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玲奈と桃花が出会った二年前のある日。その日は圧迫感さえ感じるほどの曇天だった。
大戦は平和条約が結ばれることもなく自然終結し、残された者たちが混乱極まる秩序から、ようやく後のフクシマコミュニティとなる生活集団の形成にこぎつけた頃、玲奈を含めたコミュニティ初期メンバーは、物資の調達と生存者の確認のために近隣都市への探索に乗り出していた。
彼らは大戦前には仙台と言われ、ある程度の都市化を実現したものの、核兵器のスコールによって荒廃化した地域を探索していた。その場所で彼らは高く積まれた人間の死体をバラバラに切断し、乗ってきたバギーの燃料として再利用するとともに、崩壊した商業施設やビルの内部から、まだ使用可能な物資や食料を漁っていた。そして、大規模な商業施設の探索中、玲奈を含めた数人規模のユニットは、突然背後から何者かによって強襲された。もちろん、その当時はまだ数少ない生存者によるこういった略奪行為や山賊行為が頻繁になされており、ユニット自体も、何度もそのような事態をくぐり抜けてきていた。
実際、その闇討ちに対しても、玲奈たちは十分すぎるほどの対応をして見せた。強襲により、チームの一人が背中に深い切り傷を負ったものの、即座に残りのメンバーが反撃を行い、三十秒もたたないうちに、放射能に対抗できる貴重な遺伝子を有していたであろう強襲者は、その他大勢と同じような亡骸となってしまった。玲奈たちはその人物の所持品の略取に取り掛かるとともに、治療と増援を他のユニットへ要請した。というのも、生存戦略上、生き残った数少ない人間同士が何人かで徒党を組んで行動していることが多く、一人が見つかれば、その仲間が同じ場所に存在している可能性が非常に高かったからだ。
玲奈たちは、他のユニットと合流後、警戒を強めながら同商業施設の探索を再開した。先ほどの人物の攻撃的な姿勢を考えると、彼の仲間たちもまた、問答無用で襲ってくることが十分ありえたからだ。
しかし、結果的にその心配は必要なかった。というのも、彼の他にこの商業施設に存在していた人間は、まだ五歳ほどの可愛らしい女の子だけだったからだ。彼女は二階奥の大型家具店のソファに横たわったままの状態で見つかり、その近辺には様々な生活用雑貨、飲食物が散らかっていた。それらを注意深く観察しても二人分の生活の跡しか見つからず、結局ここには、先ほど襲ってきた人物とこの女の子の二人しかいないということが推測できた。
玲奈たちはさっそく女の子を揺さぶり起こし、彼女と、そして先ほど殺された男のことについて尋ねようとした。しかし、少女は不思議そうにあたりを見渡すだけで、何もしゃべろうとしなかった。突然現れた自分たちを警戒しているのか、それとも日本語を理解できていないだけなのかわからない。玲奈たちがなんとか話を引き出そうとしても、少女がその口を開くことはなかった。玲奈たちは結局少女を喋らせることを断念した。そして、少女につい先ほど、男が自分たちを襲撃し、そして返り討ちに会って帰らぬ身となったことを告げた。




