春休み編~桜の下で~
【明後日お花見をしましょうぜ!場所は畑農近くの公園で!各々食べ物、飲み物持ち込みOKだぜ!んじゃ、よろしく! 下永哲也】
哲也からこのようなメールが届いてから二日が経った。耕太は約束通り畑農近くの公園へ来ていた。哲也が朝早くから場所取りをしているらしく、場所探しをする必要はないらしい。現在11時、集合時間は12時。少し早く来すぎてしまったようだ。
「哲也はいるかな」
朝早くから場所取りをしているなら既に到着しているのだろう。
そう思った耕太は哲也を探した。案外早く見つかったのだが・・・
「哲也様?大丈夫ですか?」
「ちょっと朝が早かったからね~」
そこには甘奈に膝枕をされている哲也がいた。
「・・・」
耕太はなんとなく恥ずかしくなり、無言でその場を去った。
(す、少し公園内を回ってみようかな~・・・)
この公園はお花見スポットとして有名であり、今日も公園内のあちこちに花見客がいた。
「やっぱ、いっぱいいるな~」
耕太は公園内を見回しながら歩いていく。
すると、一つの団体が目に入った。
「あれは・・・」
そこにいる人達の顔には見覚えがあった。
「がっはっは!花見じゃー!飲むぞー!騒ぐぞー!」
「そうですな!さっ!熱井先生!お一つ!」
「ああ!ありがとうございます火野先生!」
その団体の中でも一際目立つ二人。
一年緑地土木科担任の熱井先生と学科主任の火野先生だった。そのほかにも、校長先生や教頭先生、畑農のほとんどの先生が集まっていた。
「熱井先生?火野先生?」
耕太は二人に話しかける。
「お?おお!川島じゃないか!」
「おお!川島!」
二人は耕太を見ると驚いた表情を見せたが、またがははと笑い出した。
「今日はどうしたんですか?皆さんお揃いで」
「うむ。今日はな畑農職員総出の花見会なのだ!」
熱井先生がテンション高く答えてくれる。
「これは毎年しててな!畑農職員の密かな楽しいでもあるんだ!がっはっは!」
続いて火野先生がこれまたテンション高く教えてくれた。
(緑地の先生ってみんなこんな感じだよな・・・)
この二人以外にも緑地土木科には三人の先生がいる。造園の先生や測量の先生、科目はそれぞれだが皆一様にテンションが高い。
「それで?川島はここで何をしてるんだ?」
「あ、えっと。わし達も花見をする予定で」
「おー!またいつものメンバーか!」
「ええ、まあはい」
先生達は笑いながら楽しんでこいよ!などといって耕太の背中を叩く。
先生達と少し話した後、耕太はまた公園内を回った。耕太と分かれる頃、先生達は既に出来上がっていた。
「そろそろかな」
現在11時50分。結構な時間先生に捕まっていたようだ。耕太は哲也の居た場所へと戻った。
「おーっす」
「お?おお、耕ちゃん!おっすおっす!」
哲也の居た場所へともどると、さすがにもう甘奈に膝枕はされていなかった。
哲也以外のメンバーも結構集まっていた。
耕太と哲也の他に、甘奈、静音、麗華、美紅、緑、青、そして何故か美桜がいた。
「なんで美桜お姉さんが?」
「なんか楽しそうだったから!」
美桜はグッ!と親指を突き出した。
「相変わらずですね・・・」
美桜は笑顔で耕太を見ていた。
「さてさて、これで全員揃ったね!じゃあ、ひとまず乾杯でもしますか!」
哲也が言うと全員が紙コップを持つ。
「川島さんは何がいいです?」
「ん?じゃあ、お茶で」
「はい、どうぞ」
「ありがとう甘奈ちゃん」
甘奈がお茶を注ぎ渡してくれる。
それをみた哲也が乾杯の音頭をとる。
「それじゃ皆さん!かんぱ~い!」
かんぱーい!と皆の声が響いた。
乾杯が終わったあとは皆自由に話をしていた。
哲也は甘奈と、美紅、緑、青、美桜は仲良く話していた。美紅達は幼馴染らしく、前から仲が良いのだ。静音と麗華は先程からにらみ合っている。耕太はその様子を穏やかな笑顔で見ていた。
(楽しいな)
耕太は心からそう思った。
一度、もっと言えば二度三度と絶望の淵に立たされた耕太は、皆で集まり笑い合えるこの小さな幸せを噛みしめていた。
耕太が笑顔で皆の様子を見ていると、美紅がてこてこと耕太の方にやってきた。
「楽しんでる?耕太君」
「はい。楽しんでますよ」
「そっか♪」
美紅はそう言って耕太に笑いかけた。その笑顔は少し季節は早いが向日葵のように輝いていた。
「もうすぐ新学期だね」
「そうですね」
もうすぐ四月に入る。四月に入れば新学期はもうすぐだ。四月からは入学式の準備のため、耕太は学校に行かなければならない。
「ありがとね」
美紅は耕太に感謝を述べた。
「わしは何もしてないですよ」
「ううん。耕太君には色々と助けてもらったから。ありがと」
「どうってことないですよ。また新学期からよろしくお願いしますね」
「こちらこそだよ!」
美紅はその向日葵のような笑顔を一層輝かせながら美桜達のもとへと戻っていった。
「ふくかいちょ~。お腹すいた~」
「川島ちゃん~お腹すいた~」
「えっと・・・」
耕太は緑と青に絶賛食べ物をねだられ中であった。
時刻はお昼時、皆もお腹がすいてきたようだ。
「それじゃ・・・」
そう言って耕太は先程から持っていた手提げかばんから重箱を取り出した。
「これどうぞ。口に合うかはわかりませんけど」
ふたを開けると、中には多くの食べ物が入っていた。もちろん、全て耕太の手作りだ。卵焼きや唐揚げ、サンドイッチなどの洋食も入っていた。趣味料理と付け加えたほうが良いのではないだろうか。
「これ全部ふくかいちょーが作ったの?」
「そうですよ?」
「すげー。まじすげー。お嫁に来ない?」
「えっと・・・。お嫁にはいけないですかね~」
緑の言葉に苦笑いを浮かべる耕太。
「いただきま~す!・・・おいしいー♪さすが川島ちゃん」
「お口にあってよかったです」
青の口にも合ったようだ。
「あ!耕太のお弁当だ!私も食べるー!」
「私もいただくわ」
「私もー!」
「お姉ちゃんも~」
「俺っちも俺っちもー!」
「私も頂いてよろしいのでしょうか」
耕太の弁当を見た者が集まってくる。
耕太の弁当を口にした者は皆一様においしいと言った。
「口に合ってよかったよ」
耕太は笑顔でその光景を見ていた。
その後は甘奈の持ってきていた弁当も食べた。その味は言うまでもなく絶品だった。
騒ぎが落ち着いた頃、耕太は桜を見上げぼーっとしていた。
「きれいだな~」
耕太は無意識にそう呟いていた。
「こ~た」
「どうした?シズ」
耕太を後ろから呼んだのは静音だった。
「なに黄昏てんの?」
「別にそんなことはないけど。まあ、なんていうか。楽しくてな」
「そっか。耕太のその顔大好き」
「どんな顔だ?」
耕太は首をかしげ問う。
「優しい顔」
「わしいつも怖い顔か?」
「ううん。不安そうな顔」
「・・・なるほど。そうかもな」
確かにそうかもしれない。耕太はそう思った。あのことがあってから少なからずおびえながら生活していたのかもしれない。思えば心当たりがあったのだ。
「でも、最近は不安そうな顔をあまり見せなくなってた。それはたぶん、みんながいたからだよね」
静音は相変わらず談笑している皆を見ながら言った。
「・・・そうかもな」
『かも』なんて曖昧な言葉を使ったが、耕太は確信している。この幸せな気持ちは皆がくれたものだと。皆がいなければ、今こうして笑顔で花見をすることもなかっただろう。そんな風に耕太は思っている。
「でも、もっと楽しくなるよ。だよね?」
「ああ・・・」
静音の言うとおりだと耕太は感じた。
「だよね?南さん」
「・・・ええ」
静音の問いに答える麗華。いつの間にか麗華も話に参加していた。
「この桜が満開になり、散り始める頃。私達の第二楽章が始まるのよ」
「だね~。大変なこともたくさんあるだろうね~」
「それなら手を取り合えばいいのではないかしら?」
「確かにそうだね。だよね?耕太」
静音は耕太に目線を移す。
「・・・ああ、そうだな」
耕太は下を向き微笑みながら肯定した。
もうすぐ四月だ。
楽しかった花見も終了を告げ、皆帰宅していった。哲也と甘奈は公園内のベンチに座って、桜を見ていた。
「楽しかったか?甘奈」
「はい。とっても」
甘奈は笑顔で哲也を見る。
「そりゃよかった。来年度からは一緒の学校だな」
「はい。楽しみです」
甘奈も無事、畑農へと合格を決めたのだった。
「俺が多くのものを得た場所だ。甘奈もなにか得られるといいな」
「はい。私には頼もしい先輩があんなにたくさんいるんです。大丈夫ですよ」
哲也は今日集った仲間の顔を浮かべる。すると自然に笑顔がこぼれた。
「はは、確かにそうだ。待ってるぜ甘奈」
「はい!」
続く
どうもりょうさんでございます!春休み編~桜の下で~をお送りいたしました!
さあ!お花見会でした!私はお花見にあまり行ったことがありません!ですのであまりノリがわかりませんでした!ぼっちじゃないよ!
ということで、次回から四月に入るかと思います!
出会いの季節が近づいてまいります!後輩君や後輩ちゃんが登場しますよ!
お楽しみに!
それではまた次回お会い致しましょう!
作者のもうひとつの小説「こんなの家具なわけねえ!」も読んでいただけると嬉しいです!
ブクマ、感想など頂ければ作者は泣いて喜びます
なにか、問題、ご要望があればメッセージなどいただければ嬉しいです!
この小説がお気に召しましたら評価の方もお願いいたします




