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暇潰市 次話街 おむにバス  作者: 誘唄
といしゃさん
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といしゃさん(5END)

『といしゃさん』は基本的に各話完結しているので、前の話を読んでいなくても問題ないかと。

一応、この話で『といしゃさん』は最後になります。

気になる方は、前の話もお読みください。


本話のタグ:「ホラー(?)」「フリーゲームっぽいネタ」「百合風味(小匙)」

 






 映画を観ていたけれど、あまりにもアレな作品だったので、気づいたら眠っていた。



 友人たちも同様で、つまらない映画で失敗したねーと、しばらく話しこんだ。


 そんな風に暇つぶしをした帰り道。

 既に陽も落ちて、真夏の暑さも少し和らいでいる夜。


 蝉の声とカエルの鳴き声が聞こえる畦道を歩いて、星空を仰ぎ見る。




 ……四辻に立ち止まって、星空を仰ぎ見る。





 …………四辻に立ち止まってるんだけど?







「ちょっと、カエルと蝉の声止めて」




 ぴたりと音が止んで、静寂が訪れる。

 星明りで照らされた田んぼの中。ひらけた視界には人影はなく、カエルや蝉も見当たらない。



 四辻をぐるぐると回って、時折伸びた草を蹴ってみる。




「ちょっと『といしゃさん』、出番が来てるんだから、ちゃんと仕事してよ」




 呼びかけに応えて、中性的なやつれた顔が浮かび上がる。

 なんだか随分と疲れているようだ。



「もう終わりでよくないかい?」



 そう答えた彼は、四辻の中で何本か腕を伸ばす。


 地面から生えてくるようなそれは宙空で捻れて、地面へと指先を這わせていく。



 畦道にできた轍に書き込まれていくそれは、エンディングのパターンだ。

 バッドエンドがいくつか。ハッピーエンドが一つ。

 それ以外にも、いくつか書き込まれていく。


 行きたい場所を答えて『といしゃさん』が増える『拡散』エンド。


 忘れたいことを答えて記憶喪失になる『忘却』エンド。


 おすすめを答えて推しの芸能人や実況者や作家が引退する『欠落』エンド。

 まぁ、この辺はノーマルエンドで、実害も少なめだ。




「質問がランダムすぎて、ちゃんとトゥルーエンドを迎えるまで繰り返しているうちに飽きるのはわかるけど、『といしゃさん』が飽きちゃうのはダメでしょう」


「メタすぎないかい?」




 いくつも顔や手が浮かんでくる。どこから持ってきたのか、手にしているプラカードには苦情が書かれていた。

「のーもあろーどー」「発言の自由を求む」「解放してください」「成仏エンドがないのは不条理だ」など、様々な主張だ。


『といしゃさん』は設定上、『問いかけ』しかできない。


 9問目が苦悶目というダジャレ。

 それに答えると最後の質問が『質問はあるかい?』へと変わり、その回答を問いかける顔として追加される。

 それもバッドエンドの一種だ。


 裏設定では『面接問答集』の設問集で圧死した学生が『といしゃさん』の本体だけれど、本編では一切触れない。トゥルーエンドのモノローグでちょっと誕生理由を予想している雑談があるくらい。

 そんな風に詳細さえ出てこない『といしゃさん』には当然、成仏するルートは用意されていない。



「サボったり成仏したら、タイトル詐欺になっちゃうじゃない。私や由奈、ハルちゃん先生が出ないことがあっても、『といしゃさん』は休んだらダメだよ」


「ブラックすぎないかい?」




 悪霊になったら休みがなくなるとか、『といしゃさん』にとってはホラーなのかな。一応ホラー作品だから間違ってない気もするんだけど、泣きそうな顔がたくさん浮かんでいるのは、ちょっと可哀想にも思える。

 カエルや蝉なんか、音源だけで出てこない時の方が多いくらいだし。



「登場キャラクターなんて全身不随エンドもあるし、私たちだってサボりたいのを我慢してるんだから」


「演出抜きかい?」


 彼らの顔の中で、フレームが歪んでヒビだらけのメガネをした男性の顔が問いかける。

 ハルちゃん先生に蹴りつぶされた顔だ。


 その恨みがましい視線から目をそらして、私は空を見上げた。

 リテイクになったためか、星空が巻き取られて入道雲が浮かぶ青空へと変わっていくのを眺める。



 裏路地で絡んでくる三人組も実際にはそっくりな人形を相手にしているし、泥に沈むのもほとんど人形が代役だ。

 ループというか、繰り返しがあるために私たちが実際に怪我をすると、差し障る。


 でも『といしゃさん』は都度使う顔や手を変えれば良いだけなので、その回によっては反撃されることもある。

 ハルちゃん先生が蹴りつぶすのは、学校内で出現する全てに共通するため、最も高頻度で起こるイベントだ。



 ただし、あの人は手加減ができない。



 視線をセットの田んぼ越しに用意された休憩席に向ける。タバコ片手に「わりぃ。気にすんな」と手を振っているのが見えた。

 きっと次も蹴りつぶすだろう。


『といしゃさん』にもその姿が見えたらしい。




「良識はどこだい?」「弁護士に相談していいかい?」「誰か代わってくれないかい?」


 と、愚痴をこぼす。



 カエルや猫は目をそらしているし、蝉はじっと息を殺している。

 裏路地の三人組はゲームに夢中で、そもそも聞いてない。


 由奈は陸上部の後輩たちと一緒に、お茶とお菓子を囲んでいる。ポニーテールを編み上げにされたりしながら、携帯を見られて狼狽えていた。

 それがなんだか楽しそうで、少しモヤモヤする。


 リテイクが決まったなら、いつまでも四辻にいる意味もない。




「由奈ー、私も休憩するよー」



 畦道を歩きながら、声をかけると振り返った由奈と目があった。

 携帯を後輩から取り返そうとしている顔は真っ赤で、いたずらが見つかったワンコのように眉が下がっている。


 ふと、『といしゃさん』の顔の一つがその携帯を覗き込んでいるのが見えた。


 私の分のお菓子は残しておいてほしいと思いつつ、すぐ隣に浮かんできた顔を避ける。



「脱いでいるのは君かい?」



 でも問いかけてくる内容を理解して、反射的にその顔を掴んでしまったのも仕方ないよね。


 そういえば真面目に部活に向かうルートで、由奈が後輩たちと遊んでいる横で着替えたことがあった。

 そういえばその時、由奈は携帯を弄ってニヤニヤしていたような気がする。


 もしかして、あの時撮られていた?


 由奈が嬉しそうにしていたのが後輩にじゃれつかれていたからではなく、自分の裸体を見ていたせいだと思うと、途端に顔が熱くなった。



「……ば、バカ由奈っ! 何やってんの! バカっ!」


「ひぅっ! ご、ごめんっ!」



 隠し撮りなんてしなくても、言ってくれれば見せ……るのは恥ずかしいから、無理。


 顔が熱くて、赤くなっているのがわかる。

 なんだか後輩たちがニヤニヤしているような、微笑ましく見守っているような表情になっているけれど、見ないふりをして走り出す。



 その足が、引っかかった。



 駆け出した勢いのままで身体が宙に浮いて、伸びる。足元を見ると『といしゃさん』の顔が仰向けに沈みかけている。


 あぁ、あれを蹴ったのね。


 そう思った直後、私は田んぼにダイブした。



 夏服の脇と胸元から泥が滑り込んでくる。


 起き上がろうとして手をついても泥に沈む。かろうじて顔を泥からはがしても、泥だらけの前髪が張り付いてくる。

 その滲んだ視界の中を、由奈がブランケットを掴んで走ってくるのが見えた。




「大丈夫かい?」


「心配するなら、とりあえず起こしてくれないかなぁ」



 睨んでも『といしゃさん』は浮かんだ顔を上下させるだけで手が動いてない。

 自力で立ち上がろうとしたけれど、足元にまとわりつく感じがあり、振り返ってみると履いていたものがずり落ちていた。

 それを眺めている顔を殴ろうとしたけれど、手が泥から抜けない。


 ブランケットをかけられて、巻きつけられる。



 そのまま引きずられて畦道へと引き上げられた。




 由奈の柔らかさと力強さにもたれていると、そのまま抱き上げられて心臓が跳ねる。


「二人ともシャワー浴びてこい。由奈、カナを洗ってやれよ」


 跳ねた心臓が飛び上がって口から出るかと思った。



 何も履いていない今の状態では、由奈に身体を預けるしかできない。

 見上げた由奈の顔は真っ赤で、真面目な顔をしているけれど、視線がぐるぐる回っている。


 隠し撮りはできるのに、直視したり触るのはヘタれるのか。

 そんな姿が可愛らしくて愛おしく思えて、口から溢れた。



「優しくしてね」

「ひゃいっ!?」


 あ、違う。間違えた。

 なんか違う意味に聞こえる。


 視線も合わせられなくなった由奈はギクシャクと歩く。でも、優しく抱き上げたまま決して私を離さない。



 …………まぁ、訂正しなくてもいいかな。





「幸せかい?」


 うっさい。








 エンディング5.この後めちゃくちゃキレイにされた(メタエンド)








メタというか楽屋落ちですね。

どうやって綺麗にされたのかは、皆様の想像力にお任せ致します。

なお、トゥルーエンドの投稿は今のところ予定はありません。(そもそも書いてない)


『といしゃさん』は延々とループを繰り返すのです。終わりがないのが(略)。


次からは単話になる……かなぁ?(全く考えていない)

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