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玲奈の身体は急斜面を滑り落ちていった。乾いた砂ぼこりが舞い上がり、摩擦で落ち葉が擦れる音が周囲に響き渡る。高速で回転する視界の中で、玲奈は何とか落下を食い止めようと、手で地面をつかもうと試みた。しかし、落下の勢いを弱めることすらできず、玲奈の身体はなすすべもなく転がり落ちることしかできなかった。
そして、放り投げられたかのように身体全体が宙に浮き、次の瞬間、背中に鈍器で殴打されたかのような鈍い衝撃が走る。斜面の底まで落ちきり、ようやく玲奈の身体は落下を終えた。仰向けになった彼女の視界には、樹木の間からのぞく、突き抜けた夏の空が映っていた。
やってしまった。どうして、あんなうかつな行動を取ってしまったのか。玲奈はしばらくの間、その状態のまま空を眺め続けた。そして、ようやく起き上がろうとしたその瞬間、身体のあちこちに痛みが走る。それでも玲奈は自分の身体にむち打ち、近くの木にもたれかかりながら立ち上がる。痛みの感触からいって、どこかが折れているわけではない。玲奈はそう自分を落ち着かせる。若干久しぶりなだけで、この程度のピンチなどいくらでもくぐり抜けていたはずだ。
玲奈はニ、三度深呼吸をしたのち、自分が落ちてきた方向へと視線を向ける。玲奈の目の前にはおよそ数メートルほど高さの切り立った崖がそびえたっていた。その崖は上に行くにつれ、外側へ突き出るような形になっていて、玲奈がいる場所から、先ほどまで自分がいた場所を見ることは叶わなかった。
どうすれば、拓人達と合流できるだろう。とにかく上へ上へと登らなければならないことは確実だが、問題は何の道具も持たないままできちんと方角を見誤らないでいられるかということだった。それに、骨が折れていないとはいえ、今なお身体全体にはむち打ちのような痛みがうずいている。しかし、じっとしていれば誰かが助けてくれるわけではない。拓人は桃花をきちんと捕まえていてくれるだろうし、そうであるならば、彼女を連れてこの山の中をうろつくわけにはいかないからだ。玲奈は覚悟を決め、一歩前へと歩き出す。周りに誰もいない一人ぼっちの状態で、拓人と桃花との合流を果たすべく、玲奈は山を登り始めた。