夏にまにあえ
本項は短話読み切りとなります。
6年?くらい昔に友人に「(個人の)生放送で使うホラーネタ書いて?」と言われて書いたものです。
発掘したのであげております。
本項のタグ:「ホラー」「利息」「脂肪」「古々々々々々作品の使いまわし」
会社の同僚と冷やかしでいった合コンで気が合う相手が見つかり、ついうっかり海に行く約束をしてしまった。
…………おなか周りがちょっと摘まめた(自称)。後悔先に立たず。
ダイエットを計画したが思うようには痩せられない。
ふとエステの広告の「まだ間に合う!」という言葉に縋り、施療を受けることにした。
新式の施療を受けることになる。
ボディローションのようなものを塗布されて、実際に体験してみる。
1回でも効果はあるが、繰り返しでより効果が出るといわれる。
そして、繰り返しの使用を希望ならば2週間後に予約を取り、その時の料金も今回の分に合算して割引にしてくれるという。
1.乾いた布で拭い取る。
2.湿らせた布で患部を拭う。
3.もう一度、乾いた布で拭い取る。
4.これらの布は洗わずに、必ず2週間以内に当クリニックに提出すること。
5.効果は一時的なものだということをお忘れなく。
買取はできないが、貸し付けはできるといわれた。
その場合に守るルールも。奇妙なことだ。
いかがわしいことに利用されるのかも、と思ったが、効果があるのなら。
そう思って、貸し出しをお願いした。
そして、そのボディローションを渡されて、その代金と割引分が相殺になっているのを確認した。
まぁ、そんなことだろうとは思ったが。
1週間後、効果はてきめんだった。
くびれ。
二の腕や腿のたるみもなくなった。
まるでモデルのような姿が鏡に映っている。
海に行ったのは気持ちがよかった。
彼の反応だけではなく、周囲の目も私を満足させた。
約束していたクリニックへの訪問。
言いつけは守らなかった。どうせわからないのだから。
普段使っているボディローションをタオルに吸わせて、風呂場の床を拭いたタオルと合わせて提出した。
暑い日が続いた。
彼とは海に行ってから会わなくなっていた。
もっといい男が狙えるとわかったから。
あれから、体のケアを怠らないようにしている。
マッサージやストレッチ。
毎日朝と夜の体重管理。
…………なのに。
ある朝、体重が増えていた。2kg。
便秘でもないのに。なんで。
おなかの調子でも悪いのかも。
そう思っておなかをさすったとき。
膨らんでいる気がした。
そんな馬鹿な。裸になって鏡を見る。ありえない。
モデルのような私はそこにはいなかった。
普通の、どこにでもいるような、ありふれた女の私がそこにいた。
思い出した。
効果は一時的なもの。
そういわれていたことを。
でも、それならもう一度クリニックに行けばいい。
あの施療を行えば、それでまたモデルのような私に戻れる。
クリニックでの対応に私は激怒した。
「予約でいっぱい」
「貸し付けが終わるまで利用できない」
私は客なのに。お金を払うって言っているのに。
とりあえず、施療が出来るようになったら1番に連絡をするように念押しして、その日は家に帰った。
翌日の朝、なんだか体がむくんでいた。
夕べ飲みすぎたのかもしれない。イライラしていたから。
そんなことを思いながら、体重計に乗った。
まだ酒が抜けていない。そう思った。
さらに3kg増えている。
まるっきり普段の私だ。
酒が残って便秘になって、体重が増えてあわてて運動して。
早くクリニックでやせないと。
夏が終わってしまったら、なんのために男を袖にしたの。
翌朝、目覚めて顔を洗おうとして、鏡に映るものがなんなのかわからなかった。
きっと寝ぼけているんだ。そう思って顔に手を当てた。
その時音が響いた。
甲高い、耳障りな声。
それが目の前にある何かの叫びだと気が付いた。
そう、それは叫んでいた。
絶望したように、恐怖したように叫んでいた。
でも、それが自分の悲鳴だということに、しばらく私は気づかなかった。
目の前の鏡に自分が映るという当たり前のことがわからないほど、そこに映っている私は、私ではなくなっていた。
頬から首にかけて、溶けたようになった私がいた。瞼も唇も、ふやけて膨らんでいるのが見えた。
まるで違う顔になった私が、そこに映っていた。
どれくらいの間、時間がたったのだろう。
私は気を失っていたのか、いつの間にかその場に崩れ落ちていた。
鏡を見るのが怖くて、怖くて、怖くて。膝を抱え込もうとして、ぞっとした。
抱え込もうとした足に、自分の体が触れた感触があった。
自分の、おなかの感触。
まるで妊婦のようになったおなかが、私の腿を押し返していた。
自分の体が、どんどん膨らんでいる。いや、そうじゃない。
太っているんだ。
それも、おなかと、腿と、首と頬と、二の腕も。
パニックの中で、そう気づいた。
太りたくないところばかりが太っている。こうしている今も。どんどん、脂肪が増えていく。
ふ、と。
クリニックのことを思い出した。
あれのせい? ちゃんとルールをまもらなかったから?
でも、私は首や頬には使わなかったのに。なんで顔までこんなことになっているの?
這いずるようにして部屋に行き、携帯をつかんでクリニックへと電話する。
「ご説明しました通りですが」
「こんなのは聞いていない! なんとかしてよ!」
「最初に説明しましたように、買取は出来ませんので。貸し付けていただいたのですから、利息をお支払するのは当然のことです」
「かし・・・え?」
「ですから、当クリニックでは脂肪の買い取りはしておりません。ですが、貸し付けていただいた脂肪にはお利息をお支払しております」
「なに・・・? なにを言ってるの? 脂肪の利息?」
「脂肪を貸し付けて頂いた際に、担保として薬剤をお渡ししましたが。そちらをお返しいただきませんと、私どもも支払いを続けざるを得ません。必ず返却するようにご案内いたしました」
「・・・そ、あ、え?」
「端的に説明いたしますと、私どもが薬剤を担保に脂肪を借りた。その利息として脂肪を払っているのです。お金を借りれば多くお金を払う。それと同じことです。それでは、担保の返却はお早めに。失礼いたします」
プッ。つー。つー。つー。
あまりにも昔のこと過ぎて、この作品を友人が実際に生放送とか使ったのか、全く覚えていない。
……というか、本当に渡したのか?
…………いや、そもそも、そんな友人は本当に実在したのか……?
生放送の記憶がある方、情報提供をお願いいたします。
(作者にとっては、記憶の無さがホラー)
なお当時、「ボイスドラマ風の作品をくれ」と言われており、本作品はそのバージョンを書くための下書きとなっています。
次回はその「ぼいどら風」をあげる予定です。