籠城戦
赤月がじっと外を見ている。窓の向こうは真っ白だ。
花神楽に、大雪が降った。ニュースでは30年ぶりだの交通に影響だのと盛んに報じられている。
「はーすっげぇ降ってるなぁ…こんな雪初めてだ」
「私の家でも滅多に見ないわ」
「そうか」
「休日で良かったわね」
「だなぁ…」
こんな日に外に出るなんて、必要に迫られてもしたくない。真っ平御免だ。
「これじゃ車も出せねぇし、電車も軒並み止まってるみたいだな。出かけたくても出かけられないだろ」
「そうね…」
「良かったな昨日買い物行っといて…こりゃ籠城戦になるぞ」
冷蔵庫の中身を思い返す。しばらく買い物に行けなくても3日はもつだろう。
「深夜」
「ん?」
「ちょっと、外見てきていい?」
「…あぁ。風邪引かないようにな」
「うん」
赤月は防寒をしっかりすると玄関から出て行った。こういうとこはやっぱりまだ子供だ。でも、それでいいと思う。
冷蔵庫を覗いて中を確認して、そのままの流れで向かうのはガス台の下。自宅の喫煙所だ。ここで換気扇を付けて吸う。赤月いるしな。
「…あれ」
煙草の箱には、もう一本しか残っていなかった。昨日買い忘れたか。顔が若干青ざめるのを感じた。
コンビニに行けば買いに行けなくてもないが、この天気だ。コンビニまでは徒歩5分強の距離だがどのくらい時間がかかるか検討もつかない。
「まだ、我慢できる、か…」
代わりにコーヒーを淹れることにした。正直もやもやする。でも今これを吸ってしまったらもう煙草はない。そこから先、外に出られるようになるまでどうやって乗り切ればいい。そう考えるととても最後の貴重な一本を使うわけにはいかなかった。
心境はさながら心理戦。ただし、煙草を吸いたいという欲求と、外に出たくないという怠惰のせめぎ合いという自堕落にもほどがある内容だが。
そうしてしばらく経った。コーヒーが瞬く間に4杯目に突入した頃、赤月が少し嬉しそうに帰ってきた。
「お。おかえり」
「…ただいま…」
「どうした?」
「…深夜今すごく怖い顔をしていたわ」
「……そうか…すまん」
これ以上周囲に飛び火しないうちに、早く雪は止まないものか。