積まれたブロックの上で居眠りするダルマの気持ちよさそうな寝顔にイラついて、置いてある木槌でスコンとブロックを弾き飛ばした。一瞬、浮かんだダルマがストンとブロックごと下に落ちて、微かに跳ねた。
ブロックの上で驚いて目を覚ましたダルマの顔を見て、笑みが溢れる。同じ待合室で居眠りしていたおっさんの頭がかくんとなって驚いて起き、寝てないですと叫んだ声で目が覚めた。
看護師が問診時に医者にそのときのことを言いつけて、仕事を紹介された。
入社面談では俺の特殊技能がダルマ落としだということを評価して採用すると言われたが、当然まだ当時の俺は現実だとは理解できていなかった。面接官として座っていたのが白衣を着たサイに見えていたせいもあるだろう。
ひと通りの研修を受けて同僚にも似たような特殊技能があると知ってからもしばらくは現実味がなかった。むしろ研修中は定時退社ができていたせいもあり、これが夢なら覚めなければいいな、などと思っていた。
しかしどうやら現実であるらしいと気づいたのは、研修中の居眠りだ。
俺だけではない。全員が冗談のように眠りに落ち、また全員が同じ体験をした。
金縛り。
科学的にはレム睡眠とノンレム睡眠の都合という説明がつけられている、という研修内容よりも、隣で半目を剥いてよだれを垂れ流す顔が忘れられない。
未だに忘れろと念を押されるせいで、却って記憶に定着してしまった。
特殊技能の実地研修では監督官により眠りに落とされたし、逆に特殊技能を用いて起こした。
その結果で配属先が決まり、半目ヨダレ顔とは同僚になった。
以来、覚醒部落としチーム所属と書かれたシールのついた社用携帯を持たされ、毎日外回りをさせられている。
昼間は学校付近を車で徘徊し、夜は繁華街の裏路地付近を徘徊して終電に乗って駅のホームをチェック、最終駅で相方の車に乗って朝まで交代しつつ渋滞予測を元に高速道路を巡り、学生の登校時間に合わせて戻って小休憩を挟んだら繰り返し。
半目ヨダレ顔になる暇も暇もない同僚は助手席でヨダレの代わりにフェロモンと香水と愚痴を撒き散らしている。
なかなか進まない車列を睨み、追い越していく隣車線の車に悪態をつき、渋滞が起こる理由について語り出した。以前までやっていた仕事が、渋滞を起こす仕事だったという。
事故でも起こすのかと尋ねると、小馬鹿にしたような笑みとともに答えが返ってくる。
二車線なら二台、三者線なら三台で並んで走るのだと。渋滞の先頭にいる車が渋滞に巻き込まれているわけがなく、つまりその先頭車両たちが渋滞を起こしているのだという。安全マージンが車間距離に影響して止まる車が出てくるという説明を昔どこかで聞いたように思いながら、何の意味があるのかわからない仕事だと前の車両の尻を睨みつつ返すと、小馬鹿にした笑い声が隣で漏れた。ドライバーに車間距離を意識させて安全意識を高めることと、渋滞発生への慣れを植え付ける意味があるのだという。
進まない車列に覚える苛立ちは作り物も本物もないだろうと舌打ちしても、隣の車列だけが進んでいく。じゃあなんでそんな意味のある仕事から、こんな意味のわからない仕事に変わったのかと尋ねると、面倒くさそうに、仕事はやりがい搾取のだという愚痴があくびとともに溢れたので視線を向ける。
その向こう側で進んでいく運転手が船を漕ぐのが見えた。
重なるように見えるダルマの下にあるブロックを槌を振って弾き飛ばすと、運転手の身体が一瞬落ちて跳ねた。慌ててハンドルを握り直して周囲を確かめて、手探りにタバコかガムを探す姿を見せて車列に押されて見えなくなる。
少なくとも渋滞の悪化は防げているのだろうと思いつつ、やり遂げた顔を向けた同僚に笑みを返してやると、槌を振るタイミングを奪われた同僚からやりがい搾取仕事だと愚痴が溢れた。
自社製品は「快適な睡眠による最適な悪夢」で面接官もやった獏がCEO。
金縛りチームや夢枕チームの他に悪夢企画推進部、憑依検証部、誘眠導眠開発研究室など、あなたのスキルに合った部署で活躍できます。
ご希望の方はもれなく夢の中で両足を掴まれて押し入れに引き摺り込まれます。
……なお、びっくりして目が覚めた私は不採用でした。




