サンタの奏でる鎮魂歌
少し荒削りな感じですが、最後まで読んでいただけたら幸いです。
僕は一年前の今日――クリスマスイヴに――君と待ち合わせの約束していたあの公園に来ていた。階段を数十段上った先にある公園は、小さな高台を利用しては作られたため階段を上る以外にここに来る術はない。そのためか日曜の日中であったとしても子供の姿を見かけることはなくいつも閑散としていた。しかし、日が落ちて辺りが暗闇にのみ込まれていくと空一面に星が瞬きだし、自然のプラネタリウムに早変わりする穴場スポットだった。放課後に二人で帰るときはここに立ち寄ることが多く、公園の二人掛けのベンチは座って一緒に時を過ごせるひと時がとても幸せだった、としみじみ思う。
あの時と同じように僕はベンチに座り、君を待っていた。もちろん、今回君との待ち合わせの約束はない。それでも僕は君を待っていた。
「お一人ですか?」
不意に気にも留めていなかった方向から声が聞こえた。顔を上げると目の前にいたのは赤い服のおじさんだった。
「……何ですか?」
「いや、ちょっと、気になりましてね。話しかけてみたんですよ」
「……はぁ」
格好だけ見るならばサンタだった。確かに、今日はクリスマスイヴだからサンタがいるのはおかしくはないけども、あくまで格好だけなので白髪じゃなく、普通の黒髪。もちろん白髭なんてものも生やしているわけがなかった。
「何か、悩み事ですか? 良かったら話聞きますよ」
正常な思考を持っていたら絶対にこんな怪しくて素性も知らないおじさんに一年前の出来事を話すことなんてないだろう。だけど、淋しかったくて正常な思考が失われていたからなのだろうか、僕は一年前の事を思い出しながら話し始めた。
『一年前、彼女との待ち合わせに僕は約束の時間より早めにこの公園に着きました。今思うと少し緊張していたのかな、なんて思います。その時も今日と同じように星が空を覆っていて綺麗でした。立って待っているのもあれだったので先にベンチに座って彼女を待つことにしました。
しかし、十分、二十分と待って約束の時間を超えても彼女は来ませんでした。何かあったのかなー、と思いもう二十分だけ彼女を待ってみることにしました。
だけど、彼女結局来なかったんです。
なんなんだよって思いました。四十分も寒空の中彼女を待ち続けて体は完全に冷え切ってましたし、手足なんて半分くらい感覚なくなってましたよ。
それで、帰ろうと思って立ち上がったら、ほらここから夜景見えるじゃないですか、であの時やたらとあの一帯が赤く点滅してたんですよ、消防車のランプで、物騒だなと思いましたよ。確かに思い返すと十分過ぎたあたりで消防車のサイレンが聞こえたような気がしたんですよね。野次馬じゃないですけど、彼女の家の付近でしたし、彼女に会ってなぜ来なかったのか聞きたいってのもあって行ったんですよ。そしたら彼女の家なかったんですよ! あるはずの場所に……。そこにあったのは燃え残った柱だけでしたよ、全焼でした。何も残ってなくて、頭が真っ白になって、どうすればいいんだろう、どうすればいいんだろうって悩みました。もうわけわからなかったですね、今もわからないですけど。それで、彼女は発見されましたよ……。一番損傷が激しかったらしくて彼女と認識するのすごく大変だったみたいで……。警察が言うには放火の可能性が高いって言ってました。犯人はまだ見つかってないらしいですね……。早く見つかってあんな屑、死刑にして殺してしまえばいいのに……』
サンタは静かに僕の話を聞いていた。そして、
「御気持ちお察しします、辛いですよね……」
呟くように言う。その瞬間、僕は両目から零れ落ちるものを感じた。忘れかけていた気持ちが戻ってくる。止まらなかった。勝手に流れ、嗚咽を漏らしていた。そんな僕にサンタはハンカチを差し出し、
「これで、拭いて下さい」
優しく言った。僕はこの人のことを誤解していた、と思う。心の中で精一杯の謝罪の弁を述べる。
「実はね、僕サンタなんですよ、わかります? サンタクロースです」
「……はぁ」
確かにこのおじさんは格好だけ見ればサンタである。
「この世界にはサンタがたくさんいるようですが、本物は私なんですよ」
不思議なことを言っていた。サンタは架空の人物であり現実には存在しない、これは常識だ。しかし、このおじさんは変なことを言っている。自分はサンタだ、と。
「君達に身近なサンタは親ですよね、親がサンタの代わりになって物を買ってあげたりしてますね。グリーンランド国際サンタクロース協会に公認されているサンタなんてただ空想上のサンタに似ているだけですしね、実際には似てないんですけどね」
一息。
「本物はここにいるんですから、白髪でもないですし白髭なんて生やしてません。見ての通り似てないでしょ?」
「じゃあ……本当に?」
最初はただの変質者だと思った。いや誰だって思うだろう。だけど、僕は完全にサンタの存在を信じていた。
「本物のサンタは何でも叶えて上げさせることができるんです、そして私は貴方に問います、叶えてほしい望みはありますか?」
僕は小さくだがしっかりと頷いた。もう一度君と逢うことができる、そう考えるだけで気持ちが高揚していくのがわかった。たった数秒が今までに感じたことのないくらい長く感じた。
「わかりました、では今から望みを叶えてあげましょう」
おじさんは言うと、ふぅ、と息を吐き、
「では、あちらのそうですね、彼女の家があった方を向き目を瞑ってもらえますか?」
と指示を出す。
「これでいいですか?」
僕は従い、目を瞑った。その瞬間が来るのを今か、今かと待ち望んでいた。五感が研ぎ澄まされていくような気がした、小さかったサイレンの音も次第にはっきりと聞こえてきた。何か変化が起きている、そう思った。
「では、始めましょう、きっと彼女もあの世で貴方を待っていますよ、死ぬ間際にとても貴方に会いたがっていましたからね……くっくっく……」
「……え?」
言っている意味が理解できなかった。
貴方を待っている?
死ぬ間際?
会いたがっていた?
こちらに向かってくる数台の警察車両。
刹那、全てが繋がった。
しかし、気づいた時には全てが遅かった。
「……まさか!」
振り向く。
月夜に照らされて黒光りするリボルバー式の拳銃。
銃口はしっかりとこちらを向いていた。
「あの世で会わせてあげますからネェェ゛ェエ゛ェェ゛ェ!!!!!!!!!!!」
辺りに銃声が鳴り響いた。




