といしゃさん(3END)
『といしゃさん』は基本的に各話完結しているので、前の話を読んでいなくても問題ないかと。
気になる方は、前の話もお読みください。
なお、今回のお話では百合風味がありません。ご了承ください。
本話のタグ:「ホラー」「フリーゲームっぽいネタ」「百合風味」「暴力(微小)」
多分、夢を見ていたのだと思う。なんだか恋人と追いかけっこをしていたような気もするけど、思い出せない。
どうやら午前の授業が終わって、昼休みになっているらしい。クラスメイトたちは弁当を広げたり、どこかに食べに出ているようだ。
誘ってくれる子はいないけど、別にそんなことどうでもいい。
楽しそうに笑っている顔を睨んで、カバンを持って席を立つ。一瞬笑いが止まってこちらを見たけれど、お互い何も言わずに視線を合わせない。
バカみたいな奴らが鼻につく。
舌打ちして教室を出て、外へと向かう。
午後も授業はあるけど、面倒になった。どうせ寝てるだけの授業だ。
昼休みだというのに犬みたいにグラウンドを走り回っている奴らがいる。陸上部だろうか。
何が楽しいのか全くわからない。バカじゃないのか。
駅前に出てランチでもしようと思いながら、校門を出た。
無意識にカバンへと手を伸ばし、タバコを探す。
空のハコを投げ捨て、舌打ちして駅前へと向かう。
バカみたいに気温は高くて、日差しも強い。
そこら中で鳴いてる蝉が鬱陶しい。かといって家に帰れば、周りの田んぼのカエルの鳴き声が加わって更に鬱陶しくなる。
何にも聞きたくなくてヘッドホンをして駅前へと向かう。
うろついている臭えオヤジどもを避けて、裏通りを抜けていく。
駅前には店が多いせいか、周辺のオヤジが群がっているのが気持ち悪い。これならカエルの群れの方がマシだと思い、舌打ちする。
駅前のトイレに入って着替えを済ませ、制服を詰めたカバンを持って出る。コインロッカーに預けておこうと思ったが、全部埋まっていた。
出るのが遅くなったせいだろう。他の学校の生徒も含めて、利用者は多い。舌打ちが漏れる。
私服姿でカバンを下げて、電車に乗る。少し移動すれば大きめの駅に着く。
作業服みたいな格好の臭えオヤジがいたので、車輌を移る。空いた席に座って、携帯をいじる。
本当、世の中クソばっかだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ランチは最悪だった。
レディースデイで安かったから入ってみたら化粧臭えババアの群れの隣に通された。
蝉の何倍もうるさい上に臭え。ヘッドホン越しに聞こえる大声で喚くように笑っているツラに水をかけてやりたくなった。やったら更にうるさいし絡んできてウザいから、やめたけど。
クラスで笑っていた奴らがあんな風になるんだろうと思って、舌打ちが漏れた。
親のタスポでタバコを買って、大通りで騒いでいるオヤジどもを避けて裏通りへと歩く。
店舗の裏側らしい通りには人気がなく、蝉の声もビルに遮られているのかヘッドホン越しには聞こえない。
このあとどうしようかなと考えながら、立ち止まってタバコに火をつける。
映画とか何かやってるかなと思って携帯をいじる。
暇つぶしを探すのに気がいっていたためだろう。
背後からウザいのが寄って来ていたことに気づいていなかった。
「かーのじょ〜、何吸ってんの?」
「暇なら遊び行こうぜ?」
「質問してもいいかい?」
「忙しいなら手伝うぜ?」
タバコを持った手を掴まれて振り返ると、三人の男たち。
空っぽの中身が見える金髪。風呂入ってねえのかと言いたくなるような汗くせえ臭い。
舌打ちは無意識に出ていた。
「ぁんだよ、楽しもうぜ?」
「タバコよりもいいもんあるぜ?」
「君の名前はなんだい?」
「一緒にイカレようぜ?」
口々に何かしゃべるたびに、臭え息が飛んでくる。ヘッドホンしてるから何を言っているのか聞こえないけど、どうせ意味のないくだらないことだろう。
私は手にしたタバコを男の手に落とした。
「うぁっちぃっ!!」
「触んなクソ野郎!」
反射的に手放した隙に走り出す。
その足を、多分掴まれたんだと思う。直後には前のめりに倒れて、身体を打ち付けていた。
衝撃で外れたヘッドホンが、四辻の端へと転がっていく。
途端に、男たちの笑い声が聞こえてきた。
それはタバコを浴びた男を笑っているのか、転んだ私を笑っているのか。両方かもしれない。
「はーい、クソキック入りまーすッ!」
右脇腹を蹴りつけられて、嫌な音がした。
血の気が引いて脂汗が出たが、そんなことに意識がいかないほどに、重い痛みが走る。
「次ぃ! クソジャンプ入りまーす!」
痛みに叫ぶ前に背中に他の男が飛び乗ったのだろう。押し出された空気が鼻からも逆流して、涙が出る。
逃げようとして立ち上がろうにも、手足が抑えられたような動かない。
「君に家族はいるかい?」
「やっべー、俺もクソゲリ止めらんねぇや」
「おら! 楽しいよなぁ、テメェも楽しいだろう? もっと俺らを楽しませろよ!」
男たちは私を蹴りつけて、踏みにじる。全身を抑えつけて痛みに身体が縮こまることさえ、男たちは許さない。
身を守ることさえ出来ず、痛みに呻く私はまるで潰れたカエルだ。
「……し……にし……」
私が何をしたっていうの。痛みと悔しさで、涙が出てくる。怯えてなんかいない。こんな奴らなんかに怯えたりしない。
男たちはその場のノリだけで行動しているのだろう。
飛び乗るように踏みつけられた首。
その骨が砕ける音がして、喉がひしゃげたのがわかる。呼吸ができなくなって、爪を立てて踠いても、身体は抑えつけられたまま動けない。
「んだぁ……やべえ、やりすぎた」
「バカおまえ、これじゃヤれねーじゃねーか」
「しょーがねーなぁ。貰えるもん貰っとこうぜ」
息ができずに涙で歪んだ私顔を嘲笑うように覗き込む。シャッター音が聞こえても、私は顔を隠すこともできない。
身体を弄られて財布やパスケースを奪われる。
男たちが笑いながら去っていくのを睨んでも、苦しみも痛みも薄まらない。
男たちがいなくなっても、抑えつけられたままの身体は動かない。
意識が遠のいて、痛みも分からなくなっていく。
きっとこのまま私は死ぬんだと思い、どうしようもなく悲しくて寂しくなった。
「最後に、質問はあるかい?」
そんな声が聞こえた気がしたけど、もう声も出せない私には、助けを求めることもできない。
私、なんでこんなことになったの?
なんで私なの?
私が何か悪いことをしたの?
何か、間違えたの?
なんで? どうして?
そんな思いだけを残して、私の命は終わった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
四辻に座って顔を洗っていた猫は、ピクリと耳を揺らした。
一つ転がったままの人間を見て、手を下ろす。
「質問してもいいかい?」
「君の名前はなんだい?」
「君に家族はいるかい?」
地面から浮かび上がる顔が口々に問いかけを発していく。
それを尻目に軽く伸びをして、立ち上がる。
「信頼できる友人はいるかい?」
「好きな人はいるかい?」
「最近のオススメはなんだい?」
「行ってみたい所はあるかい?」
浮かび上がる顔を掴もうとするように、地面から手が伸びていく。
その手を避けるようにして歩き出し、ふと転がっている人間を見る。
その顔が剥がれたように浮かび上がっていく。
「失敗したことはなんだい?」
その顔が問いかける。
しかし猫は興味を持たずに、軽く尻尾を振って去っていく。
手が顔を掴んで地面へと沈んでいくと、問いかける声も消えた。
やがて大通りから漏れ聞こえる音が四辻を満たし、打ち捨てられた死体を埋めた。
エンディング3.質問はあるかい?(バッドエンド)
最後に居た猫さんは、前の話で出てきた猫さんとは別の猫さんです。
その猫さんは実は知り合いで当然百合風味漂う関係という発想が↑の一文を書いたら降ってきました。
どんだけ百合好きなんだよ。(大好きです)




