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農業高校は毎日が戦争だぜ  作者: りょうさん
3学期編
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3学期編~旅立ち~

3月1日。

3年生が主役となる3年生最大の行事、卒業式。

3年生が巣から飛び立ち、旅立っていくのを祝う日だ。


「今日で卒業か~」

「さみしいの?」

「そりゃ、さみしいわよ」

「奇遇だな。私もだ」

そう言って笑い合うのは、元生徒会長である南彩花と元生徒会副会長である桜川奈々だ。

この二人は昨年度後半から今年度文化祭まで、生徒会として過ごした。二人の働きは素晴らしいものであり、全生徒の憧れ的存在であった。

そんな彼女達も今日で卒業。この畑農という巣から飛び立つのだ。

「改めて思い出してみるといろんな事があったね~」

「そうだな。私にもいろいろあったよ」

「3年前ここに入学して、生徒会に入って仲間と恩人に出会った」

「そして、川島君と出会ったか?」

桜川はニヤニヤとニヤケ顔を浮かべる。

「な!?・・・そうね。耕太君との出会いは大きな出来事だったわ」

「川島君と出会ってから彩花は変わったからな」

「どんな風に?」

「笑顔を見せるようになった。そうだな・・・。川島君で言うところの上辺だけの笑顔を徐々に見せなくなった・・・かな」

「・・・確かにそうかもね」

彩花は自分の笑顔を思い浮かべ、笑った。

「結局、ここにいる間は振り向いてもらえなかったな~」

「ここにいる間・・・か」

「そうよ、ここにいる間。まだ諦めてなんてあげないんだから」

「彩花らしいよ」

そう言って桜川は笑った。


彩花と桜川が話をしている間、耕太をはじめとする生徒会メンバーは目を回していた。

次々と押し寄せてくる保護者の波。耕太達は受付に立っていた。

「おはようございます!お子様の学科の列に並んでくださーい!」

「靴は脱いで袋の中に入れてください!」

保護者の波は途絶えることを知らなかった。ちなみに美紅は最終の打ち合わせがあるためここにはいない。

「おはようございます。お子様のお名前のところに丸をお付けください」

「あら。川島君じゃない」

「ん・・・?あ!南さんのお母さん!」

耕太の前に現れたのは、麗華と彩花の母であった。

「副会長になったって聞いたけど、大変そうね」

「ええ、まあ。でも、楽しいこともありますから」

耕太は笑顔を浮かべた。

「そう♪ならよかったわ。それじゃ、またね。川島君」

「はい!本日はおめでとうございます!」

南母は耕太に笑顔を向け体育館へと入っていった。

やがて、保護者の波も終わり、生徒が入室する。


生徒が入室を始めた頃、耕太は受付を行っていたピロティーからある教室へと向かった。

「失礼します」

扉をノックし、扉を開く。

「県立畑農業高等学校、生徒会副会長、川島耕太です」

扉を開いたその先には多くの来賓が集っていた。

ここは来賓の控え室となっている会議室だ。来賓130人がここに居るため少々狭く感じるが、この会議室はとても広い。その会議室を埋め尽くすほどの来賓が集まっていた。

「本日は本校卒業式にご来賓頂き、誠にありがとうございます。もうすぐ開式致しますので準備をお願い致します」

耕太がそう呼びかけると、来賓は準備を始める。

「君が副会長君かい?」

「はい」

耕太の前に立ったのは一人の50歳位の男性だった。

「私は畑市長の太田だ。よろしく」

「し、市長さんでしたか!この度はご来賓頂きありがとうございます!」

「いやいや、私もここの卒業生でね。毎年来ているんだよ」

「そうでしたか。この畑農は太田様から見てどうですか?」

耕太はせっかくなので聞いてみた。

「うむ。畑農はいい学校だ。生徒の笑顔があふれている。そしてなにより、生徒が素晴らしい。純粋だからね」

「・・・なるほど。ご貴重な意見ありがとうございました!」

「うむ。頑張ってくれ副会長君」

「はい!」

そして太田は耕太の後に現れた教頭に連れられ体育館に向かった。耕太もその後に続き、体育館へと向かった。

いよいよ卒業式が開式する。


生徒、保護者、教員、それに来賓を加えた1000人以上の人が体育館に集まった。体育館内は静寂に包まれ、卒業式の開式を今か今かと待っている。

耕太も自分の席に着いた。

そして司会者の声がマイクを通して体育館に響く。

「卒業生、入場」

吹奏楽部の演奏の中、体育館の入口から伸びる赤絨毯の上を歩き、3年生が入場する。3年生の胸には生活科と家庭部が共同制作したコサージュが付けられている。

各担任を先頭に入場する3年生の目は、まっすぐ前を見ていた。

入場の完了した学科から席に座っていく。

そして、全ての学科の入場が完了し、再び体育館は静寂に包まれる。

その静寂を切り裂くように司会者の声が発せられる。

「卒業証書授与」

まず、園芸科の担任がマイクに向かう。

そして、名簿を開き一呼吸。

「園芸科、安藤浩二」

「はい!」

担任が生徒の名前を一人ずつ呼ぶ。

「・・・南彩花」

「はい!」

彩花の名前が呼ばれ、その場に起立し壇上へと向かっていく。その姿は会長時代と何ら変わりはない。

卒業証書を受け取った彩花は自分の席へともどる。その時彩花は耕太の方を向き、笑顔を見せた。入学当初に見せていたあの上辺だけの笑顔じゃない、耕太の大好きな笑顔だった。

(綺麗だ・・・)

耕太は素直にそう思った。

「桜川奈々」

「はい!」

畜産科に入り、彩花と同じように壇上に上がっていく桜川。

その姿も副会長時代と変わりない、堂々とした姿だった。

その後、耕太の見知った先輩も次々と卒業証書を受け取り席へと戻っていった。


全ての生徒に卒業証書を渡し終わり、校長の挨拶となった。いつもは長い校長の挨拶も何故か短く感じられた。

続いて、来賓の代表として畑市長である太田が挨拶をしたあと、PTA会長が挨拶をした。

そして・・・

「在校生代表送辞。生活科2年、西野美紅」

「はい!」

美紅の挨拶の時間がやってきた。

美紅は壇上に上がり、大きく深呼吸をして話し始める。

「桜のつぼみが膨らみ始めたこの頃、この畑農業高校を旅立たれる先輩方にまず感謝を述べたいと思います・・・」

緊張しているのだろう、少し声が震えている。

しかし、話を続けていると少し慣れてきたのだろう、声の震えが小さくなった。

「私が入学したとき、多くのことを教えてくださったのはひとつ先輩である、卒業生の皆様でした。いつも優しくて、この畑農で過ごす中で支えとなっていました。昨年度の文化祭後、私は生徒会に入り、生徒会メンバーとして活動しました。不安ばかりの中で私を気にかけ、一番に話しかけてくださったのは会長である南先輩でした。自分が一番大変なのに私のことを気にかけて話しかけてくださった、それだけで私の胸はいっぱいになりました」

美紅は彩花と目を合わせ、笑顔を浮かべた。ひまわりのようなキラキラと眩しい笑顔だ。

「あの時、先輩に話しかけて頂けなかったら、私は生徒会に馴染むことができていたかわかりません。本当にありがとうございました」

そう言って美紅は頭を下げた。

「そして、私は生徒会長に就任しました。この話を聞かされたとき、本当に私でいいのかな?と思いました。その時先輩はこう言いました。


【美紅じゃなきゃだめなの。私のあとは美紅に任せたからね!】


美紅に任せたからね、この言葉を聞いた瞬間、私は生徒会長のお話を受けることを決意しました。実際生徒会長の仕事についてみると、大変なことばかりで、毎日目が回りそうでした。でも、ある後輩がこういってくれました。


【美紅先輩が言ってくれればわしはもっとがんばれますよ】


私は後輩に人を頼ることを教えられました。この言葉を聞いたとき私は嬉しかった。ありがとうって思いました」

美紅は耕太の方を見て笑顔を浮かべる。

「私はこれからもっと大きな苦難にぶつかると思います。でも私は先輩方から託されたこの畑農を、先輩方の母校をより良いものにしていきたいと思います!だから安心して旅立ってください!そして!またこの畑農に戻ってきてください!この度は、ご卒業おめでとうございます!以上、在校生代表!2年生活科西野美紅!」

美紅が礼をした瞬間、体育館内は大きな拍手の渦に包まれた。

(さすがです、美紅先輩)

耕太は美紅を心から尊敬した。

「続いて、卒業生代表答辞」

「はい!」

続いては卒業生代表の挨拶だ。挨拶を行うのはもちろん彩花だ。

最初は常套句を述べ、一呼吸おき話し始めた。

「私がこの畑農で学んだことは、これから先様々な場所で役に立つでしょう。命の大切さ、人としての在り方、そして・・・笑顔の大切さ」

彩花は耕太を見てそういった。

「私は、この畑農が、畑農の生徒が、畑農の全てが大好きです!美紅。いつも苦労ばっかかけてごめんね。美紅が頼りになるからいつも頼っちゃうんだ。さっきの挨拶、私感動しちゃった。ありがとう」

美紅は涙を流しながらもまっすぐ彩花を見ていた。

「奈々。いつも支えてくれてありがとね。厳しくて優しい奈々が大好きだよ」

桜川は唇を噛みながら笑顔を浮かべていた。

「後輩のみんな!次にこの畑農を背負っていくのは君達だよ!次代の畑農は君達に任せた!いつか私達が戻ってきたとき、笑顔で迎えられるようにしておいてね!」

1、2年生は笑い声を上げた。

「3年生のみんな!3年間お疲れ様!みんなと過ごした時間は大切な宝物だよ!ありがとう!」

3年生は隣の生徒と向き合い笑い合って、ありがとうと伝え合っていた。

「先生方!手のかかる生徒達でごめんなさい!そして、根気強く指導してくれてありがとうございました!」

先生達も笑顔だ。

「保護者の皆様。私達を支えてくださってありがとうございました!これから先もお願いします!」

保護者も笑っていた。

泣いているお父さんやおじいちゃんもいた。

「妹ちゃん!大好きだよ!でも、負けないから!」

麗華は微笑を浮かべ、こちらこそと呟いた。

「そして、生意気な後輩君。初めて会ったときは少し興味があった程度だったけど、君の見せる笑顔はとてもキラキラしてて、いつしか君の笑顔に私は憧れてた。私に本当の笑顔を教えてくれてありがとう。私は・・・私は!」

彩花は耕太の方を向き叫んだ。


「君の事が!大好きです!」


と。

奈々は微笑を浮かべ、美紅はあたふたし始め、麗華は耕太の足を踏みつけ、静音は殺気を送った。

(あんまりだ・・・)

耕太は足を押さえ悶絶しながらそう思った。

「ありがとう!みんな!また会おうね!私達は今日、この畑農を旅立ちます!3年間ありがとうございました!!以上!卒業生代表!南彩花!」

彩花は礼をして、壇上から降りた。大きな拍手が起こり、しばらく鳴り止まなかった。

実に彩花らしい挨拶だった。耕太はそう思った。


その後、校歌を斉唱し、赤絨毯を歩き退場していった。3年生は今本当の意味で【卒業生】となった。

退場中は惜しみない拍手が贈られ、卒業生は涙を流す者が多く見られた。

こうして、畑農卒業式は幕を閉じた。


耕太は卒業式終了後、来賓が畑農を後にし、生徒が帰宅した頃、校内庭園へと向かった。

「お疲れ様でした」

「お疲れ様」

そこに立っていたのは、黒髪ロング、整った顔立ち、身長はすらりと高く細身、麗華によく似た姿をし、麗華とは似ても似つかないバストを持つ美少女だった。

もちろん彩花である。

長い黒髪が茜の空になびいて綺麗だった。

「卒業おめでとうございます」

「ありがと」

彩花は笑顔で耕太の言葉に答える。その笑顔は本物だ。

「どうしたんですか?こんなとこに呼び出して」

「うん。まあ、えっと・・・」

口ごもる彩花。

「私は・・・あなたが好きです。私と付き合ってください」

やっとの思いで紡いだ言葉。

耕太はその言葉を受け止め、答えた。

「ごめんなさい」

彩花は俯く。しかし、次の瞬間。

「そっか!でもね耕太君。私は諦めないから!東京に行って、いい女になって帰ってくるんだから!待ってなさい!生意気な後輩君!」

彩花は笑顔で、そう言った。

「はい。待ってます。返事はどうなるかわかりませんけど」

耕太も笑顔で返した。

「・・・」

「・・・」

二人の間に沈黙が訪れる。

「じゃあね。耕太君」

「はい。また」

静寂を切り裂いた彩花は耕太に別れを告げ、帰宅していった。

「夕陽が綺麗だ」

耕太はそう呟いた。

遠ざかっていく彩花の後ろ姿を見つめながら。


「負けないから」

彩花はそう呟き、夕陽をみながら帰宅する足を速めた。


こうして、畑農からまた一つの学年が巣立っていった。

これから先、卒業生は多方面で活躍していくことだろう。それがどんな仕事や場所であっても、畑農で過ごした3年間は裏切らない。

そして、残された後輩達は先輩から託されたこの畑農を、より良い物にしようと決意を新たにしたのだった。

耕太は自分がその中心に立つのだと言い聞かせ、今日も生徒会室へと向かう。


続く

どうもりょうさんでございます!3学期編~旅立ち~をお送りいたしました!

ついに卒業式が終了いたしました!

これからは本格的に耕太達の時代でございます!

彩花達の卒業後はどこかに外伝として書きたいなと思っております!

さて、この3学期編ですがもう少し続きます。

3学期編が終了すれば春休み編です。

それが終われば2年目に突入いたします!これからもよろしくお願いいたします!

彩花達はちょくちょく出すつもりなのでよろしくです!

それではまた次回お会い致しましょう!


作者のもうひとつの小説「こんなの家具なわけねえ!」も読んでいただけると嬉しいです!


ブクマ、感想など頂ければ作者は泣いて喜びます

なにか、問題、ご要望があればメッセージなどいただければ嬉しいです!

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