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Boy-Meets-September  作者: 村崎羯諦
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8

「薬でも吸います?」


 車内収納から大麻を紙で巻いたジョイントを取り出しながら、拓人が玲奈に尋ねた。煙草よりも栽培が簡単な大麻は、一時の至福を味わう一つの娯楽としてコミュニティ内で大変重宝されていた。玲奈はお礼を言いながらそれを受け取り、電子ライターで火をつけた。浅く吸い込んだ煙を口内いっぱいにため込み、口からゆっくりと吐き出した。アルコールに似た高揚感が身体全体を包み込む。ふと顔を横に向け、同じく片手で大麻をすっていた拓人と目が合うと、意味も分からず声を押し殺して笑ってしまう。


「いつになく上機嫌ですね」


 拓人のからかいも意に介さず、玲奈はもう一度大麻を口に加え、煙を口の中一杯にためこんだ。そして、不意に座席から立ち上がり、狭い車内の中を這い動き、桃花のいる後部座席へと移動する。


「ちょっと暴れないでください」


 玲奈はちらりと拓人を一瞥するだけで返事を返したのち、窓の外を眺めていた桃花の顔を自分の側へ向け、小さなその口に口づけをした。そして、口渡しで大麻の煙を桃花に与え、それが住むと面白おかしそうに声を立てて笑った。その表情に、大麻で気分が高揚してる拓人も思わず笑ってしまう。嫌がる表情を浮かべたまま無反応を貫く桃花を残し、玲奈は再び、元の席へと体を上手にくねらせながら戻った。そして、「拓斗くんにもあげる」と拓人に言うと、大麻の煙を吸い、隣に座っている拓人の顔に自分の顔を近づけ、フーッと灰色の煙を顔全体に吹きかけた。不意の煙に拓人は咳き込み、「やめてください」と笑いながら言った。その表情は嫌がるそぶりを見せながらも、悪い気はしないというメッセージも含んでいた。


 玲奈はそれを見ると、さらにご機嫌になりながら、もう一口大麻をすった。そして、座席側の窓を開け、ポイっとジョイントを投げ捨てた。ジョイントは風に乗って飛ばされ、すぐに見えなくなる。玲奈はその様子を口角をあげたまま見届けた。山麓の手前で、民家跡らしき建物群がコンベアに乗せられているかのように流れては消えていく。玲奈はその風景に見入った。名前もわからない誰かがそこに住んでいて、大戦によってあっけなく死に絶え、彼らを知る人間もまた一人残らず消えてなくなった。別に彼らに同情しているわけではない。それでも玲奈が窓の外から目をそらし、再び前に向き直った時、彼女の表情から微笑みは消滅していた。


「馬鹿みたいね」


 玲奈は凍てつくような調子でそうつぶやいた。拓人はその変わりようにぎょっとしながらも、初めてのことではないこともあり、何も言わず大麻をすった。なまりのように重たい沈黙が車内に満ちていく。


「なんか曲でもかけようか」


 いつもはこのような静寂などまったく気にしない玲奈が、珍しく気を利かせてそうつぶやいた。拓人は大麻を灰皿入れに突っ込んだ後、フロントに設置された端末を何やらいじり出す。すると、しばらくして四方に設置されたスピーカーからキャッチ―な音楽が流れ始めた。玲奈は拓人を真似して端末をいじり、自分が気に入る曲がないか、曲をひとつづつイントロだけ流して物色する。そして、ある曲のメロディが流れた瞬間、玲奈はふとボタンを動かす手を止めた。

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