夏休み編~甘えること~
騒がしい誕生日会の翌日。
耕太はいつも通り朝早くに起床し、散歩を行っていた。耕太はまるで趣味のように散歩を行っているが、それを見ればオヤジの趣味だと言われても仕方がない。
「朝は静かでいいよな・・・」
言っていることからしてオヤジだが、耕太の言っていることは間違っていない。ただでさえ静かな舞桜村だが、朝ということもあってかたまに通る車の音もほとんどない。あるとしても、朝早くに畑へと向かう軽トラックが一、二台通るくらいだ。それくらい静かな状況がそこにはあった。
「あれ?こうにぃ?」
「春香?」
耕太がふと前方を見ると畑を眺めている春香と目が合った。
「珍しいな、春香が早起きなんて」
「昨日早く寝過ぎちゃったからね」
あの誕生日会は子供がいるため、あまり遅い時間までは行わなかった。しかし、幼馴染二人と三姉妹は準備の疲れがあったのか、片付け後すぐに眠ってしまっていたのだ。
ラフな格好な春香は、朝ということもあってか随分と口調が穏やかだ。その為、いつものきつい感じの春香はそこにはなく、穏やかな雰囲気を纏った美少女がそこにはいた。
「この時間ってこんなに静かなんだね」
「ここはいつも静かだけどな」
「確かにそうかもね。でも、そこがここの良いところなんじゃない?」
「まあ、そうだな」
そう言って二人は微笑む。
耕太自身、この村の静かな雰囲気は嫌いではない。もともと、人が多いところや賑やかなところが苦手な耕太には、この村の静かな雰囲気がとても合っていた。
「そういえば春香。なんで畑農に来なかったんだ?」
耕太は思い出したように尋ねる。
春香はこの春に高校へ進学した。その高校は畑農ではなく、県内でも一、二を争う進学校だった。本人は恥ずかしがっているが、耕太を溺愛している春香のことだ、耕太を追って畑農に進学すると周りも思っていたのだが、春香はその道を選ばなかった。周りから理由を聞かれたが、春香は答えをうやむやにしていたのだ。
「笑わない?」
「面白かったら笑う」
「なにそれ。でも、こうにぃなら言ってもいいかな・・・」
春香は意を決したように口を開く。
「私ね、夢があるの」
「夢?」
「うん。学校の先生。そこの高校でしっかり勉強して、国立大学の教育学部へ行きたいの。お母さんとお父さんにはいっぱい迷惑かけてて、子供は三人いて大変だろうから少しは楽させてあげたいの」
春香はポツリポツリと自分の夢を語る。
確かに叔母達は三人の子供を養い、育てている。三人ともなれば大変だろう。自分ひとりを養うことも難しいことを耕太は知っている。だからこそ、春香の言うことはもっともだとも思った。国立の大学に行くのと、私立の大学に行くのとではかかる費用も随分と違うだろう。
春香は親のことを考え、尚且つ自分の夢をかなえようとしていたのだ。
「だから、今の高校を選んだの」
「そうか、春香なりによく考えた結果だったんだな」
「うん。自分の夢を叶えたい。だけど、お母さん達にも迷惑はかけられないから」
「まあ、春香がよく考えての結果だし、わしは良いと思うよ?非難することも笑うこともない。けど、春香はもう少しわがままでも良かったのかもしれないね」
耕太は優しく春香の頭を撫でながら言った。
「わがまま?」
「ああ。春香は子供で叔母さん達は親なんだ。春香がやりたいって言えばよく考えて、最終的にはやらせてくれると思う。親ってのはどこまで行っても子供の味方だからな。春香は優しすぎるんだ、もう少し甘えても良いってことだよ」
「でも・・・」
「春香の考えを否定しているわけじゃないんだ。わしが言いたいのは、親に甘えることを忘れるなってこと。甘えすぎるのもダメだけどな」
そう言って耕太は笑顔を浮かべる。
「甘える・・・」
「春香が思っている以上に親ってのは春香の味方だよ」
「うん!」
元気に返事をする春香は、ようやく顔を見せた太陽のように輝いていて、ついつい見とれてしまうほどに魅力的だった。
「こうにぃ、ありがと。なんか楽になった気がする」
「そりゃよかった」
「こうにぃはまだお散歩するの?」
「ああ、もうちょっとな」
「そっか!じゃあ先に帰ってるね!」
「ああ。気をつけてな」
「うん!」
耕太は元気に走っていく春香が見えなくなるのを確認し、散歩を続けた。
耕太は親に甘えることはもう出来ない。親に甘えることで得られるものは多い。もちろん甘えすぎてしまうことは悪いことだ。耕太自身、中学生にあがった時頃から親に甘えることは少なくなった。そして、そのまま永遠に甘えることはできなくなった。
親に甘えたくても甘えることができない。しょうがないなと笑い合うこともできない。そんな些細で当たり前のことができない事は辛い。耕太は春香に甘えることで生まれる喜びや、感じることのできる優しさを忘れて欲しくなかったのだ。
春香と別れたあとも散歩を続けた耕太はようやく帰宅した。
すると、台所には叔母が立っており、朝食の準備を行っていた。
「すみません叔母さん。朝ごはん作ってもらって」
「いいのよ。いつも任せっきりなんだから」
「ありがとうございます」
耕太は感謝の言葉を述べる。
「私こそありがとうね」
「え?」
耕太はいきなり感謝され驚きの表情を浮かべる。
「さっき、春香が自分の夢を語ってくれたわ。教師になりたい、だから今の高校に進んだってね」
「そうですか」
耕太は自然と頬が緩む。
「春香が話してくれたのは耕太君と話したからでしょ?」
「そんなことないですよ。あいつが自分で決めたんでしょうよ」
「そうかしらね」
そう言って、叔母は小さく微笑む。
「応援するわって言ったら、春香なんて言ったと思う?参考書買ってくださいよ?笑っちゃうわよね。参考書くらい何冊だって買ってあげるのに」
「はは、そうですね」
耕太は内心驚いていた。そんなことまで我慢していたのかと。あるいは自分のお小遣いを削って買っていたのだろう。
「でも、春香にとっては大きな一歩なんだと思ったわ。私も応援しなきゃね。春香の夢は私達の夢でもあるんだから」
「そうですね」
叔母の嬉しそうな顔を見て耕太も嬉しそうな笑みを浮かべた。
「もうすぐご飯できるからね」
「はい。手伝いますよ」
朝食後、耕太は一足先に雅子達の墓へとやってきていた。
「春香の夢は学校の先生だって。すげえよな~」
耕太は嬉しそうに墓石に話しかけながら、墓石周りの掃除や墓石の掃除を行っていた。
「わしも将来のこと考えなきゃね・・・。よし!綺麗になった!」
掃除を終え、耕太は静音達を待つ。すると、遠くに静音達の姿が見えた。
「今年は大人数だよみんな。良かったな」
耕太が手を合わせ、話しかける。静音達は耕太より一歩下がったところで手を合わせる。
「みんなのことを見ててくれよな。これからも、よろしくお願いします」
そして、耕太は笑顔を浮かべ立ち上がる。
「さて、帰ろっか」
「そういえばシズ」
「ん~?」
墓参りから帰宅した耕太達は家で少しのんびりしていた。
「海、いつ行くんだ?」
「七日とかどう?」
「みんなに聞いてみるか」
「そうだね~」
そう言って静音は伸びをする。
「なになに~?海行くの~?」
二人の話しを聞いて目を輝かせる夏美。
「そうだよ。あ、なつ姉達も来る?」
「おかーさん!」
「いいわよ~?行ってらっしゃい」
「やった!」
「シズ、三人追加で」
「りょうか~い」
軽い感じで三姉妹の海水浴参加が決定した。
「水着・・・」
春香は自分の胸を押さえ、暗い顔をしていた。
「じゃあ、また来いよ」
「うん!また来るねこーにいちゃん!」
「ばいば~いこーくん」
夕方、三姉妹と叔母達が帰宅することになった。
「こうにぃ、いろいろとありがとう」
「頑張れよ」
「うん!」
春香は最後まで笑顔を浮かべて帰っていった。
「楽しかったねコウ」
「ああ、楽しかった」
「また遊べたらいいな~」
「一週間すればまた会うけどな」
「そっか!楽しみだ!」
騒がしい日々はまだまだ続くのだった。
続く
どうもりょうさんでございます!
「どうも川島耕太です!」
さて、今回は春香の夢について触れました。
「教師を目指すなんてすごいですよね」
次回からはついに海だ!
「やったぜ!」
騒がしい連中はどこに行っても騒がしい!どんな事が起こるのか!それは次回からのお楽しみ!
「いろんなキャラが勢揃い!ハチャメチャな回になりそう・・・」
がんばれ耕太!がんばれ俺!それではまた次回お会いしましょうね!
「さようなら!」




