五香
月三と月四という男の子達が来たのは華弐が来てから少し経ってから。
二人は他人だったが、同じ境遇に苦しんでいた事から同じ字をつけられる。
その苦しみから二人を助けたのは愁裏だった。
「僕らを生まれた時から寝たきりの状態から救ってくれたあなたは救世主だ」
「だから愁裏様、あなたに一生の忠誠を誓います」
それを聞いた愁裏はまた道具が増えた事を喜んだ。
種の事を知りたいという金持ちの客が愁裏の所に来ていた。
「愁裏君、今の時代、普通の事だけじゃ物は売れないよ」
「どういうことでしょう?」
「この種にしかできない特別な能力やウリがなければ買えないって事だよ」
愁裏は危うく客を殴り倒しそうになる。
何とか我慢していると、金持ちの客は散々文句を言ったあと帰って行った。
「ちっ、あのクソ野郎これで改良した種をはした金で買おうとしやがったら生まれてきた事を後悔させてやる」
「愁裏様あの客、殺しますか?」
月三と月四が愁裏に問いかける。
「お前らはバカかっ! やつが消えれば、かなりの騒動になる、
……そんな事、壱重なら言われなくてもわかるぞ」
「すいません……」
重い空気になってしまった研究室に壱重と助手が入ってくる。
「あぁ、壱重、君に頼みたい仕事がある、行ってくれるか?」
「はい」
そのまま壱重と愁裏は部屋の外に出て行ってしまった。二人に続いて助手も出て行く。
研究室には月三と月四だけとなった。
「壱重はなんであんなに信頼されているんだ」
「僕らの方が愁裏様への忠誠心が高いのに」
壱重への二人の不満は高まりはじめていた。
今年で十歳になる少女が夕方、防犯ブザーを握り締めて歩いていた。
帰りの会で最近、誘拐が多いから注意しなさいと言われたからだ。
「防犯ブザーがあるから大丈夫だよね」
夕方になるまで寄り道をした事を後悔しながら恐る恐る歩いていた。
「もうすぐ家だぁ」
自然と笑顔がこぼれる。
その時、後ろから口を押さえられ防犯ブザーを鳴らす暇もなく少女は連れ去られてしまった。
愁裏は壱重に取りに行かせていた書類を受け取り見ていた。
「先生、それは何ですか?」
「これは過去発表された論文だ、使えるものはないかと思ってね」
「なにかありましたか?」
「熱を吸い取る、なんてどうかね?」
「熱……ですか」
助手は種にそういう機能を付けるのが可能かどうか考える。
吸い取った熱をどうするかとかいろいろ問題点もありそうだがやってみる価値はありそうだ。
「君はいつも通り適合者を探すんだ」
「はい、わかりました」
「壱重っ、今忙しいかな?」
「どうしたんですか?」
笑顔で話しかけてきた華弐は真剣な顔つきになる。
「外ってどうなってるの? 私は昔、外にいたんだよね?」
壱重以外は外出禁止となっていて華弐は記憶を失ってから一度も外に出ていない。
外への期待を持ち、万が一、外に出てしまったら脱走とみなし、壱重が脱走者を処分しなければいけないため、極力、外の情報を教えていないのだ。
「やっぱり教えてくれない?」
「すいません……教えられません」
そこへ二人が話しているところに通りかかった助手が話しに割って入ってきた。
「壱重さんに仕事があるんですが、一人では大変だと思うので華弐さんもついて行ってください」
「いいの? じゃあついてくっ」
「ちょっと待ってください、愁裏に相談しないで決めていいんですか?!」
「大丈夫です、行ってきてください」
助手は資料を渡すと研究室のほうに戻っていってしまった。
「さぁ、行こっ」
華弐は壱重の腕を強引に引っ張って行く。
この強引さは変わってないなと思いながら壱重は華弐についていった。
もらった資料に適合者は十歳の少女で誘拐されたと書いてある。
「人身売買組織につかまった子を助けに行きます」
「そんな悪いやつらが外にはいるんだね……」
壱重はそれ以上何も言わない。
華弐に世界の汚れた部分は見てほしくなかった。
そのうち壱重のやってきた悪事も知られて嫌われるかも知れない。
「女の子が捕まってるのはここかな?」
周りに何もない所に建っている大きめの倉庫。資料に書いてある住所はここで間違いない。
少女を誘拐した組織は誘拐以外にもかなり悪い事をしているらしい。
誘拐した子を人質にその家族からありったけの金を取ったあと、その家族を呼び出し殺して内臓や売れる部分を売り、最後に誘拐した子を生きたまま金持ちにおもちゃとして売る。
「恨まれると厄介だから組織は壊滅させるように……か」
資料を懐にしまいながら壱重はため息をつく。
「華弐さん、さすがに俺たちでも大変ですから作戦を……」
ズバァァァァァァァン
その音の先では華弐が扉を蹴り破っている姿があった。
「誘拐した子を開放しなさぁぁいっ」
さぁぁい、さぁぁい、さぁぁい。
建物にその声が妙にひびいた。
その場にいた者全てが呆然と華弐を見つめる。数秒の沈黙が流れた後それを破ったのは建物の中にいるうちの一人だった。
「なんだってめぇはぁぁっ」
「女の子を助けにきたのよっ」
華弐はそのまま中に強引に入ろうとする。そこにいきなり銃声が響き華弐は倒れた。
「! 華弐さんっ、大丈夫ですか?!」
壱重は華弐に駆け寄り、声をかける。
「うん……大丈夫、びっくりしただけ……こういう体なの忘れてたよ」
華弐はゆっくり起き上がり撃たれて血が出ている額をさすった。弾は皮膚の表面を傷つけただけ。
「なっなんで撃たれて生きてんだ」
華弐に向かって銃を撃った男が後ずさる。
「華弐さん……俺が奴らの相手をするのでその隙に女の子をお願いします」
「わかった」
そう言うと建物の裏に向かって華弐は走りだす。
残った壱重は左手に持った刀に手をかけヒュッと一気に引き抜いた。
建物の裏に回ったきた華弐は入れる場所を探していた。
「入れる所は……」
見つけたのはちょうど人が小さくなれば入れるくらいの窓。
息を潜めて窓から中を確認するとちょうど誰もいない。壱重がうまくやってくれているという事だ。
「女の子はどこにいるのかな……」
一番近くにあったドアを試しに開いてみる。
「あっ」
部屋のスミにうずくまって震えている女の子が一人。
「よかった……大丈夫?何もされてない?」
華弐が話しかけても震えながらうずくまっているだけだ。
「怖かったね、大丈夫、私はあなたを助けに来たの」
助けに来た、という言葉に震えていた少女は初めて反応した。華弐は少女のそばに近づきゆっくりと抱きしめる。抱きしめられ今まで我慢していた涙がポロポロとあふれだした。
「よくがんばったね、安心して、私がついてるから……」
少女はもう金持ちに売られるだけだったらしい。
それをわかっていてか華弐と一緒にいられればどこへでも行くと言った。
そして熱を吸い取る能力が追加された種を植え付けられ、新しい名前をもらう。少女は五香と言う名前になった。
次は最終話です。少し時間を置くかもしれません。