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短編小説

異世界ヒキニートにロボ娘さん

 彼は死んだ。



   〔1〕


「自宅警備していたら大型車両が突っ込んできたあげくバスガス爆発。死にたい」

「もう死んどるけどな」

「死にたい」


「これはどういうこと」

「と、いわれてものう……。運転手が脳卒中起こした際にたまたま道路にいたずらされていた置石を踏んで、ハンドルが切れたあげくアクセル踏み込んじゃってなぁ。まあ運が悪かったの」

「なぜ爆発したし」

「整備不良でエンジンオイルやら漏れ漏れだったみたいじゃぞ。まあこっちは人災じゃが、整備士の者も超過勤務からの過労状態が行き過ぎて、注意力が低下していたようじゃな。加えて燃料周りが圧縮天然ガス化されておったわけじゃが、これのタンクがおぬしの家の外壁を乗り越えた際に、その石欠けの尖った上面にまた自重が集中する形で落ち乗っていてのう。見事に刺さって大穴空けておったわい。やはり総じたところは運が悪いとしか」


「運か」

「運じゃなあ」

「運かあ……」



 さて。

「それで?」

「うむ。おぬしは地球では死に果ててしまったわけじゃが、実は――スキップします――という理由でとある世界へ行ってくれる者を探しておってな? たまたま死に様が目に付いた――プププ――おぬしにどうかと思ってのう」

「おいィ……。もう、おいィ。ていうか、もうのっけからムリくさくないスか? わてくし人生自宅警備街道まっしぐらですよ? 英語で言うとヒキニート」

「見事な英語力じゃなと感心顔になる……。なに、そこはもちろん考えあってのことよ。役目上、現地で短くても二十年は生き延びてもらわねばならんからな。そのために必要だろう“特別な能力”を一つ二つ、授けておこうと」


特権的転生(ギブミーチート)キタコレ。っと、いわれましても。マウスより重いものなんてもう何年も持ったこともない、痩せ細った手足の、体重だって四十台半ばくらいしかないような骨もろい(もく)すぐ折れそう()な生物の端くれっぽいわてくしなんぞに、どう踏ん張れと」

「だからそこをいい感じの能力でカバーできるよう、考えるのが大人の醍醐味というヤツじゃろ?」

「ううーん。まず食料採取とかムリだし。解体とか、血の臭いとか吐くどころか失神するし。住処……掘るの? むりむり。掘る建てる築く、どれもヒッキングニーテストパワーと相反せし言霊ワード。きんだーん、じんましーん」


 ぴこりーん。

「いや……いや、まてよ? 自分でやれないなら……パンがなければお菓子の理論……やってもらえばいいじゃない。コレだ!」

「ほほう。つまり、どういうことじゃってばよ?」

AIBOO(アイボー)ください。ロボ()さん的な意味で」

「そうきたか」

「そうきました」


「ロボ娘さんなの?」

「降臨乞い願うメイド服おぷしょん。使いきれぬ真性の愛、貞淑なるロングスカート装備。おありがとうございます! 正統派美少女メイド型ロボ娘さん!」

「どこからネタ引っ張ったの?」

「昔読んだ小説。大好きだったしゃーんく」

「ギリ攻めはやめようねあぶないからね」

「あっはい」



 どーでせう?

「まあ、やってやれないことはないが」

「さすが神さん! おれたちにできないことを平然と以下略」

「うむ」

「うむ」

「ただな、異質なテクノロジーに加えて余計な質量の持ち込みじゃからな。かなう要望はこれ一つきりになるぞえ」

「問題ないでしょうむしろなにが問題たりえるのか。ロボ娘さんですよ? しかも貞淑メイド型。これはもう万能解決ナンでもコイコイ待ったなしでしょう間違いない。正統派(ちから)は無限大!」

「そうじゃな」

「うむ」

「うむ」


 こうして彼は降り立った。



   〔2〕


 彼が目覚めた場所は、平原と森林の境目付近だった。傍らには粛々と立つロボ娘さん。

 遠目には平原の向こうに人里城塞らしき壁立ちが、また森奥には山脈らしき遠景が、それぞれ見ゆる。

 そこで、彼は…………全力で森奥を目指した。


 原住民と交流? ムリムリ。

 そもそも言葉通じないし、翻訳作業ならロボ娘さんが一晩でやってくれるだろうけど、未知の言語を一から学習とか。カッコくしょうカッコとじ。コミュ障ヒキニート体質なめんなし。そこまで頑張って意思疎通を図る根気なんてあるわけない。

 物資の調達やらはロボ娘さん万能説で解決すればいいし、だいたいが野蛮な原住民などと関わったところでトラブル呼び込むばっかりでしょうそうでしょう?

 なんという完全無欠理論武装。これはもう不戦勝するしかないかも分からんね。ひでお。



 こうして彼(と、お仕えロボ娘さん)は、森を越え山を越え、山脈の尾根を二つも越えた奥地、ここまでくりゃー人の足では死地も同然だろうくらいの原生山野まで引っ込んで、拠点作りに勤しんだ。

 なお、道中の移動は当然のごとくおんぶに抱っこモードでしたがなにか?(ここでどっちがどちらとあえて言わないのが大人の醍醐味)



 まずは岩山の肌に横穴掘って当面の寝床を確保し。(ロボ娘さんが)

 次いで、引っこ抜いておいた大木どもがいい感じに乾いてきたあたりでログハウスを建て。(ロボ娘さんが)

 金具が必要となれば川底から鉄鉱石を拾ってきて石組み窯炉で打製して。(ロボ娘さんが)

 食料? ウサギもシカもイノシシも、指先一つでノックダウン!(バルカンショット的な意味で)

 植物やらの毒性検査も、光学スキャンで問題ナッシン。(目からビーム的な絵面で)

 無敵! 完全! 女子力まんてん! ボクらのつよーいみっかった(ヒキニート的な視点で)、それはぁー、ロボ娘さぁ~~ん!



 やがて十年経ち。二十年経ち。

 五十年近くが経つ頃、どんなに栄養状態が完璧で病気一つなく安穏とした生活であっても、人ならば(きた)るべき限界がある。それを寿命という。

 彼は安らかに穏やかに眠りについた。満ち足りた笑みとともに、二つの言葉を遺して。

 ここまでずっとずっと世話になってきて、感謝していると。

 そして……どうか、ここから先はあなたの望むままに、自由に生きていってもらえたら嬉しいと。


 そんなことをいわれても、ロボットは生きてなどいない。

 自ら望む衝動もない。内発動機がないということは、何らの行動に繋がることもないということ。

 それでも外的要因が襲い来るなら対処もありえたかもしれないが、この場は拠点として防衛機構も擬装処置も最大限を施してあり、時が止まったかのごとく何が起こるということもない。

 この身は錆びも知らぬ鋼鉄であり、朽ちることなく、整備も要さず。

 ならば何があるというのか。けれど、彼の言葉は、最期の指令にも等しい。忘れられない。


 思考だけが終わりを知らない。連ねて連ねて連ねて。

 そうして幾百年か、あるいは幾千年かの星霜の果て。

 彼女は立ち上がると、扉を開いて歩みだした。



   〔3〕


 そうして旅立ったロボ娘さん。

 ロボ娘さーん。おお、その鋼鉄なる強靭な脚~。山谷険峻なんのそのー、歩くよ駆けるよ跳び越えるーよ。

 山脈越えて崖下り~、深く茂った森抜けて~、やがて出会うは熊に襲われ村娘~。なに! 人命救助は指先バルカン十連装! トドメに目からビームだぜぇ~。


 感謝と畏怖を受け取って~、歩く歩くよロボ娘さん~。草の海原切り払い~、やがて見ゆるは土街道。

 やや! 豪奢な馬車列が襲われておりますぞ!

 野獣と山賊群れている~。しからば左腕ガトリング~。展開! 七面鳥撃ちだぜヒャッハー!

 とどめに右脚のカルバリン~、やったー今夜はハンバーグ! ツキジめいたぜミンチぶり~。


 感謝と畏怖を受け取って~、歩く歩くよロボ娘さん~。踏みしめられた土街道~、舗装も何もないけれど~、ロボ娘さんならなんのその。巡航速度は百マイル!

 それ以上は~、足が地面を砕いて埋まっちゃうからダメなんだぜベイビ~!

 やがてそびえる石囲い~。原住民の城塞都市。やはこんにちはと門衛さん。お嬢さんはどちら様かね、身元証明と入市税は払えるかい?

 そんなもの~、なっしーんぐ。山の奥の出、どこの国ですらもない~。

 それは困ったどうしよう。もし戦えるなら冒険者になるという手もあるけれど。でも最初の入市税が問題で、そもそも街に入れなきゃ。

 貨幣はありませんけれど、幾種か宝石ならあります。拾って磨いたピカピカちゃん。これには価値がありますかしら?

 おお見事なものだすばらしい。それならむしろお釣りに困るくらいだよ。ただ宝石商じゃないからね、値付けは低い方を見ることになるけれど。

 構いませんわどうぞよしなに。


 レンガ造りの街中進み、扉開けるは荒くれ酒場。その名も~「遺跡もぐりの喘鳴亭」。手酷い皮肉がぴりりと利くぜ~、冒険者の店~。

 魔力もなにもないロボ娘さん~。一見しては華奢な小娘~。侮られたりもするけれど~。

 でも! その身体(からだ)は鋼鉄ボディ! 錆びない折れない曲がらない~。何があってもへっちゃらさ~。正面吶喊撃破だぜ~。

 ああ~~~、ここから始まるぅ~~。さいきょーう、むてきー。時代を拓いた英雄の~。

 ロボ娘さーん、でんせつぅぅ~~~!




                            (そして伝説へ)

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