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「小泉さんからたまに狩りのことを話してもらうんですが、とても楽しそうですよ」
玲奈は同意するようにうなづく。彼女自身もまた、以前は彼と交流を持っており、時々、新鮮な獣肉をいただいていた。もちろん、彼女にはその新鮮な肉が長年の企業努力の末に生み出された缶詰より美味しいとはとても思えなかったのだが。そして、小泉はライフワークをなかなか見つけられなかった一人の人間として、玲奈の生活を心配してくれた数少ない人間でもあった。
「自殺する予定があるなら別だが、そうでないなら何か打ち込めるものを見つけた方がいい。退屈は人間にいたらぬことを考えさせるし、至らぬことを考えることは毒以外の何物でもないからな」
小泉はよく玲奈にそう諭していた。実際、コミュニティにおいて、玲奈のように何にも関心を示さず、また日々を惰性で暮らしているような人間は皆無だった。それは玲奈が特別な人間だからではなく、むしろ、そのような生活しかできない人間は得てして発狂するか鬱となって死んでしまうからだった。生きていたところでいつかは死ぬ。また、DNAを後世に伝えるという生物学的使命を果たすこともできない。そのような状況において、日々を楽しめない人間にとって生は耐えられないほどの苦痛であったに違いない。彼らはある意味、愚か者ではなく、賢い人間だったのかもしれない。
「玲奈さんってなんで頑なに趣味とか始めようとしないんですか?」
夕食を食べ終わり、桃花とともに後片付けに励んでいた玲奈に、拓人はそう話しかけた。玲奈は空になった紙皿や残飯といった有機物を、プラスチックなどの無機物と丁寧に分別していたため、最初は拓人の質問がまったく聞こえていなかった。拓人がもう一度大きな声で同じ質問を繰り返すと、ようやく玲奈は手をとめ、拓人の方へと視線を送った。しかし、すぐさま作業を再開し、自分の手元に目をやりながら気だるそうに答えた。
「別に趣味とか見つけなくちゃいけないってわけじゃないでしょ」
拓人は若干とげのある口調にむっとしながらも、それっきり何も言わずに食後の大麻を楽しみ始めた。桃花はいつものようにだるそうに答えを返す玲奈の顔をじっと見つめていた。その視線に気づいた玲奈は顔を上げ、桃花に微笑み返した。焚火の明かりが玲奈の顔を横から照らし、顔半分だけがオレンジ色に染まっていた。晩夏とはいえ、夜が更けるとともに気温はぐんぐん下がっていき、玲奈が作業を終え、車のそばに分別し終わった有機物を置いた時にはすっかり寒くなっていた。
三人はすることもない以上、焚火はそのままで、早めにテントに入っていった。テントの中は外から見るよりはずっと広く、三人が川の字に寝ても、まだ十分なスペースが確保されていた。玲奈と拓人の間に小柄な桃花を挟み、三人は横になった。寝袋にはまだ入らず、テントの天井からつるされたLED電球を指示したように三人は仰ぎ見る。その電球はまさに文明の名残であり、そのテントの中にいる限りでは、まさか核戦争によって文明そのものが滅びてしまったとは到底思えなかった。