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農業高校は毎日が戦争だぜ  作者: りょうさん
彩花の過去編
80/110

彩花の過去編~偽物と本物~

「とまあ、そんなことがあったんだよ」

「南先輩が・・・」

彩花の過去を聞いた耕太は少し彩花を見直していた。

畑農に対する気持ちも人一倍持っていることは、彩花が在学している当時も感じられた。しかし、そんなに熱くなった彩花を耕太が見ることはなかった。

「意外?」

「意外ってことはないですけど、やっぱりびっくりしました。そんな南先輩は見たことがなかったですから」

「あんまり自分の感情を見せることが得意じゃない人だからね」

沙耶は優しい微笑を浮かべ呟く。

「沙耶さんも気づいてたんですか?」

「在学中はわからなかったよ?でも、純也先輩に聞いてそういえばそうだなって思ったの」

「なるほど・・・」

その後、耕太はコーヒーをおかわりして【master】をあとにした。


(そっかー、聞いちゃったんだ)

「はい。正直見直しました」

耕太はいつも通り仕事を終え、家に帰宅すると彩花に電話をかけた。

(惚れた?)

「惚れません」

小悪魔めいた言葉を囁く彩花を軽くいなす耕太。

(ひどいなー。まあでも、あの時私を守ってくれた西野先輩には感謝してるよ)

そう呟く彩花の声は懐かしむような優しい感じを帯びていた。

「普段の美桜お姉さんからは想像できないですけどね」

(それは私も思うよ)

耕太と彩花はクスクスと笑い合う。

(そっか~。三島先輩と神田先輩くっついてたんだ。よかったよかった)

「沙耶さんのことやっぱり知ってたんですね?」

(もちろん。有名だったんだよ?ずっと頑張ってて、一途に三島先輩を見てた先輩だったからね~)

彩花は思い出すように語る。

(あんな健気に頑張ってる先輩を見てたら応援したくなっちゃうよ)

「幸せそうにしてますよ」

(だろうね~。三島先輩の好きそうなタイプだし、ああみえて三島先輩は尽くすタイプだからね~)

「おっしゃる通りです」

耕太は苦笑いを浮かべる。

(実はね?その一年生生徒会長のお話には続きがあるんだよ?)

「続き?」

(聞きたい?)

「是非とも」

耕太はワクワクしながら彩花に続きを促した。

(これはね、一年生生徒会長が失ったものを取り戻すお話。そして、かけがえのないものを手に入れるお話)



一年生で生徒会長へ就任した彩花。その働きはめざましいもので、持ち前の飛び抜けた才能を存分に発揮した。いつしか彩花は畑農史上最高の生徒会長とまで言われ始めていた。生徒会長として壇上に立てば、多くの者がその笑顔に酔いしれ釘付けになる。しかし、その笑顔は完璧に作り上げられた作り物だった。生徒会長へ就任した彩花はその笑顔を頻繁に見せるようになった。あの花畑のような笑顔は美桜や純也の前を除いた場所で見せることはやはりなかったのだ。

「ねえねえ彩花ちゃん」

「なんですか?」

何故か生徒会室に入り浸っている美桜は彩花を呼ぶ。

「やっぱ作り物じゃなきゃだめ?本物は出せないの?」

「・・・今は、無理です」

彩花は一瞬の間を置いて美桜の問いに答えた。

「そっか~。何かきっかけでもあればいいんだけどね~」

「そう簡単には無理じゃないですか?」

「案外簡単かもよ?その笑顔を真っ向から否定されるとか」

「なんですかそれ」

彩花は苦笑いを浮かべながら美桜を見る。

「私やじゅんじゅんはその笑顔を否定したりしないよね?でも、その笑顔は嫌いだ!他の人の笑顔の方がいい!って言われたらどうかな~って思って」

「イラついて終わりじゃないですか?」

「そうかな~?彩花ちゃんならその子に興味を持つかも知れないよ?」

彩花は美桜の言葉を聞いて少し考える。

確かにそうかもしれない、自分の笑顔を真っ向から否定する者などこれまでいなかった。自分ならばそれを行った者に少なからず興味が湧いてしまうかもしれない。彩花はそう考えてしまった。

「もしくは、恋をするとか?」

「恋・・・」

「幸い彩花ちゃんは恋を知らないみたいだからね~」

美桜は少々意地悪な笑顔を浮かべる。

「したことないだけで知ってはいますよ・・・」

「そうかな~?」

「西野先輩だってしたことないのでは?」

「ないよ?」

彩花はその答えに少し面食らってしまう。

「私も人を好きになったことはないよ?でも、したいとは思ってる。恋をして、その人のために可愛くなろう!って考えたり、振り向かせようと頑張ってみたいとも思ってる。彩花ちゃんはどう?恋をしたいと思ってる?」

彩花はその問いに言葉を詰まらせてしまう。

彩花は正直なところ、恋をしたいとは思っていなかった。恋をして何になるのか、何が楽しいのかがわからなかったのだ。彩花は恋をしたいと思わないから誰かに胸をときめかせることができなかったのだ。

「案外さっき言った真っ向から否定してくれる人に恋をしちゃうかもね」

美桜はけらけらと笑いながら呟いた。

「恋・・・か」

彩花は自分の胸へ手を置き、恋というものを考えた。

しかし、その答えが出されることはなかった。


やがて月日は経ち、卒業式を迎えた。

高校生活最後の行事。涙を流すもの、凛と前を向くものと様々だが、皆一様に最後は笑顔で旅立っていった。

「頼んだぞ生徒会長」

「はい・・・」

彩花の前に立っているのは純也と美桜。

その手には筒状の物が握られていた。

「泣くな、今生の別れってわけじゃないんだ。いつでも会えるさ」

「はい・・・」

「たく・・・こういう時は泣くんだから・・・」

純也は優しく彩花の頭に手を置き、ポンポンと軽く叩く。

「まあまあ、ほら~彩花ちゃん泣かないで~」

いつもの間延びした声で彩花に話しかける美桜。

その目は慈愛に満ちており、彩花の頭を撫でる手は優しいものだった。

そして、純也と美桜は声を揃えて言った。

「「あとは頼んだよ生徒会長」」

二人の言葉に目に涙を溜めた彩花は、若干震えながらもこう言い切った。

「・・・任せてください」

純也と美桜はその姿を自分達の目に焼き付け、畑農を旅立っていった。


それからというもの、彩花はより一層生徒会活動に尽力し、その名を轟かせていた。

しかし、その一方で唯一本物の笑顔を見せていた美桜と純也がいなくなった今、彩花が本物の笑顔を見せることはなくなっていた。壇上では必ず笑顔を浮かべている彩花。しかし、その笑顔は作り物であり、本物ではない。彩花は完全に笑顔を失ったのだ。

そして、そのまま文化祭を迎えた。

彩花は生徒からの要望で継続して生徒会長を務めることとなった。選挙を行い他の生徒会メンバーも決まった。その中で、彩花にとって嬉しい誤算があった。それは、副会長の桜川奈々と書記の西野美紅の存在だった。桜川とは親友と呼べる仲にまで親しくなり、美紅は美桜の妹ということで面識もそれなりにあり、親しくなることができた。この二人の前では彩花は本物の笑顔を見せることが少しずつできるようになっていた。

そして、彩花にとって大きく運命を変える一つの出会いが翌年に起こる。



(それが耕太君ってわけ)

「わしですか?」

耕太はいきなり自分の名前が出てきたことに驚いた。

(耕太君は私の偽物を真っ向から否定してくれた。西野先輩が言ったようにね)

【南さんは僕に笑顔を見せてくれた!その笑顔はあなたの振りまく上辺だけの笑顔じゃない!心の底から、見て幸せになれる笑顔だった!今わかった、あなたの笑顔にときめかない理由を!本物の笑顔・・・南さんの笑顔をみたからだ!】耕太は初めて彩花と対面したときにこう答えた。麗華の笑顔は本物で彩花の笑顔は本物じゃない、耕太はそういったのだ。そして、彩花の笑顔にはときめかないと言い切ったのだ。

「あれは・・・」

(怒ってないよ?むしろ感謝してるくらいなんだから。・・・あれがきっかけで私は耕太君に興味を持った。それこそ、西野先輩の言ったとおりにね。そして、もう一つ西野先輩の言うとおりになった。それはね?恋だよ)

「恋・・・」

(そう、恋。耕太君に抱いた興味は耕太君と過ごすうちに恋心に変わっていった。私を真っ向から否定してくれて、私から手を伸ばしても届かない。でも、耕太君はいつも輝いてた。一緒にいると楽しくて、それまで絶対に漏れることのなかった本物の笑顔が自然に出てくるようになった。耕太君は私を変えてくれた。この人といればもっと変われるかもしれない。一緒にいたい!って思ったの。そして気づいた、この一緒にいたいっていう気持ちが好きという感情で、恋なんだって)

彩花は胸の内を吐き出すように言葉を並べた。

(私はね?耕太君が好き。何度でも言うよ?何度でも告白するよ?私は耕太君が好きなの)

それは彩花から受けた告白だ。何度も言われた好きという言葉、言われるたびに顔が熱くなる。決して耕太が言われ慣れることのない言葉。重みのある言葉だ。しかし、今回は今までよりも更に重かった。でも、耕太の答えは変わらない、何度も答えた、何度も告げた。今回も同様だ。

「今誰かと付き合うことはできないです。これはまだ変わってません」

耕太がそう告げると、電話越しに息を吐く音が聞こえてきた。

(・・・わかってるよ。でも、まだなんだよね?いつかは答えが出るんだよね?)

「必ず」

(ならいいよ。私はその時まで待ってる。そんでもって、それまでずっとアピールし続ける!)

彩花の言葉は明るいものだった。

電話の先、東京の地では偽物ではない本物の笑顔を浮かべているだろう。

それに倣うように耕太も笑顔を浮かべた。


続く

どうもりょうさんでございます!彩花の過去編~偽物と本物~をお送りいたしました!いかがでしたでしょうか?

さて、今回で彩花の過去編は終了となります。彩花は当初、意地の悪いお姉さんの設定、いわゆる悪役ポジションを予定しておりました。しかし、気づけば耕太にメロメロ、実は熱い思いを持った子という感じになってました。彩花の恋は実るのか!実らないのか!それは耕太次第。そして私次第。皆さん的には誰が耕太とくっつくと予想されているのでしょうか?麗華?彩花?静音?はたまたハーレムか、それともだれともくっつかない?妄想が膨らみますな!これからの展開をお楽しみに!

それではまた次回お会い致しましょう!


作者のもうひとつの小説「こんなの家具なわけねえ!」も読んでいただけると嬉しいです!


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なにか、問題、ご要望があればメッセージなどいただければ嬉しいです!

この小説がお気に召しましたら評価の方もお願いいたします


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