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農業高校は毎日が戦争だぜ  作者: りょうさん
夏休み編
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夏休み編~あなたは幸せ?~

女子の買い物は長い。

これは活発な幼馴染でも、物静かなクラスメイトでも、元スーパー生徒会長でも同じである。見るもの全てを買うわけでもない、世の中にはウインドウショッピングというものもある。買わずにただ眺めるだけ。そんな女子を見た耕太は買うお金がないのだと思っていた。ウインドウショッピングの何が楽しいの?と問われれば、見ること自体が楽しいと答える女子を耕太は何人も見た。そんな事は所詮建前であって、ただお金がないのだろうと、耕太はそう思っていた。

しかし、目の前にいる姉妹は違った。

「耕太君これ似合うかな?」

「似合いますよ」

試着室から出てくる彩花に答える耕太。

耕太の言葉は嘘ではない。ファッションに疎い耕太でもわかってしまうほど、彩花はどんな服でも似合うのだ。おとなしめな服でも、少々奇抜なファッションでも、彩花の手に掛かれば全て似合ってしまう。容姿が整っているというのは反則だと耕太は思った。

「じゃあこれ買うね。・・・耕太君持ってて」

「え!?そんな簡単に!?」

あっさりと購入を決め、一度試着室に戻り服を渡す彩花に驚く耕太。

「だって似合うんでしょ?」

「似合いますよ?似合いますけど、そんな簡単に・・・」

既に耕太の手には何着もの服がある。

耕太自身、値札は見ていないがこれほどまでになると相当な額になるのではないかと思った。

「大丈夫よ~」

「あ・・・」

そう言って彩花は新たに服を探しに行く。

耕太は唖然とそれを見送るしかできなかった。

「姉さんはお金は積極的に使うタイプだから」

「とは言って・・・も・・・」

「どうしたのかしら?」

彩花と同じく試着室から出てきた麗華を見た耕太は息を飲む。

麗華が試着をしたのは現在の服が初めて。麗華らしい落ち着いた感じの服。白いワンピースが麗華の黒髪と上手く合わさって、もともと清楚系な雰囲気を漂わせている麗華が更に清楚に、かつ綺麗になっていた。

耕太はその姿に見とれるしかなかったのだった。

「い、いや。その服、似合ってるよ」

「そう。じゃあこれを買うわ」

「え?即決?」

彩花と同じく即決する麗華に驚く耕太。

「似合うのでしょう?」

「うん、もちろん」

口調は違うが、彩花と全く同じ返答に驚きながらも答える耕太。

「なら、それでいいのよ。川島君が似合ってると言ってくれる、それで買う理由は充分よ」

当たり前のようにそう言う麗華の表情は穏やかなものだった。

「・・・!」

耕太はその表情と言葉に顔を赤くすることしかできなかった。

「耕太君!次これね!」

「は、はい!」


「結構買いましたね・・・」

「そう?普通じゃない?」

彩花はそう答えるが、耕太の腕には服の詰まった袋が何袋もぶら下がっている。

その大半、いや全てが彩花のものである。結局麗華はあの一着しか購入しなかった。

「普通ですか・・・」

改めて金持ちというものを思い知った耕太だった。

「そういえば少しお腹減ったわね~」

「そうね。もう二時だものね。お昼にしましょうか」

「そうだね。どうしましょうか」

「ふっふっふ。耕太君!ここに麗華ちゃんの手作り弁当があります!」

不敵な笑みを浮かべ、手に持っていた大きめのカバンを大きく天に上げる。

「な、なんだってー!」

「食べたいかい!?」

「もちろんでさぁ!」

麗華に呆れたような目で見られながらも、耕太と彩花は茶番を始める。

「よし!じゃあ食べよう!麗華ちゃんに感謝するんだぞ!」

「いえっさー!麗華様マジ神!最高に美しいっす!」

「近くの公園に行きましょう」

「「いえっさー」」

茶番終了。


ショッピングモールをあとにした耕太達は、ある大きな公園へとやってきていた。

「よーし!ここにしよう!」

そう言って彩花はどこから取り出したのか分からないシートを芝の上に敷いた。

「じゃあ、これ耕太君の分ね」

「ありがとうございます」

シートへと座った耕太にほかの弁当箱よりも少し大きめの弁当箱が手渡される。

「じゃあ、いただきます」

耕太はしっかり合掌をして弁当箱を開ける。

「おぉぉ・・・」

耕太は思わず声をあげてしまう。

弁当箱の中には、栄養バランスの考えられた料理が綺麗に入っていた。料理一つ一つが空腹の腹を刺激する。

「うめぇ・・・」

卵焼きを口にした耕太は思わず涙しそうになる。

それ程までに耕太の舌に響く美味しいものだった。

「よかったね麗華ちゃん」

「よかったわね姉さん」

「え?」

耕太は思わず声をあげてしまう。

「ちょっと麗華ちゃん!」

彩花は顔を赤くし、手をバタバタとさせる。

「どういうこと?」

「さっき川島君が食べた卵焼きは、姉さんが作ったものなのよ」

「れ、麗華ちゃん!」

「さっきは恥ずかしくて、自分が作ったとは言わなかったのよ」

「もーいいでしょ!うぅ」

顔を赤くし、涙目になる彩花。

その姿は少々幼く見えてしまうが可愛いものであった。

「そうだったんだ。ありがとうございます、彩花先輩」

「うん・・・。美味しいって言ってくれてありがと・・・」

「うっ!ど、どういたしまして!」

普段の姿とは全く違った表情をして、上目遣いで見る彩花に耕太は思わず動揺してしまうのだった。


「ふぅ・・・。美味しかった。ごちそうさまでした」

「よかったわね、姉さん」

「もういいよー!」

相変わらず彩花をからかって楽しんでいる麗華。

「でも、母さんにいろいろ聞いておいて良かった~」

「そうね。私も聞いておいて良かったわ」

「お母さんですか?」

「そうよ。誰かの為にお弁当を作るなんて初めてだから、母さんに聞いておいたのよ」

耕太の疑問に答える麗華。

「なるほど」

耕太も納得したようだ。

「久しぶりに母さんと料理して楽しかったねー!」

「そうね。たまにはいいものね」

「そうですか」

楽しそうに話をする二人を耕太は笑顔で見つめ、同時に空を見た。

「・・・」

「・・・」

「どうかしました?」

いきなり話をやめ、耕太を見つめる二人。

「耕太君って、その顔よくするよね」

「そうね。優しいけど寂しい、そんな感じがするわね」

「・・・」

耕太はしまったと思った。少しの間黙ってしまう。

「なにか、あるの・・・?」

彩花は恐る恐る言葉を紡ぐ。

聞けば嫌われてしまう。そんな感情を持ちつつ、知りたいという感情を前に出す。心なし手が震えているようにも見えた。

「無理には聞かないわ。でも、聞きたい」

麗華もまた彩花と同じく、握った拳が震えていた。

耕太は二人の言葉を受け止め、目を瞑り、やがて開くと言葉を紡いだ。

「案内したところがあります」


耕太が南姉妹を引き連れてやってきたのは、舞桜村。耕太と静音が住む村だ。

「ここが、耕太君が育った村・・・」

彩花が小さく呟く。

今や緑へと染まった桜が風に揺れ、耕太達に進めと促す。

「こっちです」

十分程歩くと、あるお寺の中へと入っていく。

やがて、墓地が見える。

「ここは・・・」

三つならんだ墓の前で耕太が足を止める。

「わしの大切な人達が眠る場所です」


耕太はあの後、これまでのことを二人に話した。

もともと隠すつもりもないと思っていたことだ。聞かれれば答えるし、話すことにも抵抗はない。耕太は淡々と話を続けた。

耕太が話をしている間、二人は顔をしかめたりしていたが静かに耕太の話を聞いていた。

「・・・ということがありました」

「・・・辛くない?」

話を終えた耕太に彩花が問う。

何度も聞かれたことだ、一時期持っていた答えと今の答えは全く違う。そして、目の前にいる人物達は答えを変えてくれた人達。耕太は笑顔で答えた。

「辛くないことはないですけど、わしは今を笑って過ごせている。昔のわしなら難しいことでした。だけど、それを変えてくれた人達がいます。こんなわしを好きだって言ってくれる人もいる。母さん達の代わりなんていないです。でも、笑っていれば母さん達も笑ってくれる。そして、今はそれを支えてくれる人がいるんです。だから、いつまでもうじうじしてちゃいけないんです!それこそ、母さん達に怒られちゃうから!わしは二人にも感謝してます。二人だけのおかげではないですけど、二人がわしの中で大きな存在で、わしが笑っていられる要因なんです」

「あなたは・・・幸せ?」

麗華の問いに耕太は笑顔で答える。

「幸せだよ」

「私はあなたの力になれてる?」

「なれてる」

「私はあなたを支えることができてる?」

「できてる」

「私は・・・私は・・・」

麗華の声は徐々に震え始める。

「私はあなたの近くにいてもいいの?」

「いいよ。いてくれないと泣いちゃうかもね」

「そう。よかった・・・」

麗華の手は耕太の手と重なり、彩花の顔は耕太の背中へと押し付けられた。

小さな小さな泣き声は夏の風へと消えていった。


続く

どうもりょうさんです。

「どうも川島耕太です」

今回は、最後のほうが少しシリアスでしたね。

「二人には感謝してます」

さて、ちょっと最近疲れ気味なので後書きも短めで。

「わしに構う暇がないほどに疲れています。予想以上です」

それではまた次回お会い致しましょう。

「なるべく早くに更新されるとは思います。気長にお待ちください。それでは」

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