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壱重は雷霆(らいてい)の様に

最終話です

 夜の月に照らされながら壱重は研究室がある建物から出た所で剣術の練習をしていた。剣術といってもどこかの流派ではなく我流の技。当然優れた技ではないため身体能力の高さでごまかしている。

 壱重が少し休憩をしようと刀を鞘に納めようとした。

 そこに何かが壱重にぶつかってくる。

「?!」

 とっさにその場から壱重は横に跳躍した。

「誰だ?」

 そこに立っていたのは月三と月四の二人。その二人の腕には頑丈そうな篭手こてがはめられている。

「どうして君達が攻撃してくるんだ?」

 どうして攻撃されたのか壱重は見当がつかないといった感じだ。

「証明するためですよ、僕らとあなたのどちらが強く愁裏様の役に立つか」

 それだけ言うと二人は壱重に向かってくる。

 壱重は二人の攻撃を避け、隙ができたところに峰打ちで攻撃を入れた。二人は何度攻撃しても同じように避けられ攻撃される。

「くそっ、お前なんかただの嘘に恐れて従っているだけの臆病者のくせにっ」

「あっ、おいっ、それは言ったらダメだっ」

 月三が慌てて月四をたしなめる。

「嘘……?」

 壱重は月四の言葉を聞き逃していなかった。

 その瞬間、壱重は月四との距離を一瞬で詰め、刀を首に突き付ける。

「嘘とはなんだ? 何を知っている?」

 普段から冷たい目をしている壱重の目がさらに冷たい目になる。その目を見た月四は腰が抜け、地面に座り込んでしまった。

「知っている事を話せ」

「き、機能停止する信号なんてものはない、と愁裏様が……」

「他には?」

「仇を……」

「まてっっ、月四っっ、ダメだっ」

 月三が必死になって続きを言わせないようにする。

「黙れ」

 壱重が睨みつけると月三は小さく悲鳴を漏らし黙った。

「話せ」

 さらに刀を首に食い込ませ月四に迫ると恐る恐る話し始めた。




「おねえちゃん」

「ん? どうしたの?」

 華弐は一緒にベッドの中にいる五香に聞き返す。

「ここから……出たいよ」

「この研究所から?」

「うん……どうして出たらダメなの?」

「それは……」

 五香の問いかけに華弐は顔を曇らせ本当の事を話すか迷う。

「それはね、博士が悪いことをしていて私たちが外に出るとそれがバレちゃうから出ちゃダメって言ってるの」

「……やっぱりいけない事してるんだ」

 脅えた顔を浮かべる五香を華弐が抱きしめた。

「脱走しちゃおうかっ?」

「え?!」

「ここから出たいでしょ? それにここにいても意味がないし」

 煮え切らない様子で唸る五香。

「脱走しようっ、決定っ、行くよっ」

「決定?! い、今から?!」

 華弐はいつも通り勝手に決めて強引に腕を引っ張って部屋を出て行く。その二人の話を聞いていた者が見つからないようにその場を離れていった。




 研究室へつながる廊下。そこを全てを聞いてしまった壱重は歩いていた。

「愁裏が、ヤツこそが俺の仇!!」

 月四の話では壱重の家族を殺したのは愁裏だという。

 愁裏は適合者を手に入れるために動かせる駒がほしかった。そこで壱重の家族を殺し、仇を探してやる事を条件に実験台にして、働かせるために機能停止すると脅し働かせた。

「愁裏っ!」

 怒りにまかせて壱重は研究室の扉を思いっきり開ける。

「どうした? もっと静かに開けれないのか?」

「お前が俺の家族を殺したのかっ」

「ふっ、訳のわからないことをいうな」

 何を馬鹿なことを言っているというような顔で否定する。

 そこに月三と月四が入ってきて愁裏の前に立ちはだかった。

「愁裏様大丈夫ですか?」

「それより貴様らが話したか? 貴様らに壱重の秘密を話した覚えはない、

なぜ知っている?」

 小さい声で二人に問いかける。その時、建物が揺れるほどの爆音がした。それも一回ではなく連続で。

「なんだ!?」

 愁裏が窓から外を確認すると他の建物が爆発しながら燃えている。

「くそっ、どういうことだ!」

 今度は研究室のある建物で爆発がおこったのか、立っていられないような揺れかたをした。その混乱に乗じて壱重が愁裏に斬りかかる。

「ぐあっ」

 ポタポタと落ちる血液。揺れによって狙いが定まらなかったために愁裏は顔を斬られただけだった。

「愁裏様っ!!」

 月三と月四がそばまで駆け寄り、愁裏を支える。

 壱重は刀を握りなおし構えた。それに答えるように月三と月四も立ち上がり構える。そしてお互い同時に攻撃を仕掛けた。




「なんで爆発してるの?! おねえちゃん何かしたの?!」

「知らないよぉ、何これぇ」

 華弐と五香は敷地の外から燃え上がる建物を見上げていた。研究室のある建物は比較的火が少ない。

「こんなに燃えてて他の人大丈夫かな……」

「おねえちゃん……壱重さんが心配?」

「な?! なんで壱重になるの?!」

「好きなんでしょ?」

 火の光に照らされてすでに顔が赤かったのにさらに赤くなった。

「なっ、何言ってるのっ」

 こういうときでも恋愛の話をすると赤くなってしまう素直な華弐。

「助けに行く?どこにいるかわかんないけど……」

 そんな華弐の顔を覗き込みながら五香がたずねると華弐は顔を横に振る。

「かなり火が回ってるし危ないよ、壱重ならきっと大丈夫」

「そう……」

 そして二人はまた建物を見上げて壱重の帰りを待った。




 月四は傷だらけで倒れている。

 その横にボロボロになった月三が立っていた。

 すでに研究室にも炎が燃え移り、その中で戦っている。少しずつ壱重が近づいていく。もう立っているだけでやっとの月三の前まで進むと刀の柄頭でミゾオチを打つ。

「うっ」

 小さなうめき声とともに崩れ落ちた。

 そのまま壱重が視線を移した先にはまだ燃えていない壁にもたれかかって座っている愁裏がいる。

「壱重……知ってるか?アスクレピオスは死者をも蘇らせてしまうほどの医学の才能を持っていたそうだ。だが世界の秩序を乱す者と言われ雷霆で撃ち殺された。君はその雷霆の様だな、私を裁く雷」

 愁裏は自嘲の笑いを浮べる。

「命乞いをするかと思っていた」

 座り込んだ愁裏を冷たい目で見下ろす壱重。

「普段から後悔などしないようにしている、いつ死んでもいいようにな」

 人を殺しておいて後悔はないという。

 その言葉に壱重はさらに怒りを深める。

「今すぐお前を斬り殺してやりたい、だがそんな楽な死に方では生ぬるい」

 刀がカタカタと鳴るほど握り締め憎しみのこもった声でそう言った。

「炎が迫ってくる恐怖に震え、後悔しろ」

 鞘に刀を納めながら振り返り入り口に向かう。

「ハハハ! 後悔などしないと言っただろう。フッハハハハハハ!」

 研究室を出てすぐに中から何かが崩れ落ちる音がした。それでも笑い声は続いている。

 壱重は振り向くことなく脱出のために走り出した。




 外で待っている二人はあきらめかけていた。建物はもう完全に炎に包まれていて生きていてももう脱出できそうにない。

「壱重……」

 華弐が目をつぶり祈るように呟く。

 その時建物の一階の窓らしき所から何かが飛び出してきた。

「だれ?! 壱重さん?!」

「刀持ってる……壱重っ」

 華弐は走りだし、出てきた壱重に抱きついた。

「大丈夫?」

「大丈夫ですよ」

 その言葉を疑うように五香が壱重の肌に触れる。

「すごい熱……今から熱を吸い取るからおねえちゃんは離れて」

「ダメだ、吸い取った熱は体にたまってしまうから五香が熱で倒れてしまうかもしれない」

「でも……なら少しだけにするから、お願い、やらせて」

 少し黙ってから壱重は溜め息をつく。

「しょうがない、少しだけ……ね?」

「うん、わかった」

 五香は壱重の肌に触れたまま目をつぶる。

「Absorption《吸い取って》」

 熱を吸い取る能力は自分の意思でスイッチを入れられない。そのため特定の言葉を五香の声で言う事でスイッチを入れたり切ったりできるようにされた。

「五香そろそろ」

「end《終わって》」

「ありがとう」

 壱重は五香の頭をなでる。

「五香大丈夫? ちょっと熱いよ?」

「大丈夫だよ、おねえちゃん」

 少しだけ回復した壱重を二人がかかえて敷地内から出て行く。

「これからどうしようか……」

 華弐が少し不安そうな顔をする。その不安を打ち消すように微笑む壱重。

「大丈夫ですよ、とりあえず遠くへ行って……そこで自警団みたいなものを作って困ってる人を助ける……なんてどうですか?」

「ハハッいいかもね」

 嬉しそうに華弐が笑った。つられて笑う五香。

 三人はフラフラと歩き続ける。

 その先には少しずつ朝日が上りはじめていた。

「君達の力もっと見せてもらうよ」

 三人から見えない位置であの爆発を起した者呟き、三人に背を向け歩き始める。

 その三人はフラフラしながらも力強い目で朝日を見つめているのだった。

 ……どんな困難にも負けない力強い目で。

どうでしたでしょうか?あまり上手くないですが、最後まで読んでいただきありがとうございます。SFは難しいですね、大変でしたがいい経験になりました。空想科学祭はまだ終わりませんので楽しんでください。

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