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暇潰市 次話街 おむにバス  作者: 誘唄
「単話2」
25/316

脱出ゲームをしてみよう

ゲームのジャンルにもなっている「脱出もの」をネタにしてみました。

殺人のために密室を使う話は世に溢れていますが、本話は脱出が主軸なので殺人はありません。



本項のタグ:「脱出もの」「生配信の舞台装置」「プロデューサー最後の仕事?」

 地下室での作業に、どれくらい時間をかけただろうか。

 社長の個人資産である別宅の地下室。次の収録を最後にして転職したい旨を伝えた結果、押しつけられた仕事である。絶対に今回を最後に辞めてやる。

 会社組織からの脱出をするために脱出ゲームの舞台装置を作らされたのは、単純に社長の性格が悪いためだろう。



 一番手間がかからなかったのは、数字式錠前で閉じた五箇所の引き出しだ。時間をかければ総当たりでも開けられるだろうが、五桁を五箇所は相当な手間になる。答えの数字は全て壁に鏡文字で書いてあるから、そんなことはしないと思うが。




 逆に手間がかかったのはスイッチ式のロックだ。

 一つは変色スイッチ。

 モニター下のスイッチを押すと、モニターの色が変わるアレだ。

 そんなロック方式の錠前や箱などは見つけられなかったため、自作することになった。

 色変化LEDのスイッチを流用して、スイッチを押した回数にリンクさせるのは結構な手間がかかった。

 そのヒントは地下室全体に分けた。

 四箇所に高さを変えて塗られているスイッチのマークは、水に濡らすと変色する塗料で描いてある。最奥の部屋で目覚めるベッドにある枕の裏側。三番目の部屋に置かれた観葉植物を植えた鉢の下。二番目の部屋に置かれた丸椅子の座椅子部分だけは見ればすぐに気づくだろうが、テーブルの裏側は盲点だろう。



 モニターに図形を表示させる変形スイッチを作った手間に関しては考えたくもない。

 変形スイッチにかかった手間のせいもあり、そちらのヒントは若干の手抜きを否めない。

 ヒントは全て二番目の部屋のテーブルの脚にまとめてしまった。

 カラーコーティングされたワイヤーを、色毎にコの字型の留め具で固定してある。五角形を一つ。二つ重なった三角形を二つ。四角を田の字型に一つ。あとは留め具を時計の文字盤のように固定した、ワイヤー無しのもの。

 変色スイッチの誤認用としては不十分だが、あまり難しくすると出演者である弊社アイドルの頭では解けない可能性が高い。この程度なら大丈夫だろうか。



 実際に作ってみたが、地下室に閉じ込められて実際にさまよう方が楽だと思える。

 だがそれは彼女たち出演者の仕事だ。そのための舞台装置作成がプロデューサーの仕事かと言われると疑問しかない。

 しかし彼女たちに一矢報いるため、裏方役と自分に言い聞かせ続けてやり遂げた。



 地下室を鉄板溶接で三部屋に区切るだけでも相当な労力だった。見栄えを良くするためだけに用意された使いもしない家具を、耐水用コーティングを施したり固定したり、見えない部分に費やした労力も多い。

 それぞれの部屋に設置した箱は、力任せに外せないように床に溶接してある。

 さらにそれらを覆うように強化ガラスで囲み込んである。ナットで固定したものとネジで固定したものの二種類だから、まとめて開けることはできない。強化ガラスにはレンチとドライバーは引き出しに入っていると書いておいた。






 全く説明せずに脱出ゲームをやらせてみよう、という企画である。

 彼女たちが無様にうろたえ、さまよい、あがく姿を配信するために、この手間をかけている。

 そのために監視カメラをいくつも設置した。天井にダミーをいくつか取り付けてあるので、壊されるとしてもそちらだけで済むだろう。

 今は全ての設営が終わり、最後の仕上げである配信チェックを行いながら、スイッチの動作確認などを行なっているところだ。



 隠しカメラが映す自分の姿も隠しマイクが拾う声も、携帯越しの同僚からクリアに確認できると回答を得られた。問題なく本番を行えるだろう。

 これで最後の仕事が終わった。普段から手癖足癖が悪く他人使いの荒い弊社アイドルたちの横暴とも、これでお別れである。

 彼女たちの笑顔が一瞬過ぎり、少しだけ後ろ髪を引かれた気分がして仕事風景が蘇る。



 持ち物を勝手に持ち出されたり、飯を盗られたりは日常茶飯事。毎日のようにマッサージをさせられたり、下着の比較に呼び出されたり、事務所で寝ている隙に脱がされかけたこともあったな。

 家の鍵を盗られたことが本気で仕事を辞めようと決意したきっかけでもある。幸いギリギリで合鍵を作られる前に止められたが、未だに油断はできない。全く反省せずに逆ギレするあたり、本当にあいつらは理解できない。

 省みて改めて身の危険を再確認して、乾いた笑いが漏れた。



 そんな彼女たちの盗み癖は視聴者や同僚も把握している。一度でいいから追い詰められているところを見たいのは彼らも同じらしい。

 同僚たちの協力もあり、企画を察知されないように彼女たちは地下室には立ち寄っていない。今も地上部にある配信用の部屋で生配信中だ。

 その配信終了後に、この企画が生配信される予定になっている。予定時刻に間に合うように仕事を仕上げられたことに、正直充足感と安堵が溢れる。

 彼女たちの歌を口ずさみながら地下室の扉の前へと立ち、ポケットに手を入れた。



 地下室から出るためのドアは専用の鍵がないと開かない。

 それは最奥の部屋に固定された箱の中にあり、開けるには三つのパーツを嵌め込む必要がある。

 一つは変色スイッチの付いた箱の中。

 一つは変形スイッチの付いた箱の中だ。

 最後の一つはカード程度の厚みと大きさしかなく、リビングに置いた箱に入れてある。彼女たちが地下室の扉が開かないのを確認した後に、その隙間から差し込むためだ。

 追い詰められた状況で再確認を行わせるというのは、結構な嫌がらせである。

 揃って頭を抱えるだろう姿を想像しながら、ポケット内で掴んだキーホルダーを取り出す。





「…………あ」





 生配信の終わった彼女たちは、着替えのために地下室へと誘導されて閉じ込められる予定なので、地下室への扉は閉めていなかった。



 地下室の扉を内側から開くために鍵が必要だが、完全に密閉しているわけではない。

 パニック演出のために排水溝を塞いであり、ゲーム開始に合わせて水をゆっくりと流し入れていく。それは徐々に水没していく部屋から逃げるという状況を作り出す。もちろん、モニターで確認しながら適当なところで水は止めるし、排水溝も遠隔で開通させるのだが。

 自社アイドルの醜態や痴態を配信することを迷いもせず、更に水責めにしようと発案した社長は確実に下種である。

 しかしその本番を前にして、一つ重大な事実に気がついた。




「……スペアキー」




 最奥の部屋にある箱には、地下室から出るための鍵がある。当然それは本番で使うため、スペアキーをキーホルダーにつけてある。


 はず、だった。



 抜き取られたキーホルダーを手に、何故か閉ざされている地下室の扉を前に、嫌な予感が溢れる。

 見ている同僚が気づいて扉を開けてくれるだろうと携帯へと呼びかけると、通話が切られた。






『あー、てすてす。お、聞こえてるね』






 代わりに、拡声器で呼びかけるような声が響く。

 地下室にスピーカーが設置されていると察したが、そんなものを設置した覚えはない。

 だがその声の主が出演予定者であり、この前も鍵をスリ取った人物だと理解して全てを悟った。

 絶望感に包まれながら携帯画面へと目を向けると、この企画に出演予定だったはずの彼女たちが揃って手を振っていた。

 その手にスペアキーを揺らしながら。





『それでは、本日のメインイベント! リアル脱出ゲームの、はっじまっりでぇ〜っす!』





 その声に合わせて、地下室の扉の隙間から予定よりも勢いよく水が流れ込んでくる。

 足先が濡れて冷えていくのを感じながら、固く決意する。



 …………絶対に今日で辞めてやる。












 その後。



 無様にうろたえ、さまよい、あがく姿をアーカイブに残さないことを条件に退職は跳ね除けられた。

 それだけではない。

 地下室で溺れかけながら、脱出するための条件として家の合鍵を作られた。

 退職したら合鍵を使って住み込むと脅され、未だに転職できずにいる。

 ……数日おきに出演者たちに襲撃され、永久就職を強要される職場をどうにかして辞めたいが、前途は多難である。















某アイドルプロデュースゲームが、芸能界ではなく配信主軸だとプロデューサーってこんな感じかなぁ、とか思いながら書いてみました。


なお、同僚は退職させないために扉を閉めて電話を切りました。

社長は最初から主人公を閉じ込めるつもりでいました。

アイドルたちは最初から全部知っていました。


同僚が裏切る、社長が黒い、アイドルに狙われる、プロデューサーが不憫、これらはそのゲームの(というか二次創作動画の)影響です。

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