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暇潰市 次話街 おむにバス  作者: 誘唄
といしゃさん
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といしゃさん(4END)

『といしゃさん』は基本的に各話完結しているので、前の話を読んでいなくても問題ないかと。


気になる方は、前の話もお読みください。

なお、今回のお話にも百合風味がありません。ご了承ください。(百合が足りない)



本話のタグ:「ホラー」「フリーゲームっぽいネタ」「百合風味なし」「暴力(微小)」

 



 多分、夢を見ていたのだと思う。猫がいたような気もする。


 聞こえてくる掛け声は野球部だろう。今日も元気に走り込みをしているらしい。

 目を開けると窓の外に浮かんだ入道雲。全力で夏を演出していた太陽も隠れている。


 冷房が切られたらしい教室は、夏服でも暑い。

 目が覚めたのはそのせいだろう。



 携帯を取り出して、履歴を確認していく。


 部活組と帰宅組で行動が違うけれど、どちらからも誘いが来ているのを見て、ちょっと迷う。


 由奈と一緒に部活に出て走るのも楽しいけれど、ちょっと今日はだるさが残っている。

 由奈が催促に来る前に今日は帰って寝ると返事をして、カバンを手にとって立ち上がる。



 入道雲はどんどん大きくなって、今にも雨になりそうに思えた。








 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆







 田舎の道はうるさい。

 夏真っ盛りの今はカエルと蝉が大合唱だ。


 日差しを遮る物のない田んぼの畦道を携帯片手に歩きながら、私は汗を拭う。

 こんなに暑いなら、無理に帰らないで帰宅組と一緒に映画館に行けばよかったと後悔した。

 でも今更戻るのも大変だし、開演時間に間に合わない。



 雲はだんだんと濃くなって、学校や駅の方が土砂降りになっているのが見える。

 まだこちらでは降っていないけれど、その雲はこちらに向かっている。それが追いかけられているようで、少し怖くなった。


 傘を持って来なかったし、降られる前に帰ろう。

 そう思う私とは逆に、四辻に座るカエルは雨を待っているように見えた。

 まだ小さい、おたまじゃくしの尻尾が残っているカエルだ。


 近づいた私に気づくと、慌てて田んぼの中へと飛び込む。



 でも、音がしなかった。



 ふと気づくと、カエルの鳴き声も蝉の声も聞こえない。



 雨が近いからだろうかと首を傾げ、歩き出した足が何かに躓いた。

 バランスをとって堪えて、なんだろうかと振り返ろうとした時、ぽつりと当たった。


 見上げると、凄い勢いで雲が空を黒く染めていく。

 数滴が当たったと感じた直後には、もう土砂降りの中にいた。


 滝のような雨。ニュースで聞くような表現は、滝にあたったことがない私には、よくわからなかった。

 でも、体感してわかる。ホースの先を潰した時のような水がとめどなく降り注ぐ、こういう状況をいうのだろう。



 私は顔を上げていられず、溺れそうになった。


 痛いくらいに体をめがけて落ちてくる雨。

 それを避けようとしてカバンを頭の上に掲げて、激しいドラムのような音に耳を塞ぐ。


 一瞬、誰かの声が聞こえた気がしたけれど、確かめようがない。

 雨音以外は何も聞こえないし、四辻の中でさえ見えない。


 頭から背中まで、まるで小さな手が無数に叩いているような衝撃と痛み、振動にうずくまる。

 それでも雨は止む気配がなくて、私は恐る恐る足を前に運んだ。


 どこかで誰かの叫び声が聞こえたような気がして、周りを見ても何も見えない。




 その足が、再び何かに当たった。




 畦道を摺り足で歩いていた私の足が、それに弾かれたように滑る。



 カバンを離して体を支えようとした手が、ぞぶり、と泥の中へと沈み。


 転がった私の体を支えきれずに、めきり、と嫌な振動を伝えてきた。




 激しい痛みに叫びを上げたけれど、雨音にかき消される。

 肺の中身を全て吐き出した私の腕が、ありえない方向に曲がっているのを感じて、再び叫びそうになる。


 でも開けた口には滝のような雨が降って、顔を背けた。

 右目に泥が入る。痛みに目を閉じて振り返っても、左耳が泥に沈んで嫌な音を立てた。

 雨に打たれている顔が痛む。溺れそうなほどの雨が、口へと流れてくるのを吐き出して息を吸う。


 起き上がろうとしても、右腕は痛みしか返してこない。左手で泥を掻き分けても、その肩が抑えられているようで起こすことが出来ない。


 どこかで声がするような気がしても、それどころじゃない。




 雨に押し潰されて泥に沈んでいく身体。




 それが恐ろしくて悲鳴を上げても、流れ込む雨に押し戻されてむせ返る。



 雨が通り過ぎていく中でどれだけ私は踠いていたのだろうか。



 少し弱くなった雨の中で、まともに呼吸ができるようになった私の耳に、はっきりとした声が聞こえた。




「何の答えも持ってないのか?」




 怒りを堪えているような暗い声。

 それがどこから聞こえたのか、考える暇はなかった。



 私の額が掴まれているように、強く押し付けられる。泥の中へと。



 押し込まれて動かない頭は、泥の中でも抑えられている。

 視界は泥に沈んで何も見えず、耳の中では抜けた空気の代わりに泥が詰まる。



 当然、呼吸などできる筈もない。

 鼻の穴にも泥が詰まる。きっと酷い臭いがしているだろうけれど、そんなことを感じている余裕はもう私にはない。



 上下の歯にかけられた、指のような感触は唇を抑えるようにして、私の口を大きくこじ開けている。


 その中へと流れ込んでくる泥。押し込まれて、詰め込まれる泥。

 私の肺も胃も全て埋め尽くしても、決して終わらない。


 どこまでも深く沈んで、いつまでも泥に溺れ続ける。

 何故か私の意識は途切れず、いつまでも恐怖と息苦しさに苛まれる。




 何も見えず、聞こえない暗い泥の中で。


 永遠に。








 エンディング4.泥濘バッドエンド








たぶん何かのホラーで意識に根付いたのだと思いますが、ホラーゲームってバッドエンドのイメージがあります。

前提(導入)がホラーで本編(道中)もホラーで終焉(末期)もホラー。

ホラーゲームって怖すぎませんかね。(褒めてます)

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