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暇潰市 次話街 おむにバス  作者: 誘唄
「単話2」
23/279

ニヤニヤとニヤニヤしたいお姉さんの話

若干時事ネタ風。

しかしあまり難しいことは考えつかなかったので、こんな感じになりました。


本項のタグ:「姉なるものの業務」「ニヤニヤ」「裸族の姉と高校生の弟」「エッチ(ちょっとだけよ)」

 連続勤務&夜勤という鬼畜シフトをこなして帰宅した私を出迎えてくれたのは、飼い猫であるニヤニヤの真っ白な後ろ姿だけだった。

 靴を脱いで玄関に倒れ込み這い寄るようにして癒しを求めて伸ばした私の手を、振り返ることなく去っていくクールなモフモフ姿はいつもと同じ。

 同じ女としてその背中はちょっと見習いたいなどと思いながら、程遠い姿の自分に鞭を打って起き上がる。

 何故かリビングの明かりが点いているので、どうやら弟が家にいるらしいと考え至る。高校生の弟が家にいるということは多分土曜日か日曜日だろうと思うのだけれど、何故か違和感を覚えた。

 しかし最早、曜日感覚さえわからない私に違和感を晴らせるだけの思考力は存在しない。

 まずは風呂に入って魂を蘇生してこよう。





 風呂上がりで頭からバスタオルをかぶっただけの姿のままリビングへと足を運んでみると、弟の姿はそこにはなかった。多分自室にいるのだろう。

 とりあえず牛乳を飲みながら冷蔵庫の中身を確かめる。料理の残り物を貰おうかと思い、せっかくなので弟と一緒に食べようと思って声をかけてみた。



「たっくーん? ご飯食べようー?」



 返事がない。部屋にこもっている時の弟はヘッドホンを常備しているせいか、声が聞こえていないことが多い。そのくせ部屋に入ると嫌がるのは理不尽だと思うので、私は今日も敢えて弟の部屋へと踏み入ってやろうと決意する。

 飲み残した牛乳を冷蔵庫に戻して、足音を殺して弟の部屋に近づく。ニヤニヤが入り込んだのか少しだけ開けられたドアの隙間から中を窺う。



「あれ? ……あ、トイレか」



 どうやら入れ違いでトイレに行ったらしい。家にいたのに自慢のお姉様を出迎えしない弟に、ニヤニヤの爪の垢でも飲ませてやろうかと思いながら部屋を見渡す。

 昔とあまり変わらない漫画の並んだ部屋。ベッドではいつのまにか上がり込んだニヤニヤが手をモミモミして喉を鳴らしている。

 個人用コタツでもある机の上にノートPCが置かれているのを見つけて、私の心にイタズラ心が芽生えた。

 誰も家人がいない中で男子高校生である弟が何を楽しんで、そして今トイレにこもっているのか姉である私には知る権利がある。そしてニヤニヤと一緒にニヤニヤとして弟をからかうのだ。



「これは姉なるものの義務だから、仕方ないよね〜」



 モニターの正面に座りキーボードに触れるとスリープから復旧した。パスワード設定もなく画面が再表示され、私の頭に一瞬ハテナマークが過ぎる。

 予想していたのはエロ系の何かだ。萌え絵であれ実写であれ、お姉さん系のネタだったら一生からかって遊べると思っていた。

 しかし画面に映っているのは、分割されたように並んだ小窓。およそ三十個が綺麗に並んで表示されており、それぞれに部屋の背景や猫らしきものの背中などが映り込んでいる。

 全くエロ気とは無関係な画面を見ながら、期待外れを感じてバスタオル越しに頭を掻く。



「……まさか、盗撮とかじゃないよね?」



 ちょっと冷えてきたのでコタツのスイッチに手を伸ばす。



「ん。……ん? あ、あれ? 入らな……ん……何でこんな固……あ、入った、かな? ……うん、入った。んふぅ〜あったかぁい…………?」



 前屈みになって机に胸を押し付けながら、固まっていたコタツのスイッチを入れた私の視界で何かが動いた。

 ニヤニヤはベッドの上で寝息をたてているし、小窓にいる猫らしきものは動いていない。

 でも、ほかの小窓が変わっていた。



 無表情のままでこちらを凝視している小窓の中の女子高生。

 口元を隠しているけれど顔がゆるむのを隠しきれていない男子高校生。

 それ以外にもいくつかの小窓に、弟と同年代くらいの男女の姿が映し出されており、それはノートPC越しにこちらを見ているように見えた。

 そう、こちら。

 つまり私を。



 風呂上がりでバスタオルをかぶっただけの姿で、机に胸を押し付けながらノートPCのカメラに向かって迫っている私を。



「〜〜〜〜!?」



 私が画面に映っているものがチャットだと気づいた、その直後。

 風呂の熱さなど比較にならない高熱が一気に頭を沸騰させ、反射的に身体を反らせてバスタオルが滑り落ちて。

 両手に掴んだバスタオルをノートPCに被せて隠そうと両手を伸ばし、勢いそのままにモニターに拳が入り。

 バスタオルを絡めとるように吹き飛ばされていくのに引っ張られてヘッドホンがコタツの上を転がっていき。

 それらの音に驚き、ベッドの上で飛び起きて毛を逆立てて私を睨むニヤニヤに威嚇されて、私はやっと我に返った。



 バスタオルを身体に巻いて立ち上がるとかノートPCを閉じるとかでよかったのでは、と思い至るまではそれほどかからなかった。

 ちゃんと落ち着こうと思いながら息を整えていくほど、私はある事実へと思い至りそこから思考を逃避させようとする。



 しかし、いつからそんな私を見ていたのだろうか。

 気配もなくドア横に立っていた弟が、ニヤニヤとした顔で私を見ていたことに気づく。





「俺のクラスメイトに露出趣味を披露するなよ」


「ちがうのっ!?」





 その叫びに耐えきれなくなったのか、ニヤニヤがドアと弟の隙間から逃げていく。

 きっと私の髪の毛も、その背中と同じくらい逆立っているだろう。もしかしたら頭からは湯気も立ち昇っているかもしれない。



「まさか、『エッチなお姉さん』がこんな身近に実在したとは」



 とりあえず今の私にできることは、羞恥に任せて弟を殴ることだけである。

















 その後しばらく私は弟から「エッチなお姉さん」扱いをされることになり、更なる羞恥に顔から火を吹くことになるが、腕力に物を言わせている私には未だ知らない話だ。



 なお、ノートPCのカメラ機能が停止させてあったことや、かわりにニヤニヤの毛繕い動画が流されていたことを知るのは半年ほど後のことである。












こんな姉がほしい人生だった……とか思っていただければ幸い。


猫のニヤニヤは弟が終日在宅しているのでご満悦です。

こんな猫がほしい人生だった……とか思っていただけるのであれば、ぜひ愛猫溺愛ライフへの第一歩を踏み出していただきたい。

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