冬休み編~祖母の心配~
甘奈が飛び込んできた訳とは!?
現在、哲也の部屋には耕太と哲也、そして息を切らした甘奈がいた。
「落ち着いたか?」
「は、はい。取り乱してすみませんでした哲也様」
甘奈は大きく息を深呼吸をして哲也の言葉に応えた。
「何があったんだ?相当なことだと思うけど」
耕太が聞く。
「はい、あれは3時間くらい前のことなんですけど・・・」
3時間前、藤崎家。
「甘奈、母さんが来てるから挨拶しておいで」
「おばあさまが?わかりました」
習い事から帰宅した甘奈に伝えられたのは、祖母の来訪の知らせだった。
甘奈は当然直ぐに挨拶へ行った。
「おばあさま、甘奈でございます」
「はいっておいで」
「失礼いたします」
甘奈は襖を開ける。
そこに座っていたのは一人の老婆だった。
名前を藤崎富子(ふじさきとみこ)、藤崎グループの会長だ。
「久しぶりだね、甘奈」
「お久しぶりでございます、おばあさま。今日はどうされたんですか?」
「なに、少しバカ息子に用があってね」
「またお説教ですか?」
「はは!そうだね!お説教さ、きっついね!」
富子は豪快に笑う。
今年で86歳、そんな風には見えない。
「ほどほどにお願いしますね」
「はっはっは!善処するよ」
こういった時の富子は絶対に容赦しない。
「ところで甘奈、下永の坊やとは仲良くやってんのかい?」
「はい、とても良くしていただいています」
「そうかい、本格的に造園屋を目指すようだね」
「夢だそうです」
「ふむ、鉄心の孫か・・・いい造園屋になったら、うちの庭でもやってもらうかね」
「ふふ、それは大変ですね」
「はっはっは!そうかもしれんな!」
富子の住む下永家本邸は、この家よりもさらに大きく、その庭も桁違いに広い。
その庭も鉄心が手掛けたものだ。
「甘奈、高校はどうするんだい?」
「はい、畑農に進学したいと思っております」
「・・・畑農に?」
「はい、哲也様と一緒の学校に進学したいのです」
「・・・ダメだね」
「え?」
「あんたに農業なんてできない、農業は楽なもんじゃないよ」
「わかっています、でも私は畑農が大好きなんです!あの空間に入ってみたい!農業を学びたい!」
「甘いね、あんたはこれまでどんな生活を送ってきた?周りは金持ちばかり、庶民となんか下永の坊やくらいだ、そんな奴が一般の高校に入ってみろ、すぐに崩れるぞ」
「そんなこと・・・」
「ないか?あたしゃ知ってるよ?あんたが今の学校で、周りの自分への接し方に疑問を抱いていること、特別扱いを嫌っていること。一般の高校に入ればそれがもっと強くなる、あんたはそんなのに耐えられるのかい?」
「耐えられます!畑農には素晴らしい方がたくさんいます!」
「とにかく、畑農進学は認めないよ。話は以上だ、下がりなさい」
「おばあさま!」
「くどい!下がりなさい!」
甘奈は強引に部屋の外へ出されてしまった。
「・・・哲也様、私はどうしたら・・・くっ!」
甘奈は家を飛び出した。
「そして、今に至ると」
「はい・・・」
「なるほどね、んーどうしたもんかね~」
「下永、どうするんだ?」
「そうだねー。俺っちあのばあちゃん苦手なんだよな~」
「そうなのか?」
「なんか、オーラがにじみ出てるんだよね~覇気っていうの?あんなのが」
「どんなおばあちゃんだよ・・・」
「とにかくおばあさまはすごいお方です」
「よし、じゃあ明日話に行こうか」
「いくのか?下永」
「うん、俺っちが行ってどうにかなるかはわからないけど、行かないことには始まらないからね~」
「そうか」
「哲也様、申し訳ございません」
甘奈は頭を下げる。
「よし、じゃあ甘奈」
「はい」
「今日は泊まっていきなよ」
「よろしいのですか?」
「ああ、構わないよ」
「そうしなよ、甘奈ちゃん」
「申し訳ございません」
甘奈は再び頭を下げた。
「どうすんだ?下永」
「さて、どうしようね~」
哲也はいつもの軽い感じで話す。
「軽いな」
「なんか変な感じがするんだよね~」
「変な感じ?」
「うん、本当におばあちゃんは畑農進学に反対してるのかな~って」
「そうじゃないのか?」
「なんか裏がありそうなんだよね~なんというか、甘奈を試しているような。いや、俺っちか?」
「お前の勘がそう言うなら、可能性はあるんだろう。まあ、明日行ってみればわかるだろうさ」
「そーだねー。力を貸してくれるかい?親友」
「当たり前だ、貸一つだぜ」
「おっきい貸しだな~」
「ちゃんと返してもらうからな」
二人は小さく笑いあった
翌日、耕太、哲也、甘奈の3人は藤崎家へとやってきた。
「相変わらずでっかい家だな~」
耕太がため息混じりに呟く。
「耕ちゃ~ん、行くよ~」
「おう!」
3人は家の中へと入っていった。
そして、富子が宿泊している部屋へと到着した。
「おばあさま、甘奈です」
「入りな」
襖を開け、甘奈が入っていく。
それに続き、哲也と耕太も入室していく。
「お久しぶりですね、おばあさん」
「久しぶりだね、下永の坊や。そっちの子は初めてだね」
「初めまして、川島耕太と申します。畑農業高校の1年生で下永と同じクラスです」
「そうかい、で?この子達を連れてきてなんの話をしようってんだい?」
富子は目を細めて甘奈に問う。
「畑農進学のことです」
「そのことは却下したはずだけど?」
「私はどうしても畑農に進学したいのです!」
「そこの二人はどう思っているんだい?」
富子は目を耕太と哲也に移す。
「俺っちは別に大丈夫だと思いますよ?甘奈は意外に根性ありますし」
「そこの坊やはどうだい?」
「・・・逆に聞きますが、なぜあなたはそこまで反対するんですか?」
富子に質問をする耕太。
「・・・この子に農業なんてできないよ、それにこの境遇で育った甘奈には一般の高校じゃまともに生活なんてできないよ」
「・・・おばあさん」
「なんだい?」
「あなたは畑農のことは悪いように言わないんですね」
「・・・あんた何者だい?」
「普通の農業高校生です」
甘奈は口を開けて呆けていた。
哲也は少し笑みを浮かべていた。
「確かに畑農の評価を聞く限り、悪い学校ではないとは思っているよ。でもね、農業は軽い気持ちでやっていいものじゃない、それはあんたらが一番わかってるいるんじゃないのかい?」
「確かにそうですね」
「そうだね~」
「だろう?軽い気持ちでやっていいものじゃない、命を扱うものだからね」
「そうですね、確かに簡単にやっていいものじゃない」
「そうだろうね」
「だけど!」
「!?」
耕太は語調を強める。
「畑農は農業高校です、学校は学びの場です。実際わしも最初は何も考えず、先生に勧められたから進学しただけです。ですが、進学して学んだこともあります。命の大切さ、命をもらうことの尊さ。生きているわし達がいかに他の命に生かされているか。最初のきっかけはなんでもいいんです、わしは多くの人に農業の難しさ、大切さ、厳しさを知ってもらいたい。ましてや、甘奈ちゃんは農業を学びたいと思ってくれている、それなら尚更畑農に来て欲しい!」
「!・・・しかし!甘奈の育った境遇は・・・!」
「おばあちゃん」
そこで口を開いたのは哲也だった。
「畑農に境遇なんて関係ない、こんな熱い思いを持ったやつが生徒会副会長なんだよ?1部はそうはいかないかもしれない、でもそこは俺たち上級生や、生徒会、先生が対応してくれる。一般の高校って言うけど、うちは一般の高校とは違う。農業高校だ、だから大丈夫だよおばあちゃん」
「しかしだな・・・」
「甘奈」
「は、はい!」
哲也は甘奈に問う。
「お前は畑農に来たいか?農業を学びたいか?」
「はい、私は畑農であの空間で農業を学びたい!皆さんと一緒に過ごしてみたい!」
「おばあちゃん、甘奈がこんなこと言ったことあった?自分で自分のやりたいことを伝えることがあった?」
「・・・」
「甘奈の気持ち、尊重してあげたら?」
「・・・ふむ・・・わかった」
「おばあさま!」
「だが!投げ出したりしたら許さないよ」
「はい!おばあさま!」
甘奈は笑顔で、そして堂々と返事をした。
こうして、甘奈は富子の許可を取ることができた。
「やっぱり最初から試してたんですね、おばあちゃん」
「こうまでしないと、ホントの甘奈の気持ちを引き出せないからね」
「まったく、このおばあちゃんは・・・」
「ははは、結局おばあさんも孫思いのおばあちゃんってことだな」
「はっはっは!そうだね!甘奈のことは大切だからね!」
富子は笑いながら答える。
「しかし、川島君といったかい?」
「はい」
富子は耕太を見る。
「あんたは勘がいいみたいだね、下永の坊やと似とる」
「少しですよ少しだけ、下永の方がよっぽど勘がいいです」
「はっはっは!そうかね!でも、まさか文化祭の時下永の坊やと歌っていたあの子を連れてくるとは思わなかったよ」
「え?まさか・・・文化祭に・・・」
「行ったよ、君の歌も聴いた」
耕太は口を開けたまま固まる。
「おーーー・・・ノオオオオオオオオ!!!!」
耕太は頭を抱えてうずくまった。
「ははははは♪耕ちゃんおもろー!!」
「があああああ!!」
富子は笑顔でその様子を見ていた。
「この子が副会長なら安心だ、甘奈」
「はい」
甘奈に諭すように言う。
「がんばりな」
「はい、もちろんです」
その後、耕太は富子に無理やり歌わせられた。
そして、お泊まり会は終了し、耕太の家へと哲也がやってくる番となった。
続く
どうもりょうさんです!冬休み編~祖母の心配~をお送りしました!
今回は甘奈と祖母富子とのお話でした。
ちょっと耕太が出しゃばり気味ですが・・・だらだら話しすぎですね・・・
さてさて、今回で哲也の家へのお泊りは終了し、耕太の家へのお泊まり会となります。
耕太の過去を知ることになる哲也。
どうなるかは次回のお楽しみ!
それではまた次回お会い致しましょう!
作者のもうひとつの小説「こんなの家具なわけねえ!」も読んでいただけると嬉しいです!
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