1学期編~畑農の相談役~
対面式も終了し数日が経ち、一年生は新入生合宿研修の事前研修に入った。今日も今日とて、体育館からは先生の怒声が聞こえてくる。
「おーおーやってるなー」
「そうだね~。毎年大変だ~」
怒声が響く体育館をよそに、こちらは優雅にお話をしている耕太と哲也。現在五時間目。課題研究の時間だ。
課題研究といってもまだ正式に班が決まっているわけではなく、グループで各班を体験しているという状態だ。今回、耕太と哲也は造園班の体験だ。とはいえ、外はあいにくの雨。作業ができず、教室待機となっていた。
「雨やまないね~」
「そうだな。まあ、休めていいけどな」
「確かにそうかも」
その他の造園班体験グループのメンバーもダラダラしていた。
すると、造園班担当の先生が大きな箱をもって教室へと入ってきた。
「園芸科からミカンが届いたぞ!食うやつはとりにこーい!」
「「「「「「うおおおおおおおお!!!」」」」」」
先生が持っていた箱にはミカンが山ほど入っていた。あっという間に箱に群がる緑地の生徒たち。
「くぅ・・・うめえ!うめえなぁ・・・!」
「柑橘類さいこー!」
「やっぱうめえなぁ!」
ミカンを口にした生徒達は口々にうまいうまいと賞賛の言葉を紡いだ。
「はい耕ちゃん」
「お、さんきゅ」
騒ぎが収まってから取りに行こうと思っていた耕太に、哲也がミカンを持ってきてくれた。
「うまいなやっぱ!」
「ほんとだねー!」
耕太や哲也の口にも合ったようだ。このように、授業中に先生や他学科からの差し入れが届くこともあるのだ。
「お?」
そこで五時間目終了のチャイムが鳴る。
「よーし!じゃあ休憩!ていってもずっと休憩だったようなもんか!」
がっはっはと笑う造園班担当の先生。つられて生徒たちも笑っていた。
「じゃあ、次の時間もここに集合な。ひとまず解散」
「「「「「「ありがとうございましたー!」」」」」」
そこで五時間目が終了した。
六時間目も特に変わったこともなく、放課後となった。もちろん耕太は生徒会室に直行だ。
「ん~?」
生徒会室に向かう途中、自動販売機前のベンチに大勢の生徒が座っていた。女子生徒が身にまとっているセーラー服のリボンを見てみると、一年生を表す赤の色をしていた。ちなみに、二年生が青、三年生が緑となっている。
「大変だな・・・」
耕太は去年の合宿研修を思い出し、ため息を吐いた。すると、一人の女子生徒が耕太の横を元気に通り過ぎていく。
「部活だー!やっほー!」
「こら。廊下は集合の時以外走らない」
「あう!」
耕太は女子生徒に追いつき、頭にチョップを落とす。
「うぅ・・・。痛いよコウ・・・」
「ったく・・・」
涙目で耕太を見上げるのは幼馴染であり緑地土木科の後輩である花だ。
「人にぶつかったらどうするんだよ」
「あぅ・・・。怪我しちゃうね」
「いや、ぶつかった人の方が心配だ」
「ひどいよ!ウチだって女の子なんだよ!?」
花ほどの武芸の持ち主なら咄嗟に受身を取れるだろう。更に花の振り下ろした腕が当たれば、気を失うほどの威力を持つことを耕太は知っていた。
「まあ・・・気をつけてねハナちゃん」
「うん!じゃあ部活行ってくるね!」
「ああ。いってらっしゃい」
「部活ー!」
「あ!また!ってもういないし・・・」
あっという間に走り去ってしまった花を呆然と見つめる耕太だった。
「元気すぎるだろ・・・」
多くの一年生が弱音を吐きぐったりしている中で、あの元気さは逆に目立っている。しかし、元気な者がいないわけではない。緑地で言えば智や錦も意外に元気らしい。
「まあ・・・。本番はここからだしな・・・」
耕太は足早に生徒会室へと向かった。
「どうもー」
「あ、耕太君。お疲れ様」
「お疲れ様です美紅先輩」
生徒会室に入ると、美紅が向日葵のような笑顔で挨拶をしてくれた。
「今日は早いですね」
「うん。そうなんだー」
通常、美紅は一度家庭部に顔を出してから生徒会室へとやってくるのだが、今日はその家庭部自体が休みだという。
「そういえば耕太君」
「はい?」
「遠藤さんは部活決めたの?」
「わしはなにも聞いてませんよ?」
「そっかぁ・・・」
何か気になることがあるふうに考え込む美紅。
「どうかしたんですか?」
「家庭部に入ってくれるかな~って思ってたんだけど、まだ入部届け持ってきてくれてないんだよね~。体験には来てたみたいなんだけど。他のところに決めちゃったのかな?」
「うーん。わしは何も聞いてないですけどね・・・」
「うーん・・・」
二人が頭を抱えていると、生徒会室の扉をたたく音がする。
「はーい、どうぞー」
美紅が入室を促すと、一人の女子生徒が顔をのぞかせた。
「あれ?遠藤さん?」
「突然お邪魔してすみません」
そこに現れたのは、紗奈だった。少し俯いている。
「構わないよ。どうしたの?」
「えっと・・・。部活のことなんですけど」
「うんうん」
紗奈は耕太に部活のことで相談に来たようだ。恐る恐る口を開く。
「えっと、家庭部にも入りたいんですけど、写真部にも入りたいんです」
「そっか、遠藤さんは写真が好きだったね」
「はい。家庭部のみなさんはとても良い方ばかりですし、家庭部の雰囲気も好きなので入部したいのですが、写真の方もやってみたいなって」
「なるほど。どちらかで迷ってるんだね?」
「はい・・・」
一度上げた顔を再び下げてしまう紗奈。
「簡単だよ」
「え?」
耕太の言葉に紗奈は思わず顔を勢いよく上げる。
「どっちにも入っちゃえばいいんだよ」
「え?それっていいんですか?」
「大丈夫だよ。兼部は認められてるしね」
「でも・・・。二つの部活を両立できる自信が・・・」
「大丈夫。家庭部の活動日は大体毎日だけど、写真部の活動日は週に一回か二回だから、その日だけ抜ければいいしね。事情を話せば家庭部は融通を利かせてくれるからね。ね?美紅先輩?」
耕太は美紅へと視線を移す。
「うん、実際家庭部には兼部をしてる子多いしね。それに、私だってその一部だし」
美紅は家庭部に所属しながら、生徒会活動も行っている。兼部といっても過言ではないだろう。
「ほんとにいいんですか?」
紗奈の不安は拭いきれていないらしい。
「大丈夫だよ。遠藤さん、君は自分の好きなことを精一杯やってみな?わし達はそれを精一杯サポートするからね」
「・・・!わかりました。やるだけやってみます!ありがとうございました!川島さん、西野先輩!」
「がんばってね」
「はい!」
そう言うと紗奈は笑顔で生徒会室を後にした。
「最近耕太君への相談増えてるね」
「そうですね。頼られるのは嬉しいですよ」
最近、耕太へ悩みの相談を行うために多くの生徒が生徒会室を訪れるようになった。
きっかけは、偶然ある生徒の悩みを聞き相談に乗ったところ、その噂が広まり多くの生徒が押しかけるようになったのだ。多くといっても、週に二、三人程度なので耕太はあまり気にしていないようだ。
「生徒の間じゃ、副会長のお悩み相談は有名らしいよ?」
「別に特別なことはしてないんですけどね」
耕太は苦笑いを浮かべ答えた。
「へへ♪そっか♪」
「なんで嬉しそうなんです?」
「ううん。やっぱ耕太君は耕太君だなって」
「・・・?」
「えへへ♪」
美紅は心底嬉しそうな顔を浮かべていた。
それから数日が経ち、事前研修を終えた一年生が合宿研修へと出かけて行った。
「行っちゃいましたね」
「そうだね~。どんな風に成長して帰ってくるかな」
「頼もしくなって帰ってきますよ」
「そうだね!」
「はい!」
二人は期待を込めて、新入生が乗ったバスを眺めていた。
続く
どうもりょうさんです!1学期編~畑農の相談役~をお送りいたしました。
今回は特に進展はありませんでしたが、一年生が合宿研修へと出かけて行きました。
たくましくなって帰ってきてくれることでしょう!
さて、次回は一年生、帰ってきます!
・・・え?もう帰ってくるのかって?帰ってきます!
帰ってくると言ったら帰ってくるのです!
次回をお楽しみに!
ではまた次回お会い致しましょう!
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