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短編

最近の日常

ネットカフェから書いた。

左にクソガキが座っている。

本をうるさくめくり、リズムにのり、足をバンバン鳴らしている。


俺は、歌ってみたを聞いている。

好きなバンドのもので、一番再生数の多いやつを聞いている。

クソガキがリズムも音程も取れていない何かを歌っていて、それをつまらない人間が●●くん、英語も歌えてすごい!みたいな、同じことを、延々と、たくさんの人間が、書いている。


ほとんどの人間に死んでほしいと思う。

 今、何もやりたい事がない。半死、半生というところ。

文も書いていない。絵も描いていない。バンドもやっていない。(これについては、二月末にアクションを起こす、と言い訳をし、先送り、先送りしている。)


 元々、何一つ取り柄がない人間である、と自覚しているので、こういう、自分が特別な人間だと思い込める方法を一つとして実践できないのは、本当につらい。


 仕方なく、最近の現実であった事を一日に濃縮し、間に合わせとする。タバコでいうところの、わかばのようなもの。


 朝六時、携帯電話のアラームが鳴る。今日も目覚めてしまった、と悪態を吐く。前日、酒を飲みすぎて頭痛がする。

タバコを一本吸い、二度寝する。いつも、六時に起きて、一時間何か、創作的な事でもしようと思うのだが、仕事の事を思うと、もう、いけない。

夢でも見て、リフレッシュしたい気分になる。


 結局、七時に起きる。タバコをもう一本吸う。最近は、朝立ちしなくなった。

おかげで、小便がしやすくていい。髭は前日、酒を飲みながら剃っているので、顔だけ洗う。大体、血の跡がかなり、残っている。


 上着だけ羽織り、制服の入った鞄を肩から下げて、家を出る。タバコをもう一本、歩きながら吸う。

歩きタバコをするのは良い。俺は厳しく育てられたので、背徳感が沸き起こる。(子供の頃はポイ捨てすら出来ず、ズボンのポケットにゴミを詰め込み、それが一杯になったまま家に帰る事が、よくあった。)


 クソみたいな環境の地区に住んでいるので、朝はよく酔っ払ったおっさんが、その辺をうろうろしている。

おい、兄ちゃん、一本くれや。おっさんが俺に言う。俺は嫌、と一言言う。

嫌か、俺やったら、喜んでやるけどな、とおっさんが言うので、俺が笑うと、おっさんも笑った。

俺は急に腹が立って、じゃあ、くれ。と真顔で言うと、おっさんはブツブツ言いながらどこかへ行った。


 地下鉄に乗る。いつも別の本を持とうと思うのだが、忘れる。

おかげで今日も、太宰治の、愛と苦悩の手紙を読む。何度、この人の、借金を申し込む文面を見ただろうか。

満員電車。席が一つ空くと、さも多忙そうなふりをした、眼鏡をかけた、俺が一番嫌いなタイプのサラリーマンがせかせか座る。俺は、死んでくれねえかなぁと、思う。


 駅を降りる。人が、夏の街灯に群がる蚊柱のように、行ったり来たりしている。腹が減るので、何か買って、食う。どうでもいい。

俺の職場は、その、蚊柱の流れが集中する所を突っ切らなければならない。

左に流れる蚊柱を突破し、正面に出る。

いつも俺はおどおどと、人の流れを見ながら行くので、そこを通るのに五分から六分かかる。

その日はもういい加減、イラついていた。誰かの足を踏むか、肩がぶつかり、喧嘩になれば、相手も半死半生の状態にしてやり、俺は捕まり、晴れて仕事をやめられると思った。


 俺は、生まれついての無頼のように、突っ切った。そうすると、蚊柱がおどおどし、俺の流れを伺った。

こんなつまらない事で悩んでいたのかと思った。


 そのままてくてくと歩いていくと、大きな建物があり、仕事場がある。見るたびに思うのだが、こんなに大きな空間が要るのだろうか? 

おはようございます、とあいさつすると、不機嫌そうな声が返ってくる。

ああ、めんどくせえなぁ。


 女は気分で仕事をする。女々しい男も気分で仕事をする。

そういう時は、大体、もう、めんどくさい。

俺の頭には二匹人格が住んでいる。

一匹は、寄生虫。もう一匹は、毛むくじゃらの動物。

もう、俺はめんどくさくなって、しょうがないので、動物に任せる。


 そういう時は、大体別の事を想像しながら、仕事をやる。

自殺に失敗してからか、そのために自殺をしたくなったのか、俺の脳には真円の穴が開いている。

そこに景色を映し出す。大体は、海の映像だ。


 そして、大体は、キューバの海を想像する。

灰色の空、それなりにきれいな海、人間は一人も出ない。風が吹いている。

そのため、よくわからない、ヤシの木のようにも見えない、木が、揺れている。

あんまりきれいなものは、嘘くさい。

だから、気分の良い時は、マイアミの海を想像する。そこはきれいで、人が溢れている。


 動物は何を言われてもヘラヘラ笑っている。実際に苦しいのは俺だから、どうでもいいのだ。

鬱が本当に進行すると、頭が痛くなる。激痛がする。胃も痛くなる。死にたくなる。どうでもいい。

お前らにとっても、どうでもいい。


 昼休み、昼飯を食う。大体、しょうもない、600程度に収まるものを選び、タバコを吸っていると、もう終わりなので、走って帰る。惨め。

帰っている途中、時計代わりに使っていた携帯電話を漁っていると、不意に腕を捕まれる。革のジャケットを着ていたので、ギゥ、と音がして、痛かった。

振り返ると、俺が嫌いなタイプの、眼鏡をかけた、人生に小さな不満と家庭的な幸福を感じ、そして、浮気でもしようものなら、己の道徳心に痛みでも感じてみるような、サラリーマンが居た。

「落としましたよ」そいつが指す所を見ると、タバコのフィルムが落ちていた。


俺が、故意に落としたといいたいのか?

俺がそれを必要だと思うのか?

お前が拾って捨てればいい話じゃないのか?


 殴り殺してやりたかったが、時間がなかった。あと五分で休憩が終わりだぞ、動物が急かす。

俺は拾って、ポケットに入れて、すみませんと言った。そいつは得意そうな顔をしていた。死んでくれ。情けない。


 午後も同じく、動物に任せる。終業前になると、大分気分もよくなり、俺が仕事をしてもいい気になる。

動物は怒られても、一生懸命仕事をしている。よっぽど人間に生まれ変わりたくて、生まれ変われたから、嬉しいのだろう。

俺が仕事をすると、たいていよく出来るので、いつもその調子でやれと言われる。

出来るならやってる。頭が痛いんだ。そう思う。


 終業。ゲームセンターに行って、格ゲーをやる。大抵、ハメ技で殺される。

ブックオフに行き、何かを買う。この日は、怒りの葡萄にしておこう。


 読みながら煙草を吸って歩いていると、灰が当たったらしく、絡まれる。

めちゃくちゃ熱いぞ、ふざけんな! といわれる。ああ、すみません。自分の左手を見ると、タバコの根性焼きが五つぐらい入っている。本当に脳が死にかけている時にやると、気分がよくなる。

子供だったらどうするんだ? どうでもいい。

俺がもしヤクザならどうするんだ? どうでもいい。

すべて動物に任せ、俺はキューバの海を想像していると、そいつはどこかへ行ったので、タバコに火をつけ、怒りの葡萄の三章を読みながら帰った。途中で惣菜を買った。


 家に着くと、犬が居る。水と餌がないので、吠え立てる。やって、頭を撫でると、満足して寝床へ帰る。

惣菜と、うまくもないメシを食う。

空きっ腹に酒をやると、よくない。

巻き煙草を巻いて、吸う。両切りのようなものなので、ガツンと来る。

酒を飲む。ウオッカが多い。俺はすぐ醒めるので、最低でも、半瓶は飲む。

明日が休みなら、ここで何か薬を飲み、さらに酒を飲む。


 最近、人の顔が、時々、熟れきり、腐敗しつつあるざくろのように見える。

目と口と鼻は、熟れきったあまり、裂け、そういう風にできた。そんな風に見える。

おかげでAVも見れない。


 寝床に入る。今は押入れで寝ている。押入れの外で寝ると、街灯と、家の前にある居酒屋が夜中まで流している有線のせいでロクに眠れない。

アラームを六時にセットする。

煙草を吸う。

酒を一杯飲む。

後悔する。

そして、眠る。

これが365日、何もしなければ、50年ほど続くと考えると、今すぐ死にたくなる。

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