華弐
壱重は一ヶ月で何人も何人もさらってきた。その人たちはみんな種を植えつけられ死んでいった。
痛みに耐えられなかったようだ。
それにより愁裏は種を改良する事を決定。
壱重は何も言わず次の命令を待つだけだった。
「どこかにいい男いないかなぁ」
沙耶は退屈そうな声をあげる。
今日は二十歳の誕生日なのに誰も祝ってくれる人がいない。
「一人暮らしは寂しいなぁ」
気晴らしにケーキでも買いに行こうにも一人で食べるなんて悲しすぎる。
「さびしいなぁ……死んじゃおうかな」
「じゃあ俺と来てもらえないですか?」
「え?! なっ誰?! ……もしかして死神とか?!」
真っ黒な服を着ている壱重は本当に死神の様だ。
「確かに死神のようなものかもしれません」
「……ねっ、どこでも連れてっていいからその代り今日一日付き合ってよ」
沙耶は笑顔で壱重の腕に強引に抱きつく。
壱重はかなりの美形でここで逃したらもう出会えないかも知れない。
そんな事を考えた沙耶は無理やり話を進める。
「決まりっ行こ、ね!」
「まって……ください」
そんな声で沙耶を止められる事はなく、家の外に連れ出された。
「どこ行く? どこ行く?」
ウキウキとした声を出しながら壱重を引っ張っていく。完全に沙耶のペースに引き込まれていた。
「……ところでその長いやつはなに? 鎌とか?」
壱重が左手に持っていた紫色の袋に入った長細い物を指差す。
「いえ、俺が強くあるための……大切な物です」
「ふ〜ん……ところで町の方に行くからね」
もう周りには店が増え始めている。
「あっこの服かわいいぃ〜、どう? 似合うかな?」
「似合う……と思います」
「これは〜これは〜」
沙耶はものすごい勢いで服を見て体に合わせて壱重に見せていく。今、服を見ていたと思ったら今度は雑貨屋に入っていった。
「これかわいいぃ〜、これもかわいいぃ〜」
それからいろいろな店に入って見て、また入って見て。
「あの、すこし休憩を……」
「もう疲れたの?しょうがないなぁ、じゃあ……あそこのカフェ入ろっ」
2人は近くにあったオープンカフェに入る事にした。席に着くと店員が注文を聞きに来る。
「私はミルクティー、で君は?」
「あ、じゃあ……クリームソーダで」
「ぶっ、ふふっ、以外に子供ね」
店員も少し笑いながら店内に戻って行く。
しばらくすると注文の品が運ばれてきた。
「……ねぇ、連れて行かれちゃったらやっぱり帰ってこれないよね」
「はい、おそらくは」
「そう、それならそれでいいかな……もう嫌になってたから」
2人の間に沈黙が流れる。
「ケーキ買って帰ろう……一緒に食べてくれるよね?」
「はい、それくらいなら」
「ふぅ〜おいしかったぁ」
沙耶は買ってきたケーキをほとんど自分で食べてしまった。
「どうして、嫌になってしまったんですか?」
「……幸せな気分なのにどうして聞いちゃうかなぁ」
「すいません」
しょうがないなという感じで沙耶は話し始める。
「私ね、一人ぼっちなの、お母さんとお父さんは離婚して私を置いてどっか行っちゃった、十五歳くらい時だったかな、誰も私を助けてくれなかったから生きるために働いて、高校も行ってないからまともに雇ってくれるとこもない、私はこれからずっと一人ぼっちなのかなって思ったら嫌になっちゃった……」
ポロポロと沙耶の目から涙がこぼれる。
「もう……一人は……嫌だから、連れてって……一人じゃなくなるなら」
壱重は沙耶を薬で眠らせて愁裏のところまでつれてきた。
「めずらしく時間がかかったじゃないか」
「……はやくすませてください」
「言われなくてもそのつもりさ」
愁裏は離れの建物に助手が沙耶を連れて行かせる。
壱重は自分の部屋に戻ると持っていた紫色の袋から中身を取り出す。取り出したものは日本刀だった。
自分の愛刀をしばらく眺めたあと鞘から引き抜く。
「強さとは……なんだ」
刀を振り上げ何度も素振りをする。
「俺は強くなれたのか」
さらに素振りのスピードを上げた。
「俺には何も出来ない」
それから壱重は何も言わずただ刀を振り続けた。
沙耶に種を植え付けてから丸一日が立った。
壱重は沙耶のいる部屋の扉を開く。ベットの上に沙耶は横たわっている。
「起きてください」
苦しみの声をあげていたのが嘘の様に沙耶は寝息を立てて寝ていた。
「ん……だれ?」
「俺です」
「……君は誰?」
「まさか記憶が?」
本当に誰なのかわからないらしい。
「誰なの? 知り合い?」
「俺は壱重です」
「ひとえ……私の事知ってる? わからないの」
少し考えたあと壱重は口を開く。
「あなたは華弐それしか……いや知ってる事が一つだけ」
「なぁに?」
「もうあなたは……一人ではありません」
「先生、記憶を失ったようです」
「そうだな、だが貴重な成功だ」
「次の適合者は見つけてあります」