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壱重

 五年前ある男が発明をした。発明したのは機械の種。

 それは人体に入れると体中を神経のように根をはりめぐらせ、体の悪い部分を治し健康な状態を維持する物。

 それから二年、何の問題もなく人々を幸せにしてきた。

 全身麻痺で動けなかった子供や下半身不随で立ち上がれなかった人、ありとあらゆる人を助けた。

 だが一人の悪がある事を言った。「軍事用の物を作ろう」たくさんの悪が一人の悪に賛成した。

 男は反対した。ただ人を助けたかっただけなのに。

 そして軍事用の物を作る事に決定した。それでも男は反対を続けた。

 反対して……反対して……死んだ。

 「正義まさよし博士は不慮の事故で亡くなられました」

 真実はわからない。ただ、研究は悪に引き継がれた。




愁裏しゅり先生、種はもうすぐ出来上がります、ですが……」

「なんだ?」

「適合者の入手がまだ出来ていません」

「あせらんでいい、3年かかってるんだ、いまさら失敗できるか……確実に完成させればいいのだ」

 機械の種は軍事用に改良され、もはや完成の目前。

 軍事用にするために種は張り巡らされる根の量を増やし、根を太くし強度を高められた。

 もとからあった治癒能力に加えて、量を増やした事で筋力の補助がされ力が強大になり、強度を高くした事で衝撃や銃弾にも耐えられる体になる。

「完成すれば、まさに金のなる木の種だ」

「ですがもともと誰にでも適合できたのに、改良した事で一部の人間にしか適合できなくなりました。皆、欲しがるでしょうか」

「欲しがるさ、世の中戦争が大好きな奴がいる、そういうやつはより強い兵士を欲しがる、勝つためにな」

 ははははは! と愁裏は高笑いをした。




 復讐に燃える適合者が今悩んでいた。

 将博まさひろは家族を殺されて、でも復讐できるほど自分は強くない。

 そこへ種の研究をしているとか言う男がやってきて、研究の手伝いをしてくれたら力をやると言われた。

「……くそっ」

 そして夕日の中を将博は住所が書かれたメモ用紙を握り締め歩き始めた。




「先生っ、適合者が入手できましたっ」

 入手できたという言葉を聞いたとたん愁裏の顔が凶悪な笑顔で歪む。

「そうか、取引に応じたという事か、つれて来い」

 はいっ、と助手がドアの外に出て行く。

 愁裏はクククと笑っていた。

「つれてきました」

 助手に入るように言われ将博は研究室に入る。

 髪が少し長く茶色がかっている、14歳ほどの少年。愁裏が事前に聞いていたとおりだ。

 この子が種に適合できるかもしれないと思うと、早く試したくてしかたがない。

 それでもその気持ちを抑え将博に話しかける。

「よく来てくれた、まずは礼を言おう」

 少しだけ頭を下げたあと、話を続ける。

「最初の約束通り、君に力をあげよう、そのかわりここで手伝い……いや、働いてもらう、それから……君の仇も探してあげよう」

「! 探して……くれるのか?」

「あぁ、一人では難しいだろう?それに君が探す事に集中するとここで働けない」

 将博は黙って少し考えてから質問をした。

「力ってどんなものだ?」

「アスクレピオスの種は知ってるかな?」

「あの……病気とか怪我とか治るやつ?」

「そう、医療用の機械の種だ、それを軍事用に改良した」

 よくわかっていない顔をしている将博を見て、愁裏は簡単な言い方に直す。

「体を強化できる機械に作り変えたんだ」

「……だいたいわかった」

「では、もう質問がなければ、さっそく君に種を植えよう、来てくれ」

 歩き出した愁裏の後ろを将博と助手がついて行く。

 研究室がある建物から外に出て少し歩いたところに、小さめの建物が立っていた。そこに入って行く。

 中は以外に頑丈そうな作りでそう簡単には壊れる事がなさそうだ。

 真ん中にはベッドが置いてあるだけで他には何も置いていない。

「このベッドに座ってくれ」

 将博は言われるままベッドに腰掛ける。

 白衣のポケットからヒマワリの種のような銀色の物を取り出した愁裏は後ろから将博の頭と首の間の所にそれを押し付けた。

「い゛っぃだ」

 押し付けられた所に痛みが走る。

「これで植え付けは終わった」

「え? これだけか?」

「これから根が体に広がる、それでは我々は明日になったらまたここに来る、それまでここにいるんだ」

 それだけ告げると愁裏と助手は外に出て行ってしまった。

 外から鍵を閉める音がする。

「なんで鍵なん……いてて」

 鍵を閉める音が聞こえなくなった時、

 種を植え付けた場所が痛み始めていた。

「いた……いな」

 どんどん痛みは大きくなっていく。

「う゛っぐあ」

 痛みで体に力が入らなくなり、床に転げ落ちる。

「う゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁあああ゛あ゛あ゛」

 さらに痛みは大きくなり激痛が全身に広がっていった。




「先生、予想よりはるかに痛みが大きいようです」

 外にまで聞こえてくる叫び声を聞きながら愁裏に話しかける。

「これでは痛みによってショック死するかもしれません」

「死ねばまた改良すればいい、多少変えるくらいならすぐできるからな」

「ですがもっと時間をかけて根を広げた方が死亡率は低くなるのでは?」

「人間の心は脆いのだよ、長時間苦しめば体は死ななくても心が壊れる」

「そうですか……」

 愁裏の話を聞いて助手はそのまま黙ってしまった。




 何十時間も体中に走っていた激痛がやっと治まった。

 種を埋められてからどれくらい経ったのかわからない、ただ体を動かすとまだ痛みが残っている。

 将博が虚ろな目で一点をボーっと見ていると鍵を開ける音が聞こえた。

「生きているか?」

「……ぁぁ」

 愁裏の後ろのドアから助手が入ってきて

 将博に近づき支えながら立たせると、最初いた研究所まで連れて行かれた。

「これで君は力を手に入れたんだ」

 笑顔で将博にそう告げ、布で包まれた長細い何かわからない物を見せる。

「君がその体に慣れた頃これをやろう」

 そう言って愁裏はその長細い物を持ってきたところにしまう。

「それから今日から君は壱重ひとえと名乗れ」

「ひと……え」

「壱重、今日は休め、明日から仕事をしてもらおう」

 自分の部屋を聞いた壱重はよろよろと研究室を出て行く。

「成功しましたね」

「あとはテストと実験を重ねるだけだ」

 うれしさが隠し切れないようで愁裏は歪んだ笑顔を浮べていた。

「ですが適合者の入手はどうします?」

「もう回りくどい事はいい、壱重にさらってこさせる」

「わかりました」

「適合者になら百%成功する事が証明できれば、金が手に入る」

 ははははは! と笑った顔には悪意が満ちて歪んでいた。




 あたりが明るくなった頃、壱重は目が覚めた。昨日の痛みが嘘のように消えている。

 ほんとに変わってるのか心配になるほど何もない。

 壱重は少し歩いてみようと部屋を出た。

 研究室がある建物の端に位置する部屋は外への出口が遠い。出口までの道のりを歩いている途中、体が軽い事に気付いた。

 少しの変化でも苦しい思いをした分嬉しくなる。

 やっと着いた出口から外に出るとまず思いっきり走ってみた。

「すごい! こんなに速く走れるなんて」

 人間ではありえないほどの速さで走れている。

 今度は止まろうとすると、勢いが消えずにこけて転がってしまった。

「まだ慣れていないようですね」

 いつの間にか愁裏の助手がいて、壱重に声をかけてくる。

「頼みたい仕事があります、先生の部屋に来てください」




 研究室には愁裏が待っていた。

「やぁ壱重、体に不調はないか?」

「あぁ、体が軽いくらいだ」

「ならいい、頼みたい仕事はな……こいつを誘拐して来い」

 そう言って一枚の紙と写真を手渡される。

「誘拐? どういうことだ?!」

「我々に必要なんだ、壱重、君が拒否すれば君の苦労が水の泡だよ」

「なんだと?」

「仕事をしないのなら約束は果たせない、それに君の中の種も取り除く、あぁ取り除くといってもこちらで消滅信号を送るだけで種は機能停止する、仇もとれず弱い将博に逆戻りだ、さぁどうする?」

 愁裏の顔は悪意に満ちた歪んだ笑顔になる。

 壱重はすぐに答えが出せなかった。

「……わかった」

 その返事を最後に感情を捨て、

 冷酷無比な“壱重”になる事を固く決意し、研究室を出ていった。




 しばらくして助手が愁裏に疑問を投げかける。

「消滅信号なんて聞いてませんよ?」

「ははははっ、そんなものない、壱重を操るためだ、

 やはり子どもは扱いやすい」

 そしてまた悪の犠牲が増えた。

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